「をり」「なり」「たり」の違いについて | ouroboros-34のブログ

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こころに映りゆく由無しごとを其処は可となく書き付けて
ごうなっだのでありますぐるらめ。

第30回blog「悠々自適」句会のテーマは、「をり」「たり」「なり」を使いこなそう、でした。

よく目にする慣れた用法のはずでしたが、意外に難しく、ウィッグのようにしっくりゆくときとゆかないときがありました。
そこで、使い方の違いを調べてみました。
  以下、〇:主宰の例示句より

§§ 「なり」と「たり」

「なり」には、助動詞としての働きと、形容動詞としての働きがあります。(接助・副助もありますが省略)
「たり」にも同様、助動詞と形容動詞の働きがあります。
まず、

§助動詞「なり」には二つの顔①②があります。

①「なり」(伝聞・推定)話・音がきこえてくる。「ね(音)あり」から来たコトバ。
意味:ようだ。らしい。そうだ。
動詞などに接続する。例:居留守すなり。

②「なり」(断定)事物・動作を説明し断定する。「にあり」から来たコトバ。
意味:である。だ。
名詞などや連体形に接続する。例:居留守なり。居留守するなり。
〇帰るなり〇匂ふなり〇睡るなり     
動詞には、連体形に付く(終止形ではない)ことに注意してください。(「立つ」は、✖立つなり◎立つるなり)

※ もうひとつは「形容動詞」としての働きです。
これは「たり」と同類なので、いっしょにのちに説明します。

※もう一つ、動詞の「なる」(成る・為る)が混同しやすいと思います。「なる」(四段活用)の連用形が「なり」だからです。
例:「齢(よわい)になりにけり」と「齢なり」は同じではありません。「齢に成る」と「齢也」のちがいです。
(―になる)⇔(―である)。(60歳になる)と(60歳である)。

§「たり」

「たり」にも「なり」と同様、助動詞と形容動詞の働きがあります。

§まず、助動詞としての「たり」です。

①「たり」(完了)動作・作用がすでに終わってその結果が存続している。「てあり」から来たコトバ。(「て」は、完了の助動詞「つ」の連用形)
意味:た。ている。てしまう。
動詞などの連用形に接続する。例:居留守したり。
60歳になりたり。
〇縛したり
〇睡りたり

②「たり」(強調・指定)資格・存在・状態を強く指定する。「とあり」から来たコトバ。
意味:なのだ。
体言に接続する。例:居留守たり。
60歳たり
〇詩人たり

§形容動詞の「なり」「たり」

「なり」は、語尾に「に」を持つ副詞が動詞「あり」と結合したもの「にあり」です。ナリ活用。
な状態にある。 例:静か・なり
「たり」は、語尾に「と」を持つ副詞が動詞「あり」と結合したもの「とあり」です。タリ活用。
としている。例:堂々・たり
変化は        未然  連用  終止  連体  已然  
「なり」はナリ活用 ―なら ―なり ―なり ―なる ―なれ 
              ―に    
「たり」はタリ活用 ―たら ―たり ―たり ―たる ―たれ
              ―と             
       
§§ 「をり」

「をり」は、「なり」「たり」とは全く違います。

(そこにある・そこにとどまっている)の意味の動詞(ラ行四段)です。
つまり、「なり」と「たり」はそれだけでは用が足りませんが、「をり」はそれだけで使いますので明確に区別する必要があります。例:居留守しをり。
60歳になりをり。
〇睡りをり〇遊びをり〇刈りてをり

※ここまで整理したところ、『俳句ポスト365』〈白靴〉の火曜日に「けり」と「き」の違いについて質問がありました。以下追加しておきます。

§§ 「けり」

「けり」(過去)伝聞や気付いたことを回想する。過去の助動詞「き」と「あり」が接続してできたコトバ。(下記の「き」を見てください)
意味:たそうだ。たのだった。
動詞などの連用形に付く。例:居留守しけり。

§§ 「き」

「き」(過去)過去の事実の回想。
意味:た。たのだ。例:居留守しき。


まとめ:
(例)紫陽花に下げ札いまは居留守なり    ウロ

居留守すなり   居留守しているようだ。(伝聞・推定)
居留守なり    居留守である。(断定)
居留守するなり  居留守する。(説明)
居留守したり   居留守した。(完了)
居留守たり    居留守なのだ(強調・指定)
居留守しをり   居留守している。(動詞「居る」存在・状態)
居留守しけり   居留守したのだそうです。(伝聞の回想)
居留守しき    居留守したのです。(回想)
                       以上

今回の投句では、
「をり」19句
「なり」12句(動詞についたもの:7句、名詞についたもの:3句、誤り:2句)
「たり」7句
形容動詞型はひとつも無かったのが意外でした。

わたしたちは、ニホン古語のDNAを持っており体質となって流れ続けています。その声に耳を傾けていれば大きな間違いはしないでしょう。ただ、意味が微妙なところでムカシとは変わっており、これはどうにもならないことです。口にしてみてぎこちないようでなければ、新しい使い方をしても許されるべきだと思いますがいかがでしょうか。