きのうは四月一日。新聞もこの日は羽目をはずす。――おもしろい。
病院の予約の日だったので出かけたのだが、医師をだますわけにはいかん。
バス待ちでうしろについたおばさんが、これ循環バスですよねえ、と訊いてきた。ええそうです、と言ってから、あそうだこのおばさんをカツゲばよかった、と思った。チラ見したらひとのよさそうなおばさんだったので騙さなくてよかったと思った。あっちの列ですよ、あ…これウソ。じゃ通じないだろう。かかえている牡丹餅の匂いがぷうんとした。
うちに帰って女房をカツグ隙を窺っているが、こう周りがエイプリルフールを囃し立てては成功は覚束ない。もう寝ようかという、すうっとした精神の空間を見計らってさりげなく、ガスの元栓オレ消しとこうか、と言った。寝る前に必ず元栓を見る習慣がときどき忘れることが増えてきている。
女房はジィっと考えている。すこし深刻へと傾斜する気配。顔をあげて「きょうはわたし、点けてませんけど」にやりとうわ目でオレを見た。
女房にはかつがれてオレは不発。導火線がブスブス燻ったまま床についた。
夢をみた。夢はいつでも四月一日だ。いつもオレをかつぐ。
エイプリルフール当日のユメ。どんな光景でオレを「夢中」にさせるのだろう。楽しみでもあった。――さて、
――夜だった。居間。もう寝ましょうか、家内のこえ。電器店のショースペースに展示してあるようなおおきなテレビからは「……は、ですね、……は、ですね、……粛々と……」国会答弁中。さて、と、テレビの消し方がわからない。すこし慌てる。あれ? どこを押すのだったかな? あせる。ぼけていることにあせる。どこを押しても消えてくれない。思いついて電源を抜く。画面がゆっくり暗くなりながら、ゼンマイのゆるんだ蓄音機のように美空ひばりのこえが広沢虎造の声に変わってゆく。電気は消えたのに野太い声の唸りぶしだけがますますゆっくりになりながら消えないで暗闇の中に押し出ている。ゆっくりとゆううっくううりいいいとおおおお…
飛び起きる。恐ろしかった。どこがエイプリルだ。腹が立ってきた。どやしつけようと居間に行ったら、テレビは無かった。
うちにはテレビがもともと無かったのだった。(筆者註 ouroboros-34の「プロフィール」をごらんください)
夢はいつでも四月一日だ。いつだってオレをかつぐ。