初恋はテンプルちゃんだ。シャーリー・テンプル Shirley Jane Temple は銀幕のスター。リボンの似合うそれはそれは可愛い少女だった。寒い朝、ちょっと濡らした指先を頬にちょんちょんとつけて洗顔したことにするその仕種がたまらなかった。五歳の自分にもういちどなりたいものだと、このごろ思う。
二番目の初恋は同級生の小笠原さん。低いほうの鉄棒で逆上がりしたときにピンクのパンツが閃いてすっかり虜になった。いっしょにいた渡辺さんもテンプルちゃん型の美人で黄色いパンツをはいていたが、小笠原さんの唇の下、右あごのほくろが二番目の決め手になったかもしれない。満洲国牡丹江市聖林小学校三年生時分の思い出である。
小笠原さんはいつのまにか春風亭小朝の母親になっていた。どういう手をつかってあの僕の大好きな小朝師匠の母親の座を獲得したのだろうか。
以上、去年いま時分、東京新聞に投稿したものだがボツになったものである。テンプルちゃんが亡くなって一周忌はわが幼年期のほろ苦い思い出の一周忌でもあるのだ。5歳のボクを散々からかった母もいない。
もういっぺんテンプルちゃんの映画を見たい。亡き母にからかわれたい。
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