**今日読んだ本**


たった、それだけ/宮下奈都


切ない話だった。ルイの父も母も。

主人公が章ごとに変わる連作短編集。

贈賄で逃亡した望月正幸の姉の章の言葉が残った。


「逃げるな、なんて言えない。そんなことを言うのは、逃げなくてよかった人だ。

無事に生き延びられたのは逃げなかったからではなくて、

たまたま運がよかっただけかもしれない。

逃げなかったせいで潰れた人はたくさんいるだろう。

もっと厳しい目に遭った人、もっとぎりぎりの場所に立っている人のことは、他人にはわからない。

弟はきっと、逃げるなと叱った父には想像もできなかった場所にいたのだろう。

逃げてはいけないと思いながら逃げざるを得なかった。

その孤独を思うと涙が出そうになる。」