降ればどしゃ降り CAT&DOG -3ページ目

降ればどしゃ降り CAT&DOG

『青の軌跡』萌え語りメイン
時々、二次創作。多分にBLネタを含むのでご注意ください

実は三月七日に書きあがっていた記事を今になってようやく上げます。

 FAMILYを書くにあたってイロイロ想定していた覚書みたいなもの? というか。

ぶっちゃけ、独り月に残るカイが可哀そうだからというのが本心だったりするww

 そうでなくとも藍が来るまで小舅(凱)と職場が同じだけでなく同居だったなんて新婚からある意味罰ゲーム、だと思いませんか ( ;∀;)

 

  カイは生き物の飼育に向いていないだけではなく、ネコ科の動物とはことごとく相性が悪いという設定に原作ではなっている。

 ということでそのカイに生き物、それもネコを飼わせて懐かせるにはどうすればいいか、ということで瀕死の子猫という設定をしてみた。

 というのもミルクから排泄まで一切の世話をしなくてはいけないという点で、ヒトの新生児と近い環境になると思ったから……そうなると藍を育てたときとはまた違うモノが家族に現れるんじゃないかと 笑

 同時に月で一人家族の帰りを待つカイには家族のような存在を作ることになる。そしてひとり寂しい時、膝に抱き、話しかけ、言葉を解さないからこそ打ち明けられるアニマルセラピストの役目を与えてみよーかと。←このためにツヴァイは単色ではなく、タキシード白手袋柄に設定。リリアンに後日、蝶ネクタイ風の首輪をプレゼントさせることにしておいた。

 アニマルセラピー、カイ自身に自覚はあったかどうかは謎だけど、ジュール・ヴェルヌ時代の三四郎の態度に割と近い部分があると考えている。あの当時のカイはふとした拍子に凱が聞きださなくてはならないようなことを打ち明けていたから。

 あ?カウンセラーの凱? 凱に『三四郎に逢いたい、寂しい』というカイの心の内を、延々と聞き続ける度胸があるんですかねぇぇぇぇ

 

 一方、藍にはプチ赤ちゃん返りをさせてみた 笑 子どものように甘えることのできない年齢だからこその嫉妬。

 カイに抱っこされたい~の、言葉だけじゃなくでなでなでして褒めて欲し~の、同じベッドで寝てみたい~の……4才なら許されたかも。

 

 ところで本文中では、カイがミミズ腫れを作ってますが、当初はバックで頑張る三四郎のヒップの向こうに見え隠れするタマ袋に飛び掛かることになっていました……

 じゃれつく猫の殺意のない気配は敏感な傭兵のセンサーをすり抜けるハズ

 

 

炙り出し的ココロ

 

 チチチという小さな舌打ちの音にツヴァイの耳がピクリと反応し抱きかかえる腕の中でもがき始めた。

廊下の向こうから張りのあるバリトンがチビという愛称を呼んでいる。ツヴァイがチビと呼ばれて反応するのはこの声の主だけだ。

「ここにいるわよ」

リリアンはもがく子猫を離さず引き取りに来るのを待つ。その表情は剣呑だ。

「もう、どうして夜中に部屋の外に出したの」

ほっとした表情で受け取ろうとした三四郎の手から遠ざけリリアンは睨み上げた。

「戸口でずっと鳴いていたのよ」

深夜、静かな廊下に猫の鳴き声は良く響いた。女性が生まれ持つ本能のなせる業か、リリアンはまだ子猫の面影の残る鳴き声を無視できず部屋を出たのだ。

 そして見つけたのはカイの部屋のドアをしきりにひっかいて鳴き続けるツヴァイと、廊下の奥にぽつんと置かれたクッションとネコ用のトイレだ。

「ずっとカイの部屋で寝かせていたんでしょ、酷いんじゃない」

険しい視線に空々しく男が目を逸らす。

「三四郎が勝手に追い出したんでしよう」

「追い出しちゃねえ、ちゃんと寝床は作ったし終わったら部屋に入れるつもりだった」

何が終わったかは聞かずにリリアンは視線だけで先を促す。

「……この間じゃれついたチビがカイにミミズ腫れを付けたからしょうがねえだろ」

開き直ったように胸を張った三四郎が白状する。

「最初は大人しく寝ていたんだ……でも途中で目を覚まして……」

 

 最後の追い込みだった、深く繋がった部分だけで上り詰めさせようと背後から膝が浮きかけるほど高く腰を上げさせ責め苛んだ。それはカイも同じ思いだった。いく度も昇り詰め体力の限界が近い中、与えられる刺激だけで弾けたくて内側で暴れる楔の身に神経を集中していた。

 あともう少し       弾ける寸前の焼けつくような焦燥に急かされシーツを握りしめ胸で体重を支えて喘ぐカイの浮いた腰の下に目覚めたツヴァイが走り込んだのだ。

 そしてカイの下腹で三四郎の律動に揺れる昂ぶりにじゃれついたのだ……

 

「頑張ってたんだぞ、あとちょっとでイクとこだったんだぞ」

三四郎の嘆きは深い。

 触れられず寸止めを強いられていたカイにとって猫の爪が与えた刺激は鮮烈過ぎた。思いがけない快感に弾けてしまったカイと、迸りを浴びて硬直し動けないツヴァイと、滾ったまま取り残された三四郎と……

 悲劇なのか喜劇なのかわからない結末にリリアンは声を失う。

「あんな終わり方はねえだろ、カイはミミズ腫れができちまうし、チビは汚れちまうし……真夜中にカイの怪我を消毒したりチビを洗ったりで散々だった」

だから廊下に出した判断は間違っていないと三四郎が力説する。

「わかったわ……しばらく夜は私が預かってあげる」

切々と笑える悲劇を嘆いていた男がぱっと顔を輝かせた。

「さすがサンドラの娘、話が早い」
「こんなこと藍に頼めないでしょ」

ツヴァイを抱くカイを見る藍の視線の意味を幼馴染であり、観察者でもあるリリアンは気付いている。その彼女にとってツヴァイが引き起こすだろう嵐は楽しみ以外なにものでもないのだ。

 ツヴァイを抱いて部屋に戻る三四郎を見送る彼女の目は子猫以上に輝いている。

 この休暇は予想以上に楽しいものになりそうだった……

 

 遊び盛りの子猫にとって暗がりでヒクンヒクンと揺れ動く物体なんて絶好のおもちゃだと思う……爪を立てて飛びつき噛みつきぶら下がり……

寝室にペットを入れてはいけません

以下妄想文につき注意

 

 

 まるで教科書のお手本のようにすっきりと背を伸ばし、アンティークのハイチェアーの背凭れを無駄にする姿勢で座るカイの膝の上に子猫がちょこんと乗っている。彼が膝に乗せるのはメディカルチェックを除いて爪切とブラッシングの時くらいだ。

「ブラッシングを始めるのか」

不必要に猫に触れないカイは不思議そうに膝に乗せた三四郎を見上げた。

「こうして撫でてみろよ」

カイの手を掴み三四郎が猫の背を撫でさせる。ゆったりとした手の動きにもっと心地い部分を撫でろと猫が手に頭を擦り寄せ喉を鳴らした.。

「ごろごろいっている」

自分から働きかけ懐かせることなど考えたこともなかったカイは目を見張った。

「懐かれて悪い気がしないだろ」

「……そうだな」

今度は意思を持って膝の上で寛ぐ子猫を撫でてみる。

 引き取った藍が懐くまでカイは積極的に関わろうとせず観察するに留めていた。放任主義と言えば聞こえがいいがあの頃の藍を『愛おしい』と感じていたのかカイには自信がなかった。

 ここまで愛おしく思えるようになったのは藍が笑いかけてくれるからだ。

 ごろごろと喉を鳴らす猫がたどたどしい手に頭部を押し付ける。

 また同じことを繰り返していた訳だ、母をめぐっての確執で反発する『イシス』に積極的に関わろうとしたドレイクと自分を引き比べたカイは自嘲とともに、無条件に愛情をくれた養父に感謝する。

「可愛いものだな」

ごく自然に可愛いという感情が正論ばかり吐き出す口から零れ出る。心地よい抑揚のあるハスキーヴォイスが彼の気持ちをはっきりと教えている。

 そんな微笑ましいような猫と保護者二人の交流を藍は鼻を鳴らして少し離れた場所から見ていた。

 気に入らない      生まれた我が子をまるで初めて抱かせてもらった父親のようにおぼつかない手つきのカイも、猫の接し方をレクチャーする三四郎も、喉を鳴らして甘える猫も。仲睦まじく寄り添う彼らはまるで種族を越えた本当の『親子』のようだ。

 予想もしなかった疎外感を抱え藍は漠然と、もしもっと幼い頃に引き取られていたらカイはあんな風に膝に抱いて撫でてくれただろうかと考える。

 一緒のベッドで眠ることを許し、食事は口に運び髪を梳き爪を整えて、入浴も……一通りの躾を施され自我の芽生えた年齢で引き取られてきた藍は子猫が受けている恩恵を経験していない。

 自分には与えられなかったものを突き付けられた藍の葛藤を知らぬげに三四郎が猫を愛撫するカイから顔を彼に向けた。

「おにーちゃんがきたぞ」

猫の兄扱いを咎めるどころかカイは藍の葛藤を知りながら容認している。

「藍も抱いてみますか」

笑みを湛える優しい瞳の色が痛い。

「生き物が好きな藍なら気に入ると思いますよ」

彼の中で疼く痛みも子猫と触れ合えば消えるとカイは考えているのだ。

 強くて優しくて残酷な月人       絶対にこれからも与えられることのない経験と、ヒトではないが故に許されるポジションを羨みながら藍は新しい家族を抱き上げた。

 

以下妄想文につき注意

 

 黒幇から藍を引き取り6年になろうとしている。月にやって来た当初、まるで野童のように神経をそばだて油断なく周囲の気配を窺い見ていた少年はカイの養育を受け別人のような人生を歩み始めていた。

 良家の子弟の習慣に倣いしばらくは家庭教師とコンピューターによる教育を施されたのち士官学校へと進んだ彼は、めきめきと頭角を現した。物心つく頃まで黒幇で育ったせいか士官学校の生活は性に合っていたのだろう。

 月の若き指導者の養い子として申し分のない品行方正な大人びた優等生、それが現在の藍の世間の評価だった。

 

 プライヴェートエリアの書斎で三四郎からの通信を繋いだカイはモニターの向こうで三四郎の眉が軽く顰められたのに気付いた。数度瞬いた彼は信じられないようなものを見たかのように首を捻った。

「なにか?」

       なんかさっきからあんたの手元で毛だまりがゴソゴソ動いてるんだが、藍にペットの世話を押し付けられたのか

存在そのものが『愛玩動物』のような月人のカイは基本、生き物と相性が悪い。育てた藍にすら『飼育に向いてない』と言い切られてしまうほどだ。そんなカイが好き好んで生き物を傍に置くはずはない、眉を顰めた三四郎にカイは手元の毛だまりを持ち上げて見せる。

「公邸の中庭で死にかけていたのを私が見つけた」

モニターに大きく映し出させたのは青と金色のオッドアイをした黒のオスの子猫だ。黒と言っても首元と前脚の一部が白く丁度、タキシードに白手袋を嵌めた様な柄になっている。

「見付けた時には眼病で目も開けられない状態だった」

      で……あんたが育てているっていうのか。どういう風の吹き回しだ、らしくねえって言うか、そこまで優しくもなければ暇でもないだろ

目を丸くして尋ねる三四郎にカイは苦笑した、飼って世話をしようと決めた時、同じことを自分も思ったからだ。

「どうしてかな……たぶん、警備網を潜り抜けて公邸に入り込んだ運の強さと私を呼ぶ生命力に惹かれたんだと思う。それに育てたら昆虫に夢中になっていた頃の藍の気持ちが理解できそうな気がした」

公邸の中庭や徘徊した街中で採取した様々な昆虫を幼い藍は自室で飼育し繁殖させていた。とても昆虫は好きになれなかったが、藍のそうした行動を解りたいという気持ちはずっとカイの心の隅に残っていた。

「今のところ順調にできていると思う」

良く見えるようにとコンソールに下ろされた子猫に三四郎が小さく舌を鳴らし軽く指を振った。音に反応した子猫が指の動きに二色の目を輝かせモニターに突進する。子猫らしいおぼつかない動きではあったがその仕草には肉食獣の片鱗が現れている。

       ちっこいのにいっちょ前だな

 身を低く伏せ動きを窺う子猫を眺める三四郎は楽しそうだ。巧みに猫をからかい遊ばせるその様子をカイは複雑な思いで眺めた。

 運動は飼育に不可欠な要素だとして適切な遊具を与えはしても、敢えてそれで子猫と一緒に楽しもうと思ったことはない。否、楽しめるとは考えたことはなかった。それどころかその姿をメイドたちが言うように『かわいい』と感じたことすらない。

       なんて名前だ

人差し指を挑発するように子猫の視線の先に立てた三四郎がのんびりと尋ねてきた。彼の目はまっすぐに真ん丸なオッドアイを捉えている。

 そういえばこんな風に目を合せることはなかったな       健康状態を確認するとき以外カイが煌めくオッドアイを注視したことはない。

 だから三四郎は意思の疎通が図れたような気分になり楽しめるのか。だとするのなら昆虫を間近で観察していた藍もそうだったのかもしれない。

 生真面目に分析をしながらカイは答えた。

「ツヴァイ、数字の2を意味する」

夢中になってモニター越しににらめっこをしていた三四郎が息を飲んでカイを見た。

       ってことはこいつはミルクの時からあんたが育てている藍の弟分ってことか!!

猫と人を同列に考えるな、という窘めは三四郎の屈託もない笑顔に遮られた。

       よーし、決めた。今のヤマが片付いたらあんたのところに帰る。

「!!」」

絶句したカイを他所に三四郎は楽し気に言い放つ。

        新しい家族の藍の弟分に挨拶しなくちゃな

ずっと逢える日を待ち続けているカイの心情を思いもしないで、じゃれつく子猫のために男は帰るという。

「………勝手にしろ」

素直に喜べない、柔らかく耳に心地よいはずのハスキーヴォイスの中に棘が混じる。

        なんだ、猫に妬いてるのか、変なヤツ

こういうときだけ聡くなる三四郎にカレイドスコープアイズが一瞬で鮮やかなピジョンブラッドに色を変えた。目を細めた三四郎がその変化を見詰める。

        藍が家を出てからこうしてたまに連絡入れみるとさ、あんたは月で独りうまくやってるみたいで、なんかこう帰りそびれるっていうか、まぁいいかってなっちまうんだ

どれほど逢いたくとも帰還を求めないカイの意地と気丈さが、彼を信頼する三四郎を安心させ遠のかせていたのだ。

        こんな切っ掛けでもないとまたずるずる仕事を続けちまうことになる

俺も金が要るからな、三四郎が苦笑しして赤い目に笑いかける。

        へへ……そんな目玉の色を見ると、ムチャクチャ逢いたくなる

傍にいようものなら間髪入れず加えられる制裁もこの距離では届かない。気に留めていなかった距離を今更のように三四郎は実感したらしい。

「………もの好きな」

必要以上に硬く平板な声に口角を吊り上げた三四郎が小さく舌を鳴らした。びくりと子猫の耳を反応させたその舌打ちは先ほどとは少し音色が違った。

 激しい情交の余韻の残る中での他愛もない戯れで交わす口付けの音だ、触れ合えない距離を濡れた音が埋めていく。

 カイは目を閉じ啄むような口付けを耳で受け止める。

 幾多の相手と数えきれないキスをしてきたカイの知らないやり方、感じたことのない官能、音だけのそれはもどかしいくせに思いもよらない深いところまで届く。

 舌が鳴るたび瞼の中で薄れる赤に代わって艶が生まれる。長いあいだ点ることのかった発情の灯火が虹彩にほのかに煌めく。

 これ以上、体温が上がらないよう熱を逃がした吐息を高性能の収音マイクが三四郎に届けた。

 目を閉じていてもモニターの中で音の口付けを止めた三四郎が躾の良い犬のようにカイからのキスを待っているのがわかる。

 視線に質量はない、しかしモニターから届くそれには光の粒子という熱と重量を持っている。キスをねだる視線の耐えられない熱さと重みに負け、カイは目を伏せたまま微かに舌を鳴らした。と、音に釣られモニターの前で右往左往していた子猫が無邪気なまあるい目でカイを振り返りみぃと鳴いた。

       チビを呼んだんじゃねえぞ

恋人のキスに乱入した新たな家族を軽く眉を上げいなした三四郎が熱を持て余し俯くカイにひときわ高い口付けをした。

       すぐに帰る……

 

 

 寝室の長い毛足のフェイクファー製のラグの上で一人と一匹が警戒心の欠片もなく眠っている。一人はクッションを枕に、一匹は急所の腹を曝け出し猫とは思えないほど人間じみた格好で熟睡している。。

 彼らの周囲には丸めたナプキンや紙の切れ端が転がり、無造作に床に置かれたトレイには食べ散らした食事の残骸がわずかに残っていた。

 カイが官邸から戻るまでに初対面同士の家族はこのラグの上ですっかり打ち解けたらしい。厨房から取り寄せた酒肴を分かち、種族を越えてじゃれ遊んだのだ。

 遊び疲れた子どものようだ……ツヴァイのおもちゃにしたらしい5㎝ほどの骨を皿に戻してカイは微笑む。そして引き取った経緯に加え反抗期に入った藍も、離れて暮らす父親といつかこんな風に打ち解けられるのだろうかと夢想する。

 だが成長した藍と三四郎の交流を楽しみに待つカイの思い描くそこに彼自身の姿はなかった。そしてそれを妙だとも思っていない。家族を俯瞰して眺めるカイが一歩引いた『保護者』であり続ける理由はその自覚のなさにあるのかもしれない。

 藍がもう少し大人になれば解るようになるだろう……三四郎の成長は期待せず藍に希望を託してカイは意識を現実に切り替えた。予定より早く到着した三四郎に合わせスケジュールを調整し公邸に戻ってカイは僅かな空き時間でも有効に利用する必要があった。

 地球から藍が戻るまで持ち帰った仕事を片付けようと寝室に隣接する書斎に向かいかけた彼を不機嫌なバリトンが引き留めた。

「どうしてそこで寝込みを襲うんじゃなくて仕事なんだ」

振り返ってみると三四郎は先ほどと寸分違わぬ格好で横たわり目を閉じている。

「こんなに隙だらけだっていうのに……期待してあんたが乗っかって来るの待っていたんだぞ」

深く眠っていた三四郎の目覚める気配は全く感じられなかった、勘の鋭い男はカイの気配の変化を察知し一瞬で覚醒したのだ。うっすらと開いたアーモンドアイズが意表を突かれたカイを捕捉する。

「まだ仕事が残っている」

軽く持ち上げた秘書官から託されたファイルを鼻で笑って三四郎が舌を鳴らした。子猫の注意を引いた時のように小刻みに指でベルトのバックルを叩く。

 口付けの音とは違う、なのに身体が勝手にそれを期待し始めた       モニターとスピーカーを通してでさえ熱と質量のあった眼差しと音が中途半端に燻り続けていた身体に容易く火をつけた。

 硬い爪に弾かれ金属音を立てるバックルから目が離せない、キャットフードの缶を叩く音で餌の時間を知らされた猫のように喉が鳴る。

「……私は猫か」

「猫を抱いたことはねえなぁ」

真面目なのか惚けているのかわからない答えに苦笑したカイはファイルを壁際の花台に置き乱雑に靴を脱いだ。

 そして四つ這いでラグで待つ三四郎に近付きバックルを鳴らす指に容赦なく噛み付いた。

「いってーっ!!」

慌てて手を引き、滲む血に顔を顰めた三四郎に留飲を下げカイは伸し掛かる。

「猫は指を使わない」

軽く拳を握りだから服はおまえが脱がせろと凄んで見せる。内側の熱を感じさせないおまえの遊びに付き合ってやるのだと言いたげな表情に目を見張った三四郎が吹き出した。

「その代わり爪は立てるんだろ」

 

 「カイはまだ官邸で仕事中?」

出迎えた公邸の管理を任されている執事のような月人に藍は制帽とジャケットを渡しながら尋ねた。子どもの頃からずっと仕える彼に挨拶もそこそこのその様を、一緒のタクシーでやって来たリリアンが呆れたように眺めている。

 三四郎の帰還に合わせての帰省だというのに、実の父のことは眼中にないのだ。

「お昼前に帰宅なさった三四郎さまとご一緒に藍さまのお帰りを待ちたいと一時間ほど前に官邸から戻られました」

「三四郎がもう帰っているの?!」

予定では今夜の到着便で帰還のはずだった。

「早い便にキャンセルが出たと伺ってます」

三四郎の勤務先である辺境紛争地域からの移動は乗り継ぎが不可欠で、フライトキャンセルも少なくない。ましてや高級リゾート地の月への直行便などありえない。

 悪運のいい奴、舌打ちした藍は三四郎が定期旅客便ではなく貨物輸送船で移動したのを察した。積み荷によっては最短最速で船は移動する。三四郎はターミナルコロニーでそういった船にクルーとして潜り込んだのだ。

「先を越されちっゃたわね」

リリアンの慰めにもならない慰めを無視し、ぐっと視線に力を込めた藍は走り出さないのが不思議なくらいの速足でエントランスホールを抜ける。

 カイはもう僕が着いたのを知っている……

 ついも帰宅を告げに出向いた私室でカイは藍がノックするより早くドアを開いてくれる、類稀な能力で帰還を察知しどれほど忙しくても手を止め、部屋で暖かく迎えてくれた。

 だから今日も……

「ちょっと藍、待ってよ。私もカイと三四郎に挨拶したいから」

小走りに追って来たリリアンが肩を並べる。

「三四郎、少しは年を取ったかしら」

カイと三四郎、二人に逢うのを楽しみにしているリリアンをほんの少し疎ましく感じながら藍は鳴れた手順でセキュリティーを解除する。

 この先からが藍の『自宅』だ       藍は走り出す、カイが待つ彼の部屋に向かって。

「藍ってば廊下を走るとカイに叱られるわよ!」

 

 

 射干玉の黒と淡い青灰色の髪が混じり合いながら白いフェイクファーに広がりのたうつっている。時に緩慢、時に激しくまるで生き物のように蠢くそれらをよく光るオッドアイが見つめている。

 動きのおぼつかなかった子猫も成長したいま俊敏な動きでのたうつ髪に飛び掛かり、毛先に噛みつき爪を立てる。十分に眠ったツヴァイにとってラグの毛足の中に見え隠れし動く髪は絶好のおもちゃなのだ。狩猟本能を刺激された彼にとって身体を繋ぐヒトの激しい息遣いや掠れる悲鳴も獲物の上げる鳴き声だ。

 身を潜め、のたうつひと房の髪に狙いを定め間合いをはかる。長い尻尾の先が髪の動きに合わせて左右に揺れる。全神経を集中し身を引き絞ったツヴァイが勢いよく獲物に襲い掛かった。

 

 限界まで深く一つに繋がり分かれていた距離を取り戻す『保護者』の二人と、まだその存在を知らない『新しい家族』と……藍にとって衝撃的な邂逅の時が迫っていた………・

 

 

ネコ(受)がネコを飼うはなしの発端はこの記事

 

もし、カイが子猫を育てることになったとしたら……それもお世話が大変な時から。

 約8才で手元に来た藍と違い、初めての子育てを『飼育に向いていない』カイはどう感じるのか。

 ということで猫塗れ、本当は2月22日に上げたかったんだけど、思いのほかボリューミーwwになってしまい。月を越え 汗

 藍はカイを『生き物の飼育』に向いていないと言うけど、おそらく『飼育』はできると思うの。だたペットと言うより家畜の効率的な『飼育』になるだけってことで。

 そういうカイと、すんなり家族に迎え入れる三四郎との違いをちょびっと。

 

 とんでもない形で家族と再会した藍と、不運にもその場に居合わせたリリアンの二人にその後どう顔を合わせたか。

 プライバシーの乏しい船内生活に熟れた三四郎と、公開プレイに熟れた過去持ちのカイと……さらりと流して終わりだと思う。

『返事も待たないでドアを開けた奴にとやかく言われる筋合いはねーし、あそこで止められる訳ねーだろ』

ということで見られたと気付いていても最後まできっちり致した二人でした。

 

月の出の 夜々におくるゝ 猫の恋

山口誓子

 

以下妄想文につき注意

 

 

 藍が地球の士官学校に進学し入寮した結果、三四郎は再び音信不通になった。親元を離れた以上、定期交信の必要はないと勝手にそれを打ち切ったのだ。13才の頃には戦地を放浪していたというだけあって彼の子離れも早かった。そんな普通とは少し違う特殊で、肉親の情が希薄な彼ら親子の繋がりが切れないのは二人がカイのもとに『還る』と決めているからであろう。彼らが曲りなりに家族の体裁を保っているのはカイの存在が大きいのだ。カイがいなければとうに親子関係は崩壊している。

 ごく稀な三四郎からの通信に藍の近況を伝え、またその帰還の時には藍に帰省を促す……・新たな絆と家族を求めたカイが他人行儀な二人を繋ぐのは必然の結果なのかもしれない。

 しかしそれはあくまで『家族』としての心配りだ、三四郎の『恋人』のカイの恋情は誰に知られることなくひっそりと月の裏側から届けられた。

 丘というにはいささか高度のあるクレーターの縁を一気に登り急降下で五千メートル下の窪みにカイはエアカーを停車した。周囲をぐるりと囲む絶壁と天を覆うドーム越しの星の輝きが作る景観を車窓から目を凝らすように見上げた。

 その視界を離れた別の大きなクレーターに置かれた宇宙空港に離発着する宇宙船が流れ星のように空を横切っていく。

 ここは地球からは見ることのできない月の裏側に当たる未開発地区だ。政府の主要施設がそろい開発の進んだ表と違い、同じ全球ドームの中にあっても地球から見えない場所ということが資産価が格段に低いとみなされ軍事関連施設と空港以外、開発は遅々として進んでいない。ましてやカイのいる小さく深いクレーターときては無価値に等しい。そんな誰も見向きもしない放棄されたクレーターをカイは周辺の土地を含めドレイクから相続した遺産で購入したのだ。

 理由は簡単だ、ひと気がないのと系外惑星に向けて視界が開けているからだ。

 普段過ごしている月間表では多くの人間や生き物が行きかい雑多な感情や感覚が溢れている。ひしめく視たくもないモノ、感じたくないモノが能力を開放するや否や濁流として意識に雪崩れ込んだ。

 しかし月の裏側の無人のクレーターの中はクリアーだ。混沌と混じり合った中からより分ける必要もなく、解放した能力で見たいモノだけを見つけることができ、伝えたいモノを届けることができた。

 目を凝らし、耳を澄ませた星の向こうに逢えずにいる相手の気配がする。

「……三四郎……」

呼びかける声が甘く潤む。

          聞こえるか、私の声が

          感じるか、私の吐息を

 姿かたちはおろか声一つ聞かせない男を怨ずるように、焦がれるように名を囁く。

 高い窓辺から見下ろす雌に愛の歌を捧げる雄猫のように星空に呼びかける。

          見えるか、私が……

 

 

 三四郎に語り掛けるためだけに人気のないクレーターを買い、発情した雄猫並みに三四郎以外に聞かせない声で思うさまに呼び続けるカイ      もちろん月人だから、我慢なんかできませんよっと。

 そのためのクレーター、愛のクレーターです

使用済みのティッシュは焼却処分です!

 

本日の月面官庁街の職員食堂のメニューですがなにか?

唐突に妄想文につき注意

 

 

 ……おい、カイ、大丈夫か……おい……
 濃い霧の彼方から届いた呼び声が底なしの悪夢からカイを救い上げた。

 喉の奥で呼吸を阻んでいた塊を咳き込むように吐き出したカイの目は閉じられていたにもかかわらず乾いて瞼に張り付いていた。そこをはがすように開けた目は苦痛と恐怖にくすんだ鉛色に染まっている。暖かな上掛けの下の身体は汗に濡れて冷え、手足は氷のように冷たく強張っていた。その固く握りしめられた拳を節高の強い指が優しく解く。

 中は爪が食い込んで滑る汗と血で濡れている。三四郎の眉が微かに寄せられた。

「……すまない……」

ひび割れ嗄れた声の謝罪に軽く頷ずいた三四郎が汚れた手のひらを寝乱れたシーツの端で拭き取り、慣れた手つきで裂いたシーツので傷口を覆っていくのをカイは放心したのような虚ろな目で見ていた。

         ああ、まただ……

 月の独立を果たしその地に家庭を築いて数年が経過した。

 自らを月の独立に利用させたドレイクの死も、自身の傲慢さが招いた仲間の裏切りも整理ししたカイにとって忘れがたい記憶と、仄かな痛みを覚える思い出になっている。遠い過去とはいかなくとも胸の奥が疼くことはなくなっていた。

 しかし独立記念日が近付く度に封じ込めた別の記憶が悪夢として蘇り彼を苛むのだ。月の独立と表裏一体の出来事が作った深い傷痕は今も幻痛で彼を苦しめている。

「………酷い息子だろう……あの日が近付く度に私を愛してくれたドレイクと母ではなく、スティーブン達に汚されたことばかりを夢に見るんだ……」

何年たっても、たぶんこれから先もずっと       いつか死ぬ日まで、心の内で付け加えたカイは感情を読ませない漆黒のアーモンドアイスに片頬で笑った。

 うなされるカイと身を寄せ合って眠っていたのだ、三四郎に悪夢の中身は伝わっている。そしてそれは三四郎の見なかった『あの日』の出来事そのままなのだ。

「散々あそんできた身体なのに……な」

口に入れた男の舌触りと臭気、全身を這いずる軟体生物のような濡れた舌の感触、押し付けられ握らされた強ばりの熱、生々しい実体を持って記憶の底から這い上がり敏感な五感に蘇らせた。

 だがそういった行為はあの時が初めてではなかった。むしろあれ以上をローティーンの頃には楽しんでいた。

「思い出すのはあの時のことばかり……ふふ……私は汚い」

端切れで覆われた手の平を目の前に翳したカイは低く笑う。

「嫌なものを見せて申し訳なかった……しばらくの間はベッドを別にした方がいい」
汚されていく自分をこれ以上見られたくない、悪夢を理由に三四郎を遠ざけようとしたカイの不快な汗に湿った髪をシーツを裂いた指が軽く払った。

「俺がそうじゃないって言っても、あんたがそう思っているならあんたは汚いんだろうな」

カイの自嘲を静かなバリトンがそのまま肯定する。

「そうゆう奴だってわかって惚れてる俺にヘンな罪悪感は持たなくていい」

過去に対する嫌悪と、三四郎への罪悪感は別物だとはっきりと言い切り、見下ろす銀色の翳りを纏い光沢を失ったカレイドスコープアイズに小さく牙を覗かせた。その表情に同情や慰めの色はなく男が単に彼にとっての事実だけを口にしたのを教えている。

 「……私を汚いと感じた過去を忘れて本気でそう思っているおまえが憎くなる。そんな風にぜんぶ忘れられてなかったことにできたらどれほどいいか」

遣る瀬無さと痛みの滲む声が三四郎を詰った。

「おまえは汚いと、おぞましい触りたくもないとアントナンを利用した私を蔑んだ……私にはわかる、私もそうだったから……私はターゲットの誰にも勃たなかった………」

 薬が効くまでの間、剥き出しにされた華奢な身体を嬲るターケットの身体には嫌悪感しかなかった。押し込まれた舌と一緒に流れ込む唾液には吐き気が込み上げ産毛が逆立った。カイを嘲笑った陶宰寧はまさか自分と同じ思いを純血種の月人がしていたとは考えたこともないだろう。

 どんな刺激も快感に変換できるセックスの申し子たる月人という風評を自身で確かめ覆したカイにとって、眠らせようと着衣したまま伸し掛かかった三四郎の冷えた身体の意味は明白すぎた。

「相手かまわず身体を繋げてきた私のおぞましさと、私を月人として扱った奴等の汚さに大差はない」

そう吐き捨てたカイの身体がふわりと一度宙に浮き次いで弾力のある肌がしっかりと受け止めた。

 柔らかく背を抱いた手が項に添えられる。流れ込む熱を含む乾いた感情の本流。知識としてしか知らないサバンナを渡る風をイメージしたカイはそれに攫われまいと両の手を突っ張り胸から逃げようとした。

 癒えない傷を知られたからといって同情されたくはなかった。

 誰も悪くない、相手を見くびり侮った自身が作った落とし穴に落ちただけだ、その屈辱が今も疼いているに過ぎない、そう声を上げようとした彼を三四郎の深みのある静かな声が遮った。

「あんたは慰めなんか欲しいと思っちゃいないだろうし、俺もあの時のあんたに同情はしていない。その代わりあんな目に合っても正気のままでいたあんたはすげえと思ってるし、あれを利用しようとすぐに考えつくあんたはさすがだと思ってる」

計画のリーダーとしてのカイを評価した三四郎は当然だと視線を尖らせたカイを流し見てふっと息を吐いた。

「船にいた頃にも言ったことがあるよな、自分を労わらないとそのうちに壊れるって………オヤジさんが死んだ後、あんたが泣かないのをサンドラも凱も良くないと言った。それもそうかと思ってたんだが……本当は自分のためにあんたは泣いておいた方がよかったのかもしれない」

自我の抑圧から解放された生の感情を視た三四郎の節高い指が青灰色の髪を梳く。

「嫌ならなら嫌でいいんだ。それでもしなけりゃならないことなんていくらでもある。だけど嫌って口に出すのは泣きごとでも弱音でもないんだぜ」

カイの乖離した理性と感情を拙い言葉が繋いでいく。月人で良かったと自己憎悪を緩めはしても未だ自分を愛せないカイに三四郎は飾らない言葉でその方法を教える。

「さんしろう………」

「過去はどうやっても変えられない、忘れたくても忘れられるコトばかりじゃない。あんたが抱えているモノは俺の手には余って手が出ない。何にもできない俺には時たま帰って来てこうして傍にいることしかできない」

プライドの高いカイが顔を見られずに済むように半ば身を起こした三四郎が抱き寄せる頭部を鳩尾に下げた。そしてたった今、負ったばかりの傷を癒すように悪夢から覚めた身体を撫ぜる。

「………怖かったな……カイ」

れひくりと揺れた肩を大きな手が摩る。

「……嫌だったんだな………」

逞しい手のひらから流れ込む乾いた感情が悪夢の中でカイが迸らせた感情全てを吸い取っていく。淡々と繰り返す怖かった、嫌だった、辛かったという三四郎の静かな声が、それらが自己憐憫ではなく自信を慈しむことだと言葉よりも真っ直ぐに伝える。

 悪夢に乾いた眼が潤み雫を作った

 弄んだ男たちへの怒りと、汚れた自己への侮蔑でできた硬い鎧が脆い砂のように砕けて落ちていく。その下には悪夢を見るのは弱さの証しのように見なしてきたカイに、ないものとされ癒えないまま血を流し続けてきた傷があった。

 盛り上がった雫が頬を伝わり三四郎の肌を濡らす。折れた枝から溢れる樹液のように透明な雫が次々と煌めく瞳から零れ出ていく。 

「ずっと泣きたかったんだな……・」

自分のために泣けなかったカイが零す涙を受け止めて三四郎は震える肩を抱く。

「泣いてもいいんだ、カイ」

 

 ダイニングに入った藍は目の前の光景に目を見開きその場に立ち尽くした。どこにでもありふれた何の変哲もない光景であったが、それは強烈な印象と見てはならないものを目にした居心地の悪さを持ち合わせている。

 そしてそう感じたのは藍だけではなかったらしい、彼と同じように叔父の凱も棒立ちになって固まっていた。

 彼らを驚愕させているもの、それは三四郎に手の平の怪我を手当されるカイの表情だった。

 普段引き締められている口元が柔らかく綻び微笑を作っている。微かに上気した頬と緩んだ目元、そして穏やかな色合いの万華鏡の瞳は化膿止めを塗布される傷ではなく治療を施す三四郎の手に注がれていた。

 その暖かく穏やかで優しいカイの微笑は、怪我の処置のプロである凱にさえ近付くことはおろか口を挟むことも許していない。 

「今日いっぱいは滲みるかもしれねえけど明日には傷も塞がってすぐに元通りになるだろ」

保護サポーターが手の動きを妨げないか確認したカイがらしくもなくうんと言って小さく頷いた。メディカルコンピーターの操作資格を持つ彼は三四郎の見立てを少しも疑っていないのだ。

「ついでだから爪も切っちまおうか」

軽い口調でついでのように言った三四郎が先ほどサポーターを切り取ったハサミに手を伸ばすとようやく正気に戻った藍と凱が声をあげた。

「そんな適当なものでカイの爪を切るな」

「兄さんは爪の手入れの方法も知らないんですか!」

口々に喚かれた抗議にネイルケアとは無縁の三四郎の口がぽかんと開いた。

「たかが爪だぞ」

 

 

 

 スティーブンに犯されかけ難を逃れたカイの心にフォーカス。

ドレイクの弔いだけの涙でいいのかと妄想してみた。

 三四郎に拒まれ号泣したカイがイ↓ポが復活した三四郎に抱かれたことで素直に克服できるとは思えない気がするの。 あの、執念深いカイですよ、スティーブンへの怒りと嫌悪感がもたらしたアドレナリンハイが鎮まった後、事件を回顧しなかったはずはないと思うのよ。

 ということでドレイクのためだけでなく自分のために泣くカイに挑戦。

 泣き方を知らない月人・カイにとって思い続けてきた恋と計画失敗の方のどちらがウエイト高いのか?

 私と仕事、どっちが大事なの!と有り体な二者択一に近いかも。

 じゃあ、どっちをカイが選ぶか……?

決まっているじゃん、両方だよ!!

多分、三四郎が両方を手に入れさせてくれる。 

 意地っ張りで強情なカイの泣くことは自己憐憫に浸ることだと切り捨てるプライドに、泣いてもいい、泣くことは自分を慈しむことだと解らせるのは三四郎だけだと思うの。

 カタルシスで痛いなら痛いと口にした方が楽だという三四郎のセリフから『弱くて強い』というのは、弱い自分を許さないことではないと推定してるんだけどね。

 

 一方、ドレイクの死に泣けないカイを危ぶんだ凱はカイの身に起きたことをどう考えていたんだろう。三四郎が付けた通信機でカイの『バディと認めてくれるか』という悲痛な願いを凱は聞いている訳ですし。

 ドレイクの死と、身体を汚されかけた傷にどちらがマシか、という区分はないと思うの。

 とはいえもし三四郎に受け入れられたとしても、汚されたことに変わりはないとカイが思いつめた時、その自縄自縛を凱に解くのは不可能だと思う。

 つーかハニートラップを推進してきた凱に『泣いてもいいんですよ』って言われたくないって思いませんか 笑

あけましておめでとうございます、本年もよろしくお願いいたします……ってホント今更感がありますが。

平成のうちに完結を見た青シリーズ、新元号から新シリーズ開始になって欲しい と切に願っております。

 公私ともにパートナーになった三四郎とカイのコンビネーションに藍がどう関わっていくのか、そしてボッチでお年もお年の凱にパートナーができるのか、興味が尽きません。

 

と、新年の願望を書いたところで

 

ある程度の年代の方には聞き覚えのあるCMのコピー

『ミミズなおしっこかけると腫れるよ』

 うろ覚えなのですがミミズの噴出させた体液には被れる成分が含まれていて、まんざらおしっこかけると腫れるというのは間違っていないらしいのです。

 それを踏まえて

 

ウニ、ヒトデも凄いけど

こちらで紹介されているご本のチラ見せの記事に驚愕。

 以下グロ表現につき炙り出し

 

瓶にミミズを詰めてそこに突っ込む……腫れないのか?それとも腫れるとサイズがアップして嬉しいのか?

 終わった後悲惨じゃね?

瓶にヒルを詰めて以下同文……充血した一物に群がるヒル……血を吸われても硬度は維持できるのか?ヒルが落ちた後に噛み跡が残.って一物がまだら模様にならないのか?

 

 そもそもこれでイケるのか????? 奥深すぎる世界を垣間見た気分

……いくらセックスのバリエーションを極めたカイでもこれは無理……
 

 とはいえ、倮エプロンが記載され古書を所有している凱なら本書がコレクションの中にあってもおかしくはないと思いまーす♪゛

 だってボッチなんだもん、毎日ひとり寝だから ( ;∀;)

遠い昔に出した薄い本の再掲載。

カイが記憶退行を起こしたのなら三四郎が記憶喪失になってもええじゃないか、という単純な思い付きで書いた奴です。

 そのうちpixivに上げるとよそ様で公言していたのですが、やっとデーターを見つけ出せたので…消えてなくて何よりでした。

 こちらのブログであげても良かったのですが、なにしろ、肝がファントム・ペインでヤり残した

『無重力えっち』

だったりするのでpixivです!

 

ということで記憶を失って真面目で控えめなアーイシャのような三四郎を読んでやろうという方は

こちらから → 

クリスマスイブということで、むかーし出したうっすい本の再録。2002年に出したらしいww
 時系列としてはペルソナとタイトロープの間くらいになるのかしらん。

 

以下妄想文につき注意

 

 

ことの発端は三四郎であった。
 光速宇宙船『ジュール・ベルヌ』のブリッジには、船体速度に合わせて地球の日付と時刻を示す時計が壁に掲げられていた。見た目はアンティークな外見をしているが、中身は精密を極め『ジュール・ベルヌ』同様最新鋭のテクノロジーが応用されていた。不幸なことに一度大破されていたが現在も生真面目に遠い地球の標準時刻を示している。
 その時計を暇に飽かせて眺めていた三四郎はあることに気がついた。
 船内時間で後3日目が丁度クリスマスになるということである。
 どちらかと言えば無神論者で、困ったときの神頼みすらしようとしない三四郎であったが、理由を付けて酒を飲み交わし、大騒ぎをするのは大好きだった。宗旨宗派にお構いなくお祭り騒ぎだけは見逃さないという辺り、紛れもなく『日本人』のコミニュティーで育った証なのかもしれない。
 とにかく酒宴を張る口実を見つけた彼が『クリスマス・パティー』を開くことを提案したのは言うまでもない。ましてもうしばらくすればこのメンバーが『セカンド・クルー』として顔を合わせることはなくなるのだ。三四郎の意図がどこにあるにしろある種の惜別の情がサンドラやロードの気持ちを動かした。
 あっという間に話はまとまり、彼らの上官でありキャプテンでもある凱に話は通された。話を聞いた凱とってそう無下にできる提案ではない。
 カイは三四郎と引き離されることを覚悟している。三四郎に未練を残させるという予定は既に頓挫してしまった。そのカイに当初の予定通りここで過ごした時間を憎ませることができるかもしれない。
 過ごす時間が綺羅であればあるほどカイは失ったものを惜しみ、その感情を憎むだろう。
 カイの治療にはどうしても憎悪という要素は不可欠なのだ。
 そう判断した凱は提案を了承した。

 

 かくして凱によって勤務時間は調整されパーティーを日付変更時刻に重ね、その日のみ特別にコンピューターに一二時間の運行を任すこととなった。
 こうして、ダイニングにはにはふだんより多目の食事と、各自がジュール・ヴェルヌに持ち込んだスペシャルフードを持ち寄ることでささやかな宴は始められた。
 発起人の三四郎の音頭に渋々同席したカイは触れ合うグラスの涼やかな音に複雑な気分でクルーを眺めている。
 テーブル中央に生クリームでシンプルに飾られたケーキとなぜか鏡餅が並んでいた。ケーキはサンドラが、鏡餅は三四郎が作ったのだ。
 サンドラは、荒っぽい軍の雰囲気に染まっている女性だ。さほどアルコールに強くないとはいえ、その陽気な性格も手伝ってお祭り騒ぎの憂さ晴らしを好んでいる。それ故、彼の申し出にもろ手を挙げて賛同し瞬く間に積み荷のリストをチェックして『クリスマス・ケーキ』に必要な食材を捜し当てたほどの力の入れようだった。
 そして三四郎はサンドラのリストからもち米の存在を知り今日になってキッチンの麺棒とボールで餅を搗き鏡餅にした。今ブリッジと、中央制御室、機関室には目の前にあるものより小振りなそれが供えられている。そんな物にも神が宿るというオリエンタルな習慣が三四郎の機械を擬人化する原点なのだろう。
 そういう一面を見せたのは彼らばかりだけではなかった。
 ロードがスペシャルフードとして持参した、母親お手製のローストビーフはレストランにはない素朴な味付けだった。同じ皿に並ぶ不揃いな形をした付け合わせの野菜たちの朴訥さは暖かく、いかにもロードらしい。そして凱が持ち込んでいたのは庭の一角で収穫された梅を使った年代物の梅酒だった。
 しかし、そういう形でそれぞれが育った家庭の雰囲気を垣間見たカイは戸惑っている。
 カイには懐かしむ過去も、帰るべき故郷も家族もない。
 そしてキッチンに入れ替り立ち替り現われてスポンジを焼くオーブンを覗き込んだクルーの高揚と熱意も。
 物心ついた頃からの毎日が乱痴気騒ぎであった月での生活はもちろん、ドレイクとの生活にもあまり習慣めいた儀式はなかった。おそらくドレイクがもう少し年配で、家庭を築いてさえいれば自ずと行われていたのだろうが、彼自身もまだ若くそういう類いに熱心ではなかった。
 その彼をクルーたちは彼のなかにもそれが存在しているかのように招き入れる。
 そこには彼が厭というほど知っている『パーティ』に付き物の生臭く湿度の高い熱意の予兆は感じられない。
 浮かれるような熱さはカイの知らないものだ。カイはその熱に溶け込めない自分を嗤う。

 早くこの場所を離れたかった。
 自分に割り当てられた食事を極力早く済ませようと無言でそれらを口に運ぶカイと違い、他のクルーは他愛もない冗談を交わし、食欲を満たし……彼らの口はカイと別のことで大忙しだ。
 特に食前酒としてリキュールグラスに供された凱お手製の梅酒はおおいにサンドラを魅りょしたらしい。なによも甘く蕩ける梅の実が彼女を楽しませた。たっぷりと3リットルは詰っているだろう瓶を傍らに、ソーダ水で割るとゴブレットで呷っている。
 が、彼女がさほどアルコールに強くないのも事実だ。先ほど食前酒としてその口当たりの良さを確かめているだけにロードは軽く諌める。
「サンドラ…少しピッチが早すぎないか?」
彼女が赤毛を振り立てて笑い飛ばした。
「大丈夫、ちゃんと加減してるから。私のことなんか気にしないでロードももっと飲みなさいよ、酔い潰れるまで飲めるチャンスなのよ?」
弾けんばかりの笑顔でサンドラはロードのグラスにこの日のために三四郎が精を出して精製した密造酒を注いだ。
「カイも、ほら…イケル口のくせに」
目ざとくミネラルウォーターの満たされたゴブレットを取り上げ、新たなそれになみなみとビーカーの原酒を注いだ。
「あんた、こんなのじゃつまらねーだろ、ちょっと待ってろ」
キッチンの片隅を何やら探ってきた三四郎は悪戯っ子のような顔をしてカイのグラスに白い粉末を一摘み落とした。
「おいっ?」
「三四郎、それは?」
見咎める凱に答えず代わりに犬歯を覗かせる微笑。
「酔わなけりゃ意味ないだろう、なぁ?」
恨みがましげにカイが三四郎を見上げた。その目には赤い星がちらついている。
「そう、そう。酔っぱらって、羽目を外すカイを見てみたいわ」
魔法の粉の威力を垣間見ているサンドラはしたり顔で大きく頷くと、粉末が溶け切ったグラスをカイに差し出した。
「私の酌、受け取ってくれるわよね?」
流れるような仕草で期待に目を輝かせたサンドラに視線を移したカイは沈黙したままグラスに目を落とした。カイがこういう言われ方からは逃れられないことを二人の武官は知っているのだ。そしてそれを躱しきれないのを悔しがっていることも。そんなカイを凱が興味深げに見守っている。
 だが穏やかで良識に培われているロードにカイの沈黙は堪えるものがあったらしい。
「カイ、無理に飲まなくとも良いんだよ。サンドラ、もう酔っ払ってるのかい?」
気遣わしげにカイを庇い、分かっているはずのサンドラに眉を寄せる。
「やっぱ、センセは上品だな。このくらいフツーだぜ。任務明けの、軍人の宴会なんてひでーもんだ。なんつったって酔っ払ったほうが勝ちだからな」
つまらなそうに三四郎が口を尖らせた。
「あら?三四郎たちだってそうでしょ?」
ロードが危惧するほど無理強いするつもりのないサンドラはあっさり引いて三四郎のまぜっ返しに乗る。
「俺は仕事が終わった後にヤローとつるむこたぁねぇよ、酔っ払った挙句に素っ裸になってんのは大概サンドラの仲間だぜ。ヤローのストリップなんか見たくねぇや」
「普段抑圧されているからだろうね、僕の職場にもそういう教員は何人かいたなぁ」
ほっと息を吐いたロードは三四郎の言葉にしみじみと同意にした。
 そんな乱行を囃し立て、容認していた自分もかなりストレスを溜めていたのかもしれないとロードは自覚する。本来ならば嫌悪を抱く三四郎の感覚が正しいのだ。
「へぇ、それが本当なら、カイもそーなるのかな」
「っ!!」
乗船前は大学の講師であり、抑圧の固まりのようなカイを単純に引き合いに出したのは三四郎にとっては当然かもしれない。
 しかし、今の言葉にカイは小さな痛みを与えた。三四郎にそのつもりはなくとも、カイには抑圧が外れた自分の無様さを指摘されたようにしか受け止められなかった。
 顔をこわ張らせ、屈託もない笑顔で自分を見る三四郎から視線を外す。
 先程の沈黙とは全く空気の異なる沈黙に今度はサンドラが割って入った。
「失礼ね、ここに極上の女がいるのに。私だって抑圧されてるのよ」
挑発するかのように髪を掻き上げ、顎をしゃくる。
「それともなぁに、私より、カイの裸のほうが魅力的だという訳?」
思わせぶりに制服の胸元を寛げると、アルコールの作用で上気した形良いバストラインが露になる。豊饒の実りを期待させる膨らみは惜しいかな、薄いランニングの下だ。健康的なそれに、三四郎の注意が向かう。
「この下が見たい?」
サンドラが故意に谷間の部分を指に掛けると、三四郎は張り子のこま犬の玩具の如く首を縦に振った。
「なら、これで勝負しましょ。私の自制心を吹き飛ばしてね 」
幾らもまだ減っていないビーカーををどんと三四郎に突き出した。あれほど格闘技の勝負を拒んだ三四郎が、いそいそと自分のグラスに酒を満たし始める。
「もし良ければドクターもご一緒しませんか?」
二人のやりとりを笑って見ていた凱もサンドラは誘った。灰色の瞳がきらきらと光沢を放っている。
「僕が入ってもよろしいのですか?」
「もちろんですわ、こんなに年の違う双子をはべらせる機会なんて滅多にありませんし。それにこの間はドクターが聴診器を当ててくださったけど今度は私が当てて差し上げますわ」
思わせ振りな言い回しに、いつかの『健康診断』を思い出した凱が苦笑する。しかしまだ見ぬ果実を業務上といえ凱が見ていることは三四郎にとって当然面白くなく案の定、拗ね始める。
「……狡いぞ…凱」
「悔しかったら頑張りなさい。と言うわけで、私たち潰れるまで飲むことになりそうだから、後は宜しくね」
ほとんど原酒に近い双子に対して梅酒のハイボールをハンディに付けたサンドラが上気した顔を文官二人に向けた。ロードは苦笑を漏らし肩を竦めて、カイを見下ろす。
 サンドラが注意を引いてくれなければ、何が起きていたか分からなかったカイに咎める権利はない。上官である凱もその気が無いようだ。
 もの言いたげな唇を引き締め、カイはぶ然と承諾をした。
 同じようにアルコールを楽しむといっても騒ぐより静かにゆっくりと味を楽しむタイプのロードが目を細めて三人を眺めている。そのロードの傍で『魔法の粉』入りのサンドラの杯をカイは生真面目に口にする。
「良いのかい?サンドラのあれは冗談だから」
「この量のアルコールなら問題ありません。それに三四郎の薬には既に抗体ができていると思います」
目を見張ったロードを見ようともせず素っ気ない口調でカイは一度使用した薬品のほとんどは二度目から効かない月人の体質を教えた。
「それは……」
まじまじとカイを見下ろしたロードは苦笑すると視線を騒がしい三人に戻した。
「誰が勝つと思う?」
「任務に支障がなければ、誰が勝ってもかまいません。ですが、女性が酔って乱れるのは見たくありはません」
「彼女は自分の限界を知らないような人じゃないから、心配には及ばないよ」
苦笑交じりに言ったロードをカイは振り仰ぐ。
「なぜ、そう思うのですか?」
「さぁ、きっと僕が彼女のバディだからだろうね。僕も彼女のそんな様は見せたくないし…ドクターは当然だけど三四郎もその辺りは分かっていると思うよ」
穏やかに、しかしはっきりとした口調でロードは断言した。その彼の視線の先で華やかな笑い声を上げ、目元を赤く染めているサンドラに意識の乱れは全く見られなかった。
「確かに彼女ならそう言えるでしょうが……三四郎にそこまで自制心を求めるのは危険なような気がします」
ぷっとロードが吹き出す。三四郎ならば剥きになって限界を超えてもおかしくはない。
「そうかもしれないね、彼は相当君に甘えていることだし……」
「彼が……私に?」
カイは眉を寄せて、浮かれきっている自分のパートナーを見詰めた。粗雑で、荒っぽく、大胆さと、狡猾さを兼ね備えた三四郎は狐の頭脳を持つ誇り高い獅子だ。だが彼の外見や、しなやかな身のこなしがイメージさせるのは単独行動を好む豹や、虎などだ。
 しかしカイは彼が同じ猫科の動物でも、『集団』としても行動可能な『獅子』であることに気がついていた。一見身勝手に見えても、結束を乱すことはなかった。集団に馴染もうとせず、ともすれば自分を押し通しがちなカイのほうがよほど弧高な生き物だった。任務に就いてかなりの時間を経てなおも、一歩引いた距離を集団とは保ち続けている。
 そのことに眉をひそめながらも、引いた分だけ距離を詰めようとしてくれる三四郎に甘えているのはむしろカイのほうだった。そのことを自覚しているカイは、三四郎が自分に甘えているというロードの言葉が信じられずに眉を寄せた。
 不自然な沈黙に、ロードはカイの戸惑いを察したらしい。わずかに眉を上げ、表情の読み難いカイの顔を見詰めた。
「彼は、機を見るに敏だから、自分を可愛がってくれる人間はとことん利用する     と言ったほうが納得しやすいのかな?」
「つまり、三四郎にとって私は我儘の通じる相手だと言いたい訳ですか?」
冷たい口調にロードが再度、吹き出した。
「勘違いしないで欲しいな、僕は君を甘く見てそう言ったわけではないよ。もしそうだとしたら、サンドラも甘く見ていることになるからね。三四郎は君に甘える以上にサンドラに甘えている」
任務に関して妥協のないカイと、三四郎は一度意見が割れようものなら凄まじい口論になった。ともすればとっ組み合いになりかねないほど白熱する舌戦に絶妙のタイミングで割ってはいるサンドラに収まらぬ怒りを吐き出す三四郎の態度は、どこから見ても負けた喧嘩を泣きつく子供にしか見えなかった。
 その三四郎を宥め、二人の妥協点を提案し、納得させる作業をサンドラはそつなくこなしている。自分が相手では一歩も譲歩を勝ち取れない三四郎がカイからそれをもぎ取る彼女に甘えているのは隠しようがない。
 嬉しそうにサンドラに礼を述べ、してやったりとほくそ笑む三四郎の様子は、『おねーさん』に敵を討ってもらった『おとうと』そのものだ。そんな露骨な幼さを目の当りにしてしまうとカイは呆れるほうが勝って、悔しいとか、腹立たしいという感情が萎えてしうのだ。
 結果的に三四郎に譲歩してしまう自分が三四郎を甘やかせていると取られているとしたらカイにとって心外この上ないことだった。
 「『甘え』と『我儘』って言うのは似て非なるものだとサンドラが言っていた」
ロードが似通った雰囲気をもつ武官二人を見たまま穏やかに続けた。
「『どうにかしてやりたい』と思うのと、『何とかしなくては』と思うのとでは心理的負担が違うというんだ。君たちの喧嘩に割ってはいるときはいつも、『何とかしなくては』と思っているけれど、三四郎が喜んでるのを見ると嬉しくなって次も『どうにかしてやりたい』と思うらしいよ」
何とも返事のしようがないカイに年長者の余裕を漂わせた微笑みをロードが浮かべた。
「彼は甘え上手だよ、こちらの気分を害するぎりぎりのところで手を打ってくる。君たちの喧嘩だってそうだろう?君に妥協したと思わせる分だけ吹っかけて言っているんだから……」
はっと振り仰ぐと、ロードは口が滑ったかなと片目をつむった。
「僕は大概当事者じゃないからね、傍から見ていると良く判るよ。それに三四郎は僕には甘えては来ないしね」
ロードは空になったグラスに水を注ぐと、そのまま飲み干す。
「まだ『あのこと』に拘っているらしい………僕に甘えることは弱みを見せているようで嫌なんだろうね」
苦笑交じりの言葉にカイの肩がひくりと揺れた。

 コンピューターが知らされていない命令にしたがって暴走したとき、カイは自分のプライドを優先した結果三四郎を深く傷つけていた。三四郎にとって裏切りに等しい『計画』の共犯者に選択したのがロードだった。
「まぁ、彼にライバル視されることが光栄だとも言えなくもないけど少し寂しい気がするね。もっとも僕に甘えたところで、数学の講義をただで聴けるぐらいがせいぜいだけど」
セカンドクルーの中で、もっとも年嵩で、落ち着きがあり、温厚なロードをカイは改めて見た。
 優しい、深みのある声で語られる言葉はそれだけで、相手を捩伏せるような論法を取るカイよりもずっと説得力をもっている。それが年齢のもたらした経験の差なのかもしれない。
 しかし社会経験も積み、己の人格にある程度自信を持っているロードにとって、『月人』の魔力に捕らわれることが屈辱以外なにものでもないだろう。自分に向けられる欲望の感情が暴力でしかないように、無意識に滲み出してしまう媚態もまた暴力なのだ。
 制御できないその魔力をもつ自分を憎むように、ロードも深い嫌悪感を感じていたに違いない。
 それでもなお、屈辱を与える自分を憎もうとせずに、誠実であろうとするロードにずっと甘えていたのかもしれない。だからこそ、『あのこと』があった後もここまでやってこれたのだ。
 カイは唇に笑みを浮かべた。
「自惚れてくださって結構です」
「カイ?」
カイは何盃目か分からなくなったグラスのアルコールを美味しそうに飲み干している三四郎に視線を据えた。
「彼がいなければ、あなたが私のバディだったかもしれません。あなたには私の意思を尊重するだけの幅があります」
かっと、ロードは頬を紅潮させてしどろもどろに言葉を選んでいたが、ようやくありがとうと言うことができた。それから何度か、空咳をしたあとにもう一度水を飲んだ。
「そういえば……結局、バディ登録しないんだね」
「しなくとも任務は遂行できました」
素っ気ない言葉にロードはわずかに首を傾けた。だがサンドラを酔わせようと苦闘する三四郎を見詰めるカイに三四郎には隠していることをカイに告げた。
「バディって言えばね、三四郎が凄い勘違いをしていることを知っているかい?」
「?」
「バディの選択基準に、容姿は関係ないって事だよ。サンドラを見たからだろうね、君がいなかったら絶対に美女が来たと信じている」
くすっと笑ったロードは振り向くカイにウィンクをした。
「サンドラほどの美人に当たったのは今回が初めてなんだ。それに三四郎はバディがすぐにベッドインするものだと信じているけれど、それも間違いだよ」
「……」
「サンドラだって、別に僕みたいな大柄な男が理想だったわけじゃない。彼女の理想の王子様は、やっぱり君や、ゴトップル少佐のようなすらりとした美青年だよ」
笑いを噛み殺すロードと、サンドラを見比べる。
「この事実を知らせるのは忍びなくってね、サンドラも、僕も黙っているんだ」
何も言わないカイを見下ろしロードは話を続けた。
「僕たちみたいに幾度かバディ飛行を経験すると、システムの信頼を相手の信用にすり替えてしまいがちになるんだと思う。だから……三四郎が勘違いしたように、あまり抱き合うことに対して抵抗感がなくなっているんじゃないかな。でも君たちは、きちんと相手に本当に向き合って関係を作り上げたんだから大したものだよ」
ロードは立ち上がり椅子を正した。
「不思議なものだ……好きになると、相手がぐっと魅力的に見えてくる。三四郎も、熱烈に希望した『理想の美女』が薄っぺらな絵空事だと気がつく日がいずれ来るよ」
見上げたロードは不思議な笑みを浮かべ、慈愛が籠った優しい視線をしている。
 いくらガードを固くしても、限られた空間で、長い時間をともに過ごしていれば次第に滲み出してしまう気持ちに気がつく。
 三四郎のように勘が鋭いわけでもなく、サンドラのように話術でもって本音を引き出すこともない、ましてや凱のように聞き出そうともしなかった。
 彼らと違い警戒をほんの少し弛められたロードは傍観者として見守ることでカイの気持ちを見抜いていたのだ。それを助けたのは同じ学問の徒であり、文官である共通した思考パターンだろう。
 カイは苦笑した。気持ちを悟られまいと独り相撲をしていたのだと悟ったためだ。
「どうやら私はあなたには甘えてばかりのようですね」
「そう言われると照れるね、ただし、今の話は三四郎に内緒だよ」
カイは頷く。嬉しそうに笑顔を向けたロードが使用した食器をざっとまとめた。
「ロード?」
「僕はどうやら限界だよ。部屋に戻って寝るよ……、彼らもそうだけど、君も相当だね」
欠伸を噛み殺して伸びをすると、首をぐるりと回した。大きな筋肉のこぶがうねった。
「あと三〇分したら、止めてくれないかな」
「分かりました」
おぼつかない足取りで、ウォシャーに食器を放り込んだロードはふらふらと部屋を出ていく。
「ロード?」
気づいたサンドラが慌てて立ち上がった。
「ロードは、部屋で眠るそうです」
「えっ、私も帰るわ」
「サンドラっ?ここに来て止める気かぁ?」
いそいそと食器を集め始めたサンドラに三四郎が食い下がった。
「三四郎、今日はクリスマス・イブなのよ、クリスマスなのよ。そんな日は自分のバディとロマンティックに二人っきりでいたいものじゃない」
鼻息も荒いサンドラに三四郎の唇が吊り上がる。
「あんた…今凄いエッチなこと考えているだろう?」

「それがなによ?」
ふふっと含み笑いを漏らし、彼女は唇に思わせぶりに指を添える。
「酔っぱらったロードが役に立つとおもってんのか?このまま続きをやってよーぜ」
はっと、一笑した彼女は赤毛を振り立てる。
「私がどんな風か知りもしないくせに。心配無用よ」
ロードの前では絶対に口にしない際どい会話をサンドラはさらりと言ってのける。そこが彼女の可愛いところなのだが、三四郎には理解できなかった。サンドラは、サンドラ以外何者でもない。女心の機微が解らない彼はさっさと気持ちをロードに向かわせる彼女につまらなそうに唇を引き結んだ。
「それに、素面の私を口説き落としたほうが男冥利に尽きるってものじゃないの?それとも、三四郎はその程度の男ってわけ」
「ちぇっ」
舌を鳴らしても、それ以上引き止める事なく、皿に残っていた最後のロースト・ビーフを頬張る。
「あの様子では眠るといってもかなり辛いと思います。サンドラは早く彼の元へ行ってください」
駆け引きが終わったのを見届けてカイがそう提案すると凱も腰を浮かす。
「僕もメディカルセンターでスタンバイしておいた方が良さそうですね」
「お願いします」
「後片付けはどうするんだ、そんなの不公平だ」
口を尖らせた三四郎をカイが冷ややかに見下ろした。
「あなたは発起人です。最後まで面倒を見る義務があります」
「俺一人でやれって言うのか」
「私は、あなたがここをきっちりと片付けるような男だとは思っていません」
見透かされて三四郎が黙り込むのにサンドラが吹き出す。
「カイが一緒なら安心だわ」
「そうですね、カイに兄の監視を任せて僕達はロードのところへ行きましょう」
「どういう意味だ、寄ってたかって」
全く当てにされていないのに拗ねた三四郎の顎をするりと撫でてサンドラがそのまま持ち上げた。
「そんな顔しないの。代わりにクリスマス・プレゼントをあげるわ、メリー・クリスマス」
低いアルトヴォイスで囁きそのまま、時間をかけたキスを施す。呆れるような長い間唇を合わせていたサンドラは次に三四郎の顔を自分の胸に押しつけた。
 柔らかく、包み込む温もりに三四郎のまなじりが下がる。この調子なら、次の当直も代わって良いと言い出しそうな彼を抱いたまま、彼女は二人を見ないようにしていたカイに顔を向けた。
「頬なら許してくれるかしら」
今までこういう悪ふざけをが受け入れたことはない。カイへの申し込みは当然のように拒絶をされ続けてきた。しかしそれにひるむようなサンドラではなかった。
 ゆっくりとカイが振り向く。彼の唇は薄っらと微笑を浮かべていた。
「あなたには私からプレゼントすることにしましょう」
抱き合っていた二人は肝を抜かれ、唖然と目を見開く。
「あんた…酔っ払ってるのか?」
「酔ってなどいません」
そう言いながら、バイザーを取り去るのにまたも二人は仰天した。言外に、唇を許しても良いと言ったのだ。
 美しい横顔を凱が瞬ぎもせず見つめる。三四郎を除くクルーに対するカイの親密さは凱にとって予想外のことだったのだ。
「正気かよ……おい」
茫然とした三四郎を他所にまっすぐサンドラの前に立ったカイは声も出ない彼女を促す。
「受け取ってはいただけませんか」
固い口調とは裏腹な色香を放つ瞳に見入られたようにカレイドスコープ・アイを見詰めていた彼女はようやく艶然と微笑みを返した。
「喜んで頂くわ」
カイの首に腕を回し、カイも括れた腰を抱く。そうして互いに目を伏せた彼らが口付ける瞬間、なぜか三四郎は彼らから目を逸らしていた。
 「素敵……さすがね」
しめやかに音を立て離れた彼女は未だカイの首を抱いたまま、視線を三四郎に向けた。
「こんなのを毎日してるんじゃ、三四郎のキスが上達するはずだわ」
「それじゃ下手だったって言ってるのと同じじゃねぇか」
「そう言ってるのよ、ねぇカイ?」
答えず腕を解きバイザーを掛け直すのにサンドラは肩をすくめた。
「ま、好みは人それぞれですものね。でも今教えてもらったことは早速ロードで試してみるわ。じゃぁ後はお願いね。二人とも良いクリスマスを」
「ロードによろしくな、肉旨かったって」
「ふ……素直じゃないわね」
ロードに意地を張る三四郎をそう評したサンドラは素早く二人の頬にもう一度キスを残すと、わずかに表情の硬い凱と腕を組みながらロードの元へ帰っていった。
「女ってわかんないよなぁ、クリスマスだからって特別に思うなんてさ。そういうところだけ女になるサンドラはもっとわかんねぇや」
そう零した後、机上の食器を集め始める。皿にはほとんど残飯はない。
「お前もそう大差あるまい。かこつけて飲みたかったんだろう」
「だって……こんな機会がなけりゃ遊べないじゃないか。セックスはいつもしてることだろ、何も変わらないだろ」
即物的な三四郎にカイは苦笑を漏らす。
「なぁ、あんたもやっぱり特別だと思っているのか?」
真顔で三四郎はカイの顔を見た。
「なぜ」
三四郎は口を開きかけたものの押し黙る。
「三四郎?」
「サンドラにキスしたろ……いつもなら俺がちっょと、ちょっかい掛けただけで怒るのに」
「お前は勤務中にやろうとするからだ」
皿をウォシャーに入れ、テーブルの上のゴミをダスターに放り込みながらカイは答える。
「なら……俺も、サンドラたちの前でキスして良い?」
ねだるような視線にカイは小さく笑った。
「おまえになら何をされても構わないと言ったと思ったが」
その返答に三四郎は突然椅子を出し、カイを座らせる。
「あんたやっぱり酔っ払っている」
「そんなことはない、ちゃんと話しているだろう?」
「それがあんたの怖いところだって言うんだ。酔っ払っても理路整然としてるなんて、あんたらしいぜ」
「……」
「座ってなよ、俺が残りはやるから」
カイの目を意識してか、三四郎にしては丁寧に始末を終えた。

 

 しっかりとした足取りで、いつも通りに姿勢を正したまま自分のコンパートメントに着いたカイは、識別装置に掌をかざした。様子を確かめるために後ろに付いていた三四郎が足を踏み入れようとしたカイにようやく声をかけた。
「カイ」
「来るのか」
踏み止どまってカイは振り向く。
「少しは酔いは覚めたか?もし良かったらもう少し飲まないか?」
「私は酔っ払っているのだろう?迎え酒をさせるつもりか?」
僅かに顔をしかめた三四郎は、困ったようにカイを見詰める。
「本当はサンドラたちも一緒のほうが都合が良かったんだがな、ロードが潰れたんじゃ仕方がねぇ。実は空けちまおうと思ってるのが一本あるんだ」
言い澱んだ三四郎は、首を捻るカイの表情を注意深く見守る。
「一人で飲むと、ヤケ酒みたいで嫌なんだ。だからずっと放っておいたんだ」
「ヤケ酒……?」
「バディになる女と祝杯上げようって持ってきたんだ。なのにあんたは男だろう、その後ごちゃごちゃして空けそびれたんだ」
「……」
「大枚はたいたシャンパンなんだ、空けないっていうのももったいないし…機会を窺ってたって訳」
カイはまじまじと三四郎の顔を見詰めた。
「そんなものをおまえの期待を裏切った私が飲んでも良いのか?」
「そんなの今更だぜ。第一あんたのことは満足している」
素直に気持ちを伝える笑顔にカイは息を吐いた。
「おまえの部屋に行けば良いのか?」
「格納庫のシールドを上げようぜ、せっかくだから」
サンドラのことを笑えないほどのロマンティストぶりにカイは吹き出すと、その提案を承諾した。
 シールドを上げて、外に流れる満天の星を側面いっぱいに広げた中で、三四郎がナプキンでコルクを飛ばさないように包みながら封を切った。
 星の明かりを楽しむために、非常灯のみが灯る暗がりの中に芳醇な香りが広がる。
 酒に合わせてグラスを選ぶことなど考え付かない三四郎は適当に持ち出したワイングラスに、見事な気泡を上らせながらシャンパンを注いだ。
 立ち昇る細かな泡を見るだけでも三四郎の言葉通りそれが高価なものであることは知れた。
「メリー・クリスマス」
涼やかな音を立てたグラスに唇を付けると、期待を裏切らないすばらしい味わいがカイの口腔を満たす。その高貴な味覚は三四郎のような『傭兵』にはそぐわないほどの尊さがあった。
 だが同時に、その違和感は彼の『理想の美女』に対する期待の高さをも現している。
 見たこともない、心のうちにしか存在しない女のために用意された酒。
 カイは不意に鋭い胸の痛みを感じて、グラスを離した。舌が痺れるような苦味を訴え始める。かろうじて落とさないでいるグラスの中で、黄金に輝く液体は、小さな気泡を上げながらさざ波を立てていた。
 三四郎に特別な酒を用意させ、逢ったその日に封を切らせたはずの『理想の美女』。
 カイの心はどんどん冷えていく。そしてシャンパンが気泡を立ち昇らせるように、憎しみが痛む胸から湧き上がってきた。
 これほどの苦しみを知らず、上機嫌でシャンパンを飲み干している三四郎を憎みそうだった。
 その感情はイシスに感じたほろ苦く切ない嫉妬などものの比ではない。嫉妬よりももっと暗くて淀んでいる。
 こんな痛みと苦みはカイの知らないものだ。、ドレイクにも感じたことはなかった。
 ドレイクが誰とどんな関係を持とうとカイは諦めていた。自分の感情が不道徳だという自覚があったためかもしれない。
 しかしその頚木から放たれた今、制御できない何かまで放たれていた。
 そう、イシスに妬心を感じたように人の感情を我がものとしとして視るのではなく、自分の感情を識ったのだ。
 カイは生まれて初めて『愛憎』という言葉を想い抱いた。
 クナルで死に際の男が語った愛憎は優しいものだった。しかし胸の奥底から湧立つものは感じ取ったものとは全く異質だった。むしろサーシャが放っていたものに近い。
 カイはグラスの柄を握り締めた。
 バディ登録をしていないのかと問うたロードに返した言葉には意図していなかった本音が潜んでいたのだ。聡いサンドラならきっと気付いていただろう。
 カイはバディなどにはなりたくないと言ったのだ。バディは任務を遂行するための、行政の都合で定められた単位にしか過ぎないと言い捨てていたのだ。
 任務有っての関係、任務のための一単位などになりたくないと言っていたのだ。
 しかし、バディになりたくないと思いながら、三四郎のバディになるはずだった『理想の美女』に憎しみを燃やす。
 三四郎にとって100%完璧な女の存在に己の不完全さを思い知らされる。
 この息苦しい愛憎があの男が言ったように愛から生まれているのなら私は三四郎を愛していることになる。
 架空の女を憎むのは私を憎んだサーシャと同じなのだ。
 私は三四郎を愛している。
 一度、口を付けたきり黙ったまま気泡を上げるシャンパンを見下ろしていたカイに、いつもの健康的な笑顔が向けられた。
「飲んでも大丈夫だって、これくらいで二日酔いになったりしねぇよ」
見当違いのことを言って、未だ空けられないグラスに少し困った表情をする。
「口にあわねぇか?」
あうも、あわぬも、本来飲ませたかった相手の身代わりに、用意した酒を自分に飲ませる無神経さにカイの胸は裂けそうだ。
 ふだんは腹立たしいまでに気持ちを読む三四郎が、この想いに気がつかない     皮肉な現実であったがカイはそれが独り善がりに過ぎないことを理解していた。
 他人の心理に関心がなく、推察能力の欠ける三四郎には言葉で伝えてやらなければならないのだ。
 だが口にするには恐怖を覚える言葉もある。
 ドレイクのときもそうだったように、気持ちを語る言葉にカイは脅えていた。口にしたらずっと保ち続けてきた自分をなくしそうな気がするのだ。
 その一方で、以前三四郎に言われたように、言ってしまえば楽になるのではないかという、淡い幻想も抱いていた。
「カイ?」
怒りのオーラが失せると同時に、いつもの陰鬱な空気を纏わせるカイに三四郎が不安そうに覗き込んだ。
 その気遣わし気な目を見返して彼には自分が酔っているのだと認識されているのをカイは思い出した。
 全てを、アルコールのせいにしてしまえば良い、言えないことも、張りさけそうな痛みも、全てをさらけ出しても許される。
 そう考えたカイは、自嘲に唇を歪めた。こんな風に考えてしまうこと自体酔っているのかもしれないと自己分析したためだ。だが、それはあまりにも魅力的な誘惑だ。
 思巡するまでもなく、手にしたグラスが勝手に唇に寄せられる。そして、鉛のようなシャンパンを一気に飲み干した。
「おいっ?」
慌てた三四郎が止めに入る間もなかった。薄く笑うカイは、グラスを梱包された器材の上に置いた。
 そして自分から、バイザーを取る。酔ったようにとろりとした瞳は、カイですら知らない色をしていた。まか不思議な、虹色の光沢を持つ瞳は長い間土に埋もれていたローマンガラスの被膜のように儚い。決して人の手では作れない、自然が作り上げた釉薬のみが持つような暖かな色合いに三四郎が息を飲む。
 カイの百態を知り、さまざまな瞳の色を見てきた彼もこの光は未知のものだった。
 三四郎をその瞳で釘付けにしたカイは、制服に手を掛け脱ぎ落とした。
「完璧に酔っ払ってる」
渇いた声で三四郎は低く呟いた。半ば茫然として見守る三四郎の前でカイは、明らかにその視線を意識した仕種で着ているものをはぎとっていく。
 床の上に衣類を散らせながら、カイは惜しげもなくその肢体を三四郎にさらけだした。カイの整いすぎた美貌がそうであるように、真珠のような白さをもつ体も作りものめいていた。
 まるで生々しさがなく、とても若い青年の身体に見えない。既に三四郎の視線に愛撫され、欲情を示している下肢ですら、白いままだ。
 カイの肉体は、動物が持つ生命特有の生臭さを削り取って残された結晶のように見えた。
 湿り気を帯びた吐息を漏らしたカイが、三四郎の視線を避けるように一度だけ目を伏せた。含羞のその仕種が三四郎の昂りを誘うことをカイは知っていた。
「あんた……」
あまりにも妖艶すぎるその媚態に後ずさった三四郎をしっとりと見詰めながらカイは三四郎が日頃寝そべっている器材まで追いやる。
「切れたあんたって……ほんとに怖いよな」
気押されながらもまんざらでもなさそうな三四郎が横たわるその上にカイは覆い被さる。
 荒々しく、噛みつくような激しい三四郎のキスが好きだった。それだけで血温が上がる。そして指の中できしきしと鳴く、滑らかな髪の手触りも……
 それらを存分に楽しんだカイは、三四郎の髪を束ねる皮紐を抜き取った。思わせぶりにそれにキスをする。
「腕を、三四郎」
囁くような低い声は、拒否を許していなかった。

 

 

 目の前で、ふだんと変わりない姿で朝食を食べているカイを見ていると昨夜の出来事が夢だったのではないかと疑いたくなる。冷たく、整った美貌を不透過のバイザーに隠し、感情の片鱗すら見せない。
 無表情を顔に張り付かせたカイをちらり、ちらりと眺めながらあれはやはり酔っていたからなのだろうかと三四郎は思い返す。
 シャンパンを飲み干して激変したカイに誘われるまま格納デッキで抱き合った。倒錯的な趣味は持ち合わせていなかったが、緩く腕を拘束されたまま、カイの愛撫を受けるのは刺激的だった。そうでなくとも、満天の星空をバックに、鏡のように抱き合う二人を写し出す強化ボードの側面は淫靡なものだ。そんな病み付きになりそうなシチュエーションがどうしても酒の上で行われたとは思えないのだ。
 三四郎を拘束しているために、ほぐされない秘部を軋ませながら着衣したままの三四郎を受け入れるカイは、泣いていた。
 彼が感じているのが痛みだけでないことを知っていた三四郎は、漏らされる啜り泣きが、普段の生理的なものだけには感じられなかったのだ。
 まるで泣くために苦痛を得ているような、そんな涙だった。
 それを裏付けるように、頬を濡らして極まったカイが倒れ込んだ胸で何かを呟いたとき、一瞬だけ体が緊張し体温を下げていた。
 激しい吐息と、喘ぎに紛れて呟かれた言葉は『愛している』というものだったような気がする。だが直後に見てしまった苦しげな表情を考えると思い上がりではないかという疑いもあった。同時に酔った上でのことならば聞いてはならないという自制心が働いた。
 自分の感情を表に出すことを嫌うカイが、酔って漏らしてしまった言葉を指摘することはマナー違反だということを三四郎はわきまえている。
 酒の上での出来事は忘れてやるのがエチケットなのだ。
 だが、あの時のカイが酔っていたとは信じられない。サンドラにキスをしたときも正気だったと確信している。だからサンドラに嫉妬さえ感じたのだ。それを知られるのが癪で酔っているのだと決めつけただけなのだ。

 本当に酔っていたのだろうか…。
 それとも自分が与えたシャンパンが限界を超えさせたのだろうか。
 だとするなら、あのストリップも、サディスティックな欲情も納得できないこともない。
 カイが自分に対して、時折暴力的になることは三四郎も承知していた。意識のないまま露見するカイの暴力の延長であるならば、最後の、最後に見せたあの悪魔的な薄笑いもそうだと言える。
 時間感覚が狂いそうな、情熱的で濃厚なときを過ごした後、喉の渇きを覚えた三四郎は、気も抜けて、すっかり温くなったシャンパンを口にした。しかし味も落ち、思わず吐き出すほどの甘さに飲むことを断念せざる得なかった。
 それをカイは壮絶な微笑で見詰めていた。指でかき混ぜても、ほとんど気泡の上がらなくなった液体に満足げに低く笑った。背が寒くなるその様に、三四郎はこれが目的で誘ったのではないかと一瞬疑ったほどだった。
 酔っていたのか、酔っていなかったのか…
ぐるぐると回り始めた思考に三四郎の頭はオーバーロード寸前だ。いつもなら考えることを放り出すのだが、目の前にいるカイがそれを許していない。
 泣き出しそうな、柔らかな虹色の目をしたカイが何を思っていたのかがどうしても知りたかった。これは興味というより、欲望に近い。かといって知ってはならないような気もする。
「私の顔に何か付いていますか」
言葉に詰まった三四郎は、きまり悪げに顔をそらす。それを無表情に見詰めるカイの唇がそれと分からぬほど吊り上がる。いやそれすら、隠すために水の満たされたグラスがあてられた。
 無味無臭の、冷たい水の感触にカイは、駄目になってしまったシャンパンを思い浮かべた。
 金色に輝きながら、泡立つことを忘れ、芳香はそのままでも、飲むに値しなくなったそれ。かろうじて、三四郎の指に微かな気泡を張り付かせたシャンパンは自分と良く似ている。
 『理想の美女』と上げるはずだった祝杯を飲ませたくなかった       その一心でしたというのに、残されたのは自分と良く似た残骸だった。
 指でシャンパンに最後の気泡を上げさせた三四郎は、自分にとってのグラス・マドラーなのかもしれない。悪酔いしそうな安物の、気泡すら上げようとしないシャンパンのような自分に、真珠色の恋の泡を立てる。
 「なぁ、あんた…昨夜のことどこまで覚えているんだ?」
意を決したように尋ねた三四郎は、それでも不安そうな上目使いだ。
「昨夜のこと……?何も覚えていないんですか」
「俺はちゃんと覚えている」
「なら何も問題はないはずでしょう」
「……」
三四郎はどう尋ねればカイを傷つけずに済むのか考えあぐねた。そこへ、機械音と共にサンドラが現れた。 仕事に一段落つけた彼女はコーヒーを取りに来たらしい。
「あら、おはよう。カイ、昨夜はごちそうさま」
「私は何も料理は作っていませんが」
絶句したサンドラを他所に、三四郎は笑い出した。
「良かったぁ、素面だったんじゃねぇかと疑ってたんだが、俺の勘が外れたらしい」
悩みが解決し、さっぱりとした笑顔がカイに向けられる。
「私が酔っていたというんですか」
眉を寄せて見せながら、自分を露ほど疑わぬ三四郎にカイはほくそ笑んだ。
 顔を合わせたときから独り百面相をしている三四郎を見れば疑っていることぐらいすぐに気がついた。
 カイの瞳が感情で変化するカレイドスコープ・アイならば、普段の三四郎の顔はカレイドスコープ・フェイスだ。
 三四郎の疑いを解き、なお且つ自分に有利な結論を出させたいカイにとって、サンドラと交わしたキスは絶好の伏線だった。
「本当に覚えてないの?あんなにすてきなプレゼントをくれたのに」
「サンドラ、止めておこうぜ。武士の情けだ」
何もかも胸に収めようとする三四郎にの懐の深さにカイは甘える。
「私が何かしたんですか?」
「なにもしてねぇよ」
「しかし……」
気掛かりそうに二人の顔を見比べておく。
 完全に策に嵌まっている三四郎は、自分に注意を向けようと自ら首を差し出した。
「なにしたか覚えてなくとも、俺たちがなにをシたかは判るよな」
予想していたリアクションだといえ、カイは頬をさっと赤らめる。
「ロマンティックなクリスマスだったぜ」
思わせぶりなウィンクにカイは椅子を蹴って立ち上がった。
「三四郎っ」
「思い出せただろう?」
鞭のようにしなったカイの腕から逃れた三四郎は昨夜のカイを記憶から消していく。
 酔ってなければできないこともあるのだ、言えないことも。聞き間違いだったかもしれない『愛している』も忘れてしまおう、あんなに悲しそうに言われても嬉しくはない。その言葉はもっと別の形で誇らしげに伝えてほしい。
 それは信じなくともカイが一番信じたがっている言葉なのだ。
「逃げるなっ」
「さっきまで忘れていたくせにどうして怒るんだ?何やっても良いって言ったじゃないか」
この言い訳は、怒った振りをしていたカイを本気にさせた。
「何をしても怒らないと言った覚えはないっ」
そうわめくと、三四郎の手首を捕えた。背を向けていた三四郎は振り向き様に、もう片方の手でカイのバイザーを掠め取った。真っ赤な瞳に表情を緩めると、カイの唇を奪う。
「次は『姫始め』しよー…」
能天気な提案を断末魔の叫びが遮った。
 三四郎がずるりと崩れ落ちようとする間に、バイザーを引ったくったカイの目は真っ赤だった。
 目撃したサンドラは、ゴシック映画の吸血鬼のような形相に思わず後ずさる。そして己の幸運に感謝した。
 酔っ払ってて良かったぁ………
それと同じ思いを、床の冷たさを頬で感じている三四郎も噛み締めていた。
 自分にすら人前でのキスを許さないカイが自分以外の相手に目の前でキスをしたなどとなったら立場がない。
 間男をされたような情けなさを感じていた三四郎は、制裁を受けてやっとカイが酔っていたのだと確信できた。
 幸せそうに目を閉じた三四郎を一瞥してカイは乱暴に食器を二人分、片付け出ていく。
 そして閉じられた扉の向こうで、あからさまに彼の肩の力が抜けたのを見たものは誰もいなかった。

 

 

三四郎が期待したベストマッチの美女、もしその女性のために何かを用意していたらを妄想しつつ、倉庫にされているデッキのシールドを上げ機材の上で盛らせてみたww

 クリスマスくらいカイがストリップで迫っても許されると思ったの、ツリーの電飾代わりに星々を照明代わりにしてみたかったの

 ということでないことにされた『愛してる』でした。

というお題が、呟き界隈ではあるらしい 笑

実は『えっちをしないと出られない部屋』とフラれてもそれってジュール・ヴェルヌ時代の三四郎とカイの日常的プライべーヴェートじゃないかと思ったの。
 ほら、特にカイなんて三四郎の体臭大好きでムラムラしちゃうしwwせずにおられないんだから『『えっちをしないと出られない部屋』だよね、ある意味 笑

 

 むしろこのお題で喜ぶのって、凱だと思う。凱にとって願ってもないチャンス!

 うっきうっきでベッドに上る凱にぺちぺちとラテックスの手袋を着けて

『ドクターさっさとスラックスを脱いでこちらに臀部を向けてください。私があなたを抱きます』

と攻め宣言するカイww

『部屋を出るための緊急避難です、早く終わらせてしまいましょう。三四郎が待っていますから』

 

という凱弄りは置いておいてこ『えっちをしないと出られない部屋』というお題にを呟かれていた方はここに『子どもの頃の身体に戻ったカイをいれる』という条件を加えてらっしゃいました。

そこで乗っちゃいました。
 『少年時代に戻った』と受け止めるカイと、『カイが小さくなった』と思う三四郎のプレイということで 笑

 

 

 

 

 

 

 

以下加筆

 

 唇に触れただけで離れようとした三四郎の首をカイは抱き寄せた。
 胸も肩も回しきれない長さの腕が唯一抱き締められるのが首だからだ。
 子どもの唇で大人の口付けを交わすカイの身体がふわりと宙に浮く。小さな華奢な身体を軽々と片手で抱き上げ慣れた高さに三四郎が合わせたのだ。
 小さな唇を割って差し入れられた舌を絡め取るのに今のそれは短くて応えきれないのが悔しい、もっと長く味わいたいのにすぐに息が上がってしまいもどかしい。
 幼い頃に手玉に取っていた男たちにこんな思いをさせられたことは一度もなかった     かつては楽しませていた体格差が身体も心も満たそうとしてくれない。
 なによりも大人の腕で抱き締められたいという三四郎の欲に応えられない、セックスのエキスパートであるカイにとって相手が満足しないというのは屈辱だった。
 たかが身体が小さいだけだというのに      屈辱に思いにまかせぬ焦燥と物足りなさが加わりカイは息を奪う舌先に歯を立てた。反射的に顎を引いき逃げかけた男を許さず腕に力を込める。
 おまえも私と同じように子どもになればいいのに、流れ込んだ三四郎の痺れるような痛みにカイはいい気味だと唇をと吊り上げ傷付いた舌先を強く吸う。
 鉄の味が口いっぱいに広がった。
 カイの肌に血が滲むまで牙を立てる男への意趣返しに少し留飲の下がったカイの身体の変化にまず気付いたのは三四郎の方だった。
 抱き上げた華奢な身体の重みがぐっと増したのだ。宙に浮き膝を蹴っていた爪先がいつの間にか脛に当たっている。
 質量の法則を無視した現象に目を見張った三四郎は重みの増したカイの身体を両手で支え抱き直した。まるで蛹から羽化した蝶のようにローティーンからハイティーンーと身体は伸びやかに変化していく。
 抱き直した腰はまだ細くゆうに腕が回る。その指先に下腹の柔らかな下生えが触れた。単純に子どもの身体が大きくなったのではない、大人へと成長しているのだ。
 その証拠に多淫に耽っていたイシスと違い、触れられないまま大人の身体に戻ろうとしているカイには僅かに幼い印が残っていた。先端の中ほどを薄く覆ったその名残を、三四郎の器用な指が先ほどの交わりの時と同じく優しく脱がせた。
「可愛いなぁ……」
つい漏れ出た三四郎の呟きに爪先が床に届くまで成長したカイが耳まで頬を赤らんだ。早く大人に戻りたいと願いはしてもまさかこんな形で戻るとは想像もしていなかった。
 身の置き場のない気分で身を竦めたカイを見ないように緩く抱いまま三四郎が苦笑した。
「ガキの時から大人になるまでのあんたを見れてちょっと得した気分がする」
三四郎の知らない頃のカイが腕の中で隅々まで知っているカイの姿になっていく。小さくしぼんでいた蝶の羽が優雅に広がるように、しっかりと両足で床に立ち記憶通りの位置に戻った青灰色の髪に唇を埋め三四郎は静かに体重を預けた。その彼をカイが支えて抱き締め返た     華奢で頼りなげな骨格の子どもにはできない、大人の身体だからこそ凭れ掛かる男を支えられる。
 ほっと安堵の息が二人から零れた。
 この身体に、この心が入っているから二人はパティとして選ばれ、対等なバディでいられるのだ。どちらが欠けてもバディではいられない。もしタイミングが違っていたら二人は出会うこともなかったかもしれない。
 体を起こした三四郎がジャケットを脱ぎ、全裸のカイを覆った。

 二人にとって時刻は深夜帯であったが、もう一組のクルーにとってはまもなく早朝帯だ。始業前のトレーニングを日課としているサンドラがいつ現れるかわからない。一糸纏わぬカイの姿を見られないためにも早くこの場を後にする必要があるのだ。
 何よりも不完全燃焼で終わらせた身体で燻り続ている火照りを早く鎮めたかった。

 底光りする黒曜石と、濡れて目まぐるしく色を変える万華鏡の瞳が熱っぽい視線を交わす。
 言葉の代わりに横抱きに抱き上げた三四郎の腕の中でぶるりと大人になったカイの身体が震えた。ジャケットの金属製のファスナーがつい先ほどまで薄皮に守られていた無垢な部分に触れたのだ。冷たく硬い金属による鮮烈な刺激はこの後にもたらされる快感を予感させるのに十分だった。
 子どもに帰り、大人へと生まれ変わった身体は心身ともにベストマッチの男によってこれから拓かれるのだ。

 身体と意識のバランスの取れない交わりへの怖れと期待に喉が鳴る。
「……こわい……」
私をなんだと思っていると言い放った傲慢な月人は恍惚と呟いた。

 

 

えー子どもから大人に身体だけが戻るんだから、やっぱ皮は無視できないよね。

月人だけど火星人とはこれいかに♪