さて、前節を読まれた方は、「ネッシーとは湖面に身体の一部を突き出す動物の一種である」とする捉え方に、「それは昔からの当たり前の話だ」と思われたかも知れない。

昔から、オカルト好きはネッシーを何かの動物と考え、インチキや勘違いを排除しながらネッシーの正体に迫ろうとしていたではないか、と。


それが意外とそうでもないのだ。(笑)

オカルト好きは、ネッシーが「未知の怪獣」的なものであって欲しいという願望を持つ。その願望が判断を狂わせる。

もちろん、「未知の怪獣」がいたって一向に構わないのだが、「未知の怪獣」を求める心は、それ以外の正体が確定したものを排除し、常に訳の分からないものばかりを拾い上げようとする。「既知のものでは説明できない証拠がこんなにあるじゃないか。未知の怪獣はきっといるのだ」と。

それは結局のところ、「分かること」を積み上げているのではなく、「分からないこと」に縋って夢を見ているだけである。その先に辿り着くのは、どうしたってファンタジーだ。

こういう議論は何も導かない。


ここからが本題である。

昔は、例えば「ネス湖の水は貧栄養状態なので魚は少ない。こんなところに大型動物がいるわけがない」などという議論があった。

これに対するネッシーファンの反論はこうだ。

「お前はネス湖の水中を全て隈なく調べて回って、本当にそこに大型動物がいないことを確認したのか?それができてないなら、いないとは言い切れないだろう。」

単に「分からないこと」を根拠にしているだけの大変苦しい反論だが、万能の反論でもある。

しかし現代は、見えない生物の痕跡すら定量評価できるようになってきた。それが環境DNA調査だ。(´・ω・`)


環境中には、そこにいた生物のDNAの断片が残されている。

ネス湖なら、湖水を汲み上げたら、そこにはネス湖に棲む多様な生物のDNAが含まれる。

これを皆さんご存知のPCR法で大量増殖し、その塩基配列を解読してデータベースと照合すれば、どのような生物のDNAがどのくらい含まれるかが分かる。

昔は湖の生物相調査なんて、罠や網でひたすら生物を集めて、同定して数えるしかなかった。

しかし今は、環境DNA調査によって、捕獲困難な生物や、見つけにくい生物の痕跡を見つけられるようになった。

ネス湖の水中を隈なく探して回る必要は無くなったのだ。


数年前に、「ネッシーの正体に決着を付ける」と称して実施された環境DNA調査の結論は、オオウナギだった。

とくにDNAが多く確認された生物のうち、最もネッシーの特徴に近かったのがオオウナギということである。

誠に残念ながら、謎の爬虫類やウミウシやアシカの遺伝子は見つからなかったようである。(-。-;

この点に関して、先のネッシーおじさんには、「ネッシーがオオウナギのはずはないだろう。ウナギはネッシーの特徴と全然違う。」と、またもや怒られてしまった。(笑)

しかし、彼が言うネッシーの特徴は、謎の怪獣を願う心が恣意的につまみ上げた、インチキかどうかも判然としない証拠物の特徴ばかりである。(・_・;


ここで思い出されるのが池田湖のイッシーだ。

池田湖もまたオオウナギがいることで有名である。

湖畔の観光案内所に行くと、首長竜イッシーの巨大なオブジェが迎えてくれる。

そして案内所に入ると、大きな水槽にたくさんのオオウナギを見ることができるのだ。

…誰も何も言わないが、何となく「そういう空気」が漂う。σ(^_^;)


オオウナギは、湖面上に身体の一部を突き出して泳ぐような習性はない、ネッシーやイッシーに特徴的な湖面上を進むコブとは違うとの話もよく聞く。

しかし、もしオオウナギに、湖面上に身体の一部を突き出して泳ぐような習性があれば、ネッシーもイッシーも、毎日頻繁に目撃されているはずだ。(・_・;

本来の習性ではないからこそ、ネッシーもイッシーも、滅多に目撃されないのではないだろうか。σ(^_^;)


さて、ワタシ自身はネッシーもイッシーも見たことがないので(いや、池田湖畔の観光案内所で見ているのかも知れないが:笑)、ワタシに言えるのはここまでである。

人間の認識は不完全なので、常に分からないことは残っている。

分からないからこそ、確かに分かることを少しずつ、愚直に積み上げていくのだ。


そして、こうも思うのだ。

もし将来、我々が遂に宇宙人と邂逅を果たした、その時。

その宇宙人が、スピリ的な超能力が使えなくて、アカシック・レコードなんて聞いたこともなくて、アメリカと闇取引した覚えもなければ、太古の人類に超科学を伝えた記憶もない、それを理由に「これは本物の宇宙人ではない」などと宇宙人の面前で言い放つような地球人ではありたくない。


ネス湖でオオウナギのDNAが大量に確認されたと聞いた時、謎を解き明かすためのヒントが増えて、ワタシはワクワクしてしまったのだ。(笑)

期待はずれのネッシーを、「これはオオウナギであって、ネッシーではない。」と言い放つのは、地動説や自然選択説を、神の教えに背くという理由で排斥した魔女狩りと何ら変わらないのではないだろうか。