さて、宇宙生物学における生物の定義の一つ目、ダーウィン的進化が可能というのはどういうことだろう?


「ダーウィン的進化」とは、普通に考えたら自然選択による進化のことだ。

すなわち、環境により適応したものは、生き残って子孫を残す確率が高くなる。その結果、世代を重ねるごとに環境に適応した個体の比率が増えるし、より適応度の高い方向へとバイアスがかかる。これが進化するというコトである。


「ダーウィン的進化をしている」ではなく、「ダーウィン的進化が可能」としているのは、別にいつも進化し続けている必要はないということだろう。

自然選択は淘汰圧がかかる環境下でしか働かないので、ダーウィン的進化が可能であっても、そのような環境下になければ進化は起こらない。現に人間などがそうだ。


さて、ダーウィン的進化、すなわち自然選択による進化を可能とするためには、いくつかの条件を満たす必要がある。

単に、自己増殖できるというだけではダメなのだ。

自分の完全なコピーを複製していくロボットというのは進化しない。

当たり前だが、同じコピーを延々と再生産し続けるのであれば、そのロボットはいつまで経っても進化しようがない。

進化が起るためには、その材料となる変異体を生み出す必要がある。

突然変異や、ウイルス、トランスポゾンによる遺伝子の組み替えがそうだ。

このような、コピーミスを起こすシステムである必要がある。


また、そのような変異を親から子に伝えていく遺伝システムも必須である。

例えば、温暖化の影響で高温に適応した個体が生き残ったとしても、その高温に強い形質が次世代に遺伝しなければ、結局自然選択はそこで終わってしまう。

その生物は、いつまで経っても高温に弱い個体が死に、強い個体が生き残るということを繰り返すだけで、高温に適応した生物に進化はできない。


このように、ダーウィン的進化を可能とするためには、複製ミスを起こす遺伝システムを持つことにより、遺伝的基盤を持った幅広い個体変異が存在するということが必須になる。


さらに、これらのベースにある重要な条件として、そもそも自己増殖による世代交代の仕組みが必要である。

世代交代があるからこそ、その際の複製ミスによって変異の選択肢が増えていく。

また、世代交代するからこそ、自然選択によって遺伝子構成が変化できる。

また、変異を生み出すためには、自己増殖によって多数の個体が生み出されるという、集団性も必要条件だ。


これらは何を言いたいのかと言うと、自分で自分の身体を改良していく一体のロボットがいたとしても、その改良はダーウィン的進化ではないということである。

進化は環境からの淘汰圧とそれに反応する遺伝システムによって受動的に導かれるプロセスであり、自律的な改良はダーウィン的進化とは言わないということだ。


以上をまとめると、ダーウィン的進化を可能とするには、自己増殖の仕組みが必須である。

しかし、単に自己増殖するだけでは生物とは言えない。

複製ミスを起こしつつ、子へと形質を受け継ぐ遺伝のシステムを持っていることが必要であるということだ。

この条件は、最初の生物学的な生物の定義における「自己増殖する」を、さらに厳密にしたものと言える。