O   あと『怒れる』と共通して出てくる議論に「殺してやる!」の表現に関するものがある。『日本人』のほうは「死んじゃえ!」なんだけど。実際には殺すつもりはなくても誇張表現で言うことがあるだろって話。そのへんもオリジナルの『怒れる』を意識して作っているのかなって思う。ちょっと、全然面白いこと言えてないけど大丈夫ですかね(笑)?
 
T   そもそもこれは面白いことを言うための対談じゃないでしょ(笑)。他に自分が面白いと思ったポイントは、この作品が作られたのが日本で裁判員制度が始まる前の時期ってこと。
 
O   90年ぐらいの作品だからそうなるか。
 
T   市民が裁判に参加するって制度が日本にはまったくなかった時代に、あえて架空で日本にもアメリカのように陪審員制度があったらという仮定のもと作られた作品で、その後日本では陪審員制度ではないけどそれに近い裁判員制度が始まって、この映画と同じようなことが実際に起きてるのかなって想像してみると面白く感じる。
 
O   まあ、自分も裁判員をやったことがあるわけではないから本当はどうなのかわからないけど、もしかしたらあんな議論が交わされてるのかもしれないね。
 
T   でも裁判員制度の場合は裁判官がある程度リードするみたいだから、完全に一から議論する陪審員制度とはまた違うんだけどね。そういった意味で、裁判員制度は日本人の国民性に合っているのかもしれない。
 
O   裁判員制度は仕事休んで行けるんだよね。だから早く仕事に戻りたい人はいないはずだ(笑)。
 
T   裁判員に選ばれたら行かざるをえないみたいだからね。そうしないとみんな拒否っちゃうだろうから。
 
O   できることならみんなやりたくないだろうしね。『日本人』の中でも、1番の陪審員長は一貫して無罪にしてるんだけど、その理由が今回の事件うんぬんではなく、以前にも一回陪審員をやったことがあって、そのとき有罪の判決を出して後味が悪かったら無罪にすると言うんだね。それはそれでどうかと思うんだけど(笑)。
 
T   まあ、たしかにね。
 
O   ちなみに1番の陪審員長はどっちの作品でも職業が教師なんだよね。そういうところもオリジナルに合わせたのかなって思う。
 
T   そもそも一番最初も、全員無罪になったのに議論したいからやっぱり有罪にしますってのもどうかと思う。早く帰りたいってのも違うと思うけど、このまま終わるのもよくないから議論するために有罪にしますというのは、本当は有罪と思ってないけど引き止めるためだけに有罪にしていて、それも違うんじゃないかな。
 
O   そうだよね。推定無罪だから、有罪で一致してる中を一人無罪にして議論するならわかるんだけど、全員無罪で一致してるならそれでいいんじゃないかな。
 
T   『怒れる』のほうはそっちの流れだったけどね。だからオリジナルの『怒れる』を知ってる人は、『日本人』のほうは無罪から有罪に流れていって最終的に有罪で決まるんだろうなと思って見るだろうね。
 
O   たしかに!自分もそう思って見てた!
 
T   でもそうすんなりいかないところが、パロディをうまく利用したどんでん返しになってるんだね。
 
O   逆に『日本人』のほうを先に見てから『怒れる』を見ると、捻られた展開の後で単純な展開を見ることになるから物足りなく感じるのかもしれないね。
 
T   そこは作者の三谷さんも、みんなオリジナルのほうは見てるだろうからという前提のもと作ってるだろうね。
 
O   この映画に関しては一つ個人的なエピソードがあって、会社の後輩たちと映画祭ってのをこれまでに2回やったんだよね。それぞれが紹介したい映画を持ち寄ってプレゼンして、見てみたいと思った映画に投票して、得票数が多かった映画を上映するの。
 
T   いろいろ面白いことやってるんだね。
 
O   それで後輩が『日本人』を持ってきて、僕がオリジナルの『怒れる』を持ってきてかぶっちゃったことがあった(笑)。
 
T   それは甲乙つけがたいな(笑)。
 
O   しかもプレゼンの順番はクジか何かで決めたんだけど、僕のほうが後になってて、後輩が「僕の紹介する映画はこれです!『12人の優しい日本人』!」って出した時に「やべぇ、どうしよう?」って思った(笑)。
 
T   そうか、その時点ではみんな何がエントリーされてるかわかってないのか。
 
O   だからその時の僕はたぶん無の表情になってたと思うよ。
 
T   「ちょっと待った!」ってそこで出しちゃえばよかったのに。
 
O   で、ようやく自分の番が回ってきて「『12人の怒れる男』です!」って出した時に、みんな「え?さっき聞いたよ」みたいな雰囲気になって(笑)。作品がかぶらなかっただけまだましだったけど。でも自分としてはまず『怒れる』から先に見てほしいって思いがあったんだけどな。
 
T   そこは絶対強引に押していくべきだったよ。
 
O   そして案の定負けるという(笑)。ほんと、いろんな意味で自分にとっては関わりの深い作品だよ。
 
T   今回は敗戦の傷をなめる対談になりましたね。
 
The End.