妻の詰子は医者の勧めでリベルサス(血糖を下げる薬)を服用している。
副作用が酷いので、3月から効果の弱い薬(7mgから3mg)に変えている。
詰子が診察を終えて車に戻ってきた。
「どうだった?」
シートベルトを締めながら尋ねると、彼女は短く答えた。
「数値が上がってた」
「3mgだから? 7mgに戻すの?」
思わず身を乗り出す。
「とりあえず食事に気をつけて、3mgのままで様子見だって」
「まぁ、よかったじゃん」
胸をなでおろすと、詰子は小さく肩をすくめた。
「来月も上がったら、また7ミリかも。はぁ〜、夜中に食べたのがダメだったかな」
彼女がぼそりとつぶやく。
「ハハハ、そういえばピーナッツをガッツリ食べとったな」
思い出して笑うと、詰子も苦笑いした。
「あれ美味しいもん。追加で買おうと思ってる」
「ハハハハ」
そんな他愛もない会話をしながら、車は調剤薬局へ向かった。
薬局で薬を受け取って戻ってきた詰子が誇らしげに言う。
「お薬手帳をスマホアプリで読み取る方法を教えてもらったよ。だからもう手帳は要らない」
「お薬手帳アプリに移行したってこと?」
確認すると、彼女は当然のようにうなずく。
「まぁ、そうだね」
「それ、薬局が変わったらどうなるの?」
ふと疑問が浮かぶ。
「薬局がどこであろうが関係ないよ。マイナ保険証で情報共有してるからじゃないかな」
なるほど、と僕は思った。
医者に自分の服薬状況を伝えるために存在してきたお薬手帳。
もしマイナ保険証だけで情報が共有できるなら、お薬手帳は不要になるはずだ。
そんな考えが頭をよぎり、つい口に出した。
「詰子ちゃん、ということはさ、マイナ保険証があれば、お薬手帳なんていらないってこと?」
しかし、詰子は呆れた様子だ。
どうやら僕の意図は伝わっていない。
彼女の中では、
“アプリに移行した → 紙が不要”
という単純で明快な話なのだろう。
今までの会話は何だったのか、とでも言いたげな表情を浮かべながら、
「ふっ、だから……」
と言いかけたところで、ちょうど彼女の職場に着いた。
「じゃ〜、このお薬、家まで運んでおいて〜」
「ハハハハ、わかった〜。じゃぁねぇ〜」
僕はあえて説明をせず、軽く手を振って見送った。
あとがき
詰子は先月からリベルサスを7mgから3mgに変更しました。
副作用がぐっと楽になったぶん、食事の量は増えています。
リベルサスは確かに効きますね。
7mgのときは特に顕著でした。
ただ、副作用があまりに強く、見ているこちらまで辛くなるほどです。
世の中には、リベルサスが効かずに悩む人もいるそうです。
そう考えると、詰子には「効く薬がある」というだけで、ありがたいことなのかもしれませんね。
そして気になった「マイナ保険証があればお薬手帳は不要なのか?」という疑問。
調べてみると、答えは意外にも「必要」でした。
理由は、「マイナ保険証の薬剤情報は1〜2か月遅れて反映される」「災害時やシステム障害に弱い」という制約があるからです。
さらに、電子お薬手帳と紙のどちらが良いか?
AIに聞くと「電子+紙の併用」が最も安全って言ってきました。
なんだそれ?
紙が優れている点は、電源不要で確実に使えること。
医療側も紙のほうが確認しやすいんだって。
とほほ……ですね。