【16時25分】
「なんだここ…知ってる? 」
「さぁ…僕も初めて来たっすよ… 」
散々細かい道を慎重に尾行しながら辿り着いた場所は、今まで見た事の無い旅館風の建物。ここまで奥へと入ってきた事も無かったが、全く知らない施設を見て、私は単純に驚いていた。
「これ、何すか?旅館? 」
「そうなのかなぁ… 」
「あ、タクシー降りるっす! 」
「あ、あぁ… 」
後から来た客を装い、来客用の駐車場に車を入れる最中、Yくんはずっとタクシーから降りる2人の姿を撮影している。女性の方は一瞬こちらをチラリと見たが、すぐに柏原幸広の方を向きなおし、当の本人は未だ警戒している様子は一切感じられない。
「あぁ…ここって家族風呂っすね」
Yくんがポツリと呟いた。
「そうなの? 」
「えぇ、あそこに書いてあるっす!こんな所がいつの間にか出来てたっすねぇ… 」
Yくんが指差す方向に視線を移せば、店名の横に小さく「家族風呂」と書いてあるのが見えた。ここが入浴施設なのは理解出来たが、周りを見ると比較的停められた車は高級車ばかりで、施設から出てくる人々も一見「お金持ちとその愛人」といった人達ばかり。
なるほど。ここはお忍びで温泉を楽しむ人達が来る場所なのだという事は理解した。邪な言い方をすれば「ラブホテルじゃない」っていうだけなのだろう。
「ちょっとパンフでも無いか聞いてくるっす! 」
Yくんはそう言い残すと、すぐに車を降りる。こんな時、Yくんの行動は異常に早い。彼の絶対的好奇心が窺われるのだが、こんな場所におっさんが1人で「パンフくれ」なんて、いきなり尋ねてきたら、私なら即座に通報するだろう。
施設に入っていく柏原幸広と彼女を見た時、彼女の方がやたらと燥いで見えた。きっと温泉が好きで、その願いを彼が叶えてやった格好なのかも知れない。言いたくは無いが、彼に金銭を渡し、その一部でちょっと良さげな温泉へ出掛ける…どうにも彼女が騙されている感は満載に見えて仕方が無い。
「要は…惚れたが負け…か… 」
そんなどうでもいい事を1人で呟いていると、Yくんがズカズカと施設の中から帰ってきた。
【16時30分】
「どうだった? 」
「いや、ここ凄いっすよ! 」
Yくんは興奮気味に三つ折りのパンフレットを広げながら話す。
「どう凄いんだよ? 」
「全部の風呂が個室になってるっす! 」
「おかしな事言うなよ。家族風呂だから当たり前だろっ! 」
「いや、そうじゃないっすよ! 」
「何が? 」
「要はホテルみたいに休憩出来る部屋があって、露天風呂が全部の部屋にある形っすよ。ホテルと家族湯の合体版って感じっす! 」
「へぇ…そうなんだ… 」
別に温泉好きでも無い私は、特段何の興味も示さなかったが、確かに私も似た様な施設は覚えが無かった。確かにそう言われて周囲を見渡せば、ツツジだ椛だの季節ごとに表情が変わる木々が植えてあり、紅葉の季節なんかにここへ来れば、女性なら声を上げて喜んでくれるかも知れない演出が施されている。
「ふん… 」
浮気調査でもないのにと、少しだけうんざりしながら、この場で張り込むか離れるかをじっと考えていた。
(続く)
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