「なぁ、おかしいだろう? 」
狩野弁護士は少し呆れた様に言う。
「確かにそうですね… 」
会社側がどんな理由で、もう少し強気な話が出来ないのかさえ私には分からなかったが、記録された用紙に目を通す限り、明らかに対象となる人物の会話は「詐病」と言われても仕方の無い内容だった。勿論、本人が「痛い」と、言ってしまえばそれが「嘘」であると立証する事は困難なのだが。
「だからこの男性の生活実態を調査して欲しい。出来るかい? 」
先生にそう言われ、思わずスタッフルームの方を見た。皆、頷いている。
「分かりました。必ず結果が出るかどうかは分かりませんが、やらせて下さい」
私がそう言うと先生は柔らかい笑みに戻り、吸い終えた煙草を灰皿で揉み消した。
「そうか。ありがとう、では本人に関する情報は後で事務所の者に送らせるよ。宜しくお願いします」
狩野弁護士はそう言いながら立ち上がる。彼がここへ来て僅か10分程度だった。
「え!?もう先生お帰りに? 」
「まだ何か聞きたい事でもあるのかい? 」
瞬間「しまった」と後悔した。予め車の鍵をポケットにでも隠しておけば、狩野弁護士を見送るフリをして、そのまま事務所を脱出できるのに、未だ鍵はデスク引き出しの中だ。どうすれば、この場を逃走出来る?
「それではお邪魔しました。どうぞ今後共よろしくお願いします」
先生が爽やかな挨拶を済ませるとスタッフは皆一斉に立ち上がる。さすがのひーも少し緊張気味でおとなしい。
「じゃあ梅ちゃん、またいつでも連絡ちょうだいね… 」
「あ、先生!ちょっと待って下さい」
「どうしたの? 」
「先生はお車ですか? 」
「そうだよ?どうして? 」
「…… 」
完全に逃げ場を失った私。頭の中は高速回転しているが、ここを抜け出す知恵も何も浮かびはしない。
「とと…とりあえず下まで送ります!待って先生!! 」
縋る様に慌ててそう言いながらチラリと後ろを見ると、皆がシラーっとした眼差しで見ている。私が逃げたがっている事は既にバレバレだ。
どさくさに紛れて一旦デスクの方へ向かい、車の鍵をバレない様に細心の注意を払いながら取ろうとした時だった。
「社長、何で車の鍵が必要なんですか? 」
「うっ! 」
背後で冷たく言い放ったのはSさんだった。
「い…いや、先生のお車出すのに邪魔にならないかと… 」
「梅ちゃん、それは大丈夫。駐車場が分からなかったから僕は近くのコインパーキングに停めてきたんだ。何より、運転してくれるスタッフを待たせているから大丈夫」
「……そうだったんですね… 」
「それではまた! 」
狩野弁護士はそう言ったきり最後まで爽やかに事務所を出て行った。しかし、私は見逃さなかった。賢明な先生の事、私がこの場を離れたがっているのは百も承知の筈。
帰り際、横顔がほんの少しだけ私の方を向いた気がした。その時、見たのだ。先生が悪意に満ちた笑顔を浮かべていたのを。
何だか腹立つ!あっしが全部悪いんだけど。
(続く)
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弊社は情報を管理する会社である都合上、上記のお話だけに限らずブログ内、全ての「グダグダ小説」は全て「フィクション」です。実在する人物、団体は、私を含むスタッフ以外、すべて架空の物です。弊社で行われた調査とは一切関係ございませんのでご了承のうえお楽しみ戴ければ幸いです!それからお話の途中で設定が「おかしいな??」と、感じる部分があっても所詮「ド素人小説」なのでくれぐれも気になさらないように♡読んで頂く皆様の「想像力」が全てです( ´艸`)
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代表取締役 梅木 栄二