世は空前のバイクブーム、だそうです。
2022年6月7日付けの日経産業新聞の記事によると、二輪免許の教習所は入校待ちが生じるほどに活況を呈しているとの由。
また新車も中古車も需要に供給が追いつかず、品薄で車両価格が上昇の一途であることも皆さん御存知の通り。
一方で、気になる情報も。押しも押されもせぬ名車、バイク界のメートル原器と言っても過言ではないレジェンド、CB400SFが2022年10月生産分を持って生産終了となるニュースがバイク界をザワつかせています。
「生産終了決定ッ!! CB400スーパーフォア/スーパーボルドール...」
同記事は同時にV4エンジンの名機 VFR800F/Xやゴールドウイングの一部モデルも同時期に生産終了することを伝えています。
そして私が昨年から密かに恐れていた事態も…。
GSX-S750については2017年のデビュー以来、例年2月ごろにその年のニューモデル(といってもカラーリングの変更のみのマイナーチェンジですが) が発表されていたのが、今年2022年は音沙汰なしだったので 「もしや…」 と思っていました。兄貴分のGSX-S1000がフルモデルチェンジした時点で 「やはり…」 に変わり、上記Web記事を目にした時点で 「合掌。礼拝。」となった次第です。
稀代の名機CB400SFが生産終了するご時世、マイナーメーカーであるスズキの、さらに不人気車種であるGSX-S750が生産終了したとしても世の殆どのバイク乗りにとってはさざ波がたったほどの影響もないと思われますが、私にとってはかなりの一大事でした。
「GSX-S750は稀代の名車である」 というお題ならブログ記事3回分ほどは優に書けますが今回はそれはさておき、個別モデルの生産終了に感じる寂しさとは別に、これらの生産終了のニュースがバイク界の今後を暗示しているように思えてなりません。
1980年代~2000年代の、「正真正銘のバイクブーム」を知っている身からすると昨今の各メーカーのラインナップの痩せ細りぶりには理屈抜きで危機感を感じます。
かつては「こんなバイク、誰が乗るんだろ…」みたいな少々意欲的なモデルも含めて各社がラインナップの豊富さを競っていて、ジャンル、デザイン、エンジン型式、カラーリング、排気量帯、いずれも 「こんなのに乗りたいんだよねー」 と思えば、どこかのメーカーがそれに近いものを出している、という選択肢の豊富さがありました。
そして、その多様性こそが、当時のバイクブームが本物であることの何よりの証でした。
私の愛機GSX-S750、名車中の名車CB400SFなど、名だたる名車たちが軒並み生産終了に追い込まれる大きな原因の一つがご存知のように「令和2年排出ガス規制」への対応に多大な費用がかかるためです。
欧州のユーロ5相当の同規制は日本では新型車を対象に2020年から導入されていましたがこの規制が2022年11月から既存車種にも適用されることにともなって、今回の大型リストラとなった次第です。
2022年6月23日付けの日本経済新聞にそのあたりの事情が掲載されています。
同記事によると、上述のホンダの生産終了の他にスズキではGSX-S750以外にもGSX250Rなど5車種、ヤマハは旗艦車種FJR1300シリーズのうち2モデルを生産終了予定との由。
同記事によると日本の4メーカーの計約190車種のうち、2022年末までに1割にあたる約20車種が生産を終える予定とのことです。
記事では排ガス規制対応へのハードルの高さにも言及されていて、新型エンジンの開発には数億円規模の費用がかかり、排ガス浄化装置で使われる貴金属の価格が高騰していることも逆風のようです。
厳しくなる一方の排ガス規制に加えて将来の電動化や今後の日本市場の需要先細りまで見据えるとメーカー各社としては今の需要が旺盛だからといって内燃機関の新モデルをお金に糸目をつけずに開発、という状況では到底ないということのようです。
私にとっては昨今の状況は空前のバイクブームどころか、「バイク界の黄昏」 のように思えてなりません。
もう一つの私なりの懸念事項は一向に減らないバイク事故です。
この表は 「令和3年版 交通安全白書」 の交通事故死者数の推移の数字を拾って作成したグラフです。
もう一つは同じ交通安全白書の数字をもとに作った2010年を基準とした2020年の死者数減少率の表です。
これらを見るに、2020年の自動二輪乗車中の死者数の絶対値はトップ2の歩行中や自動車乗車中に比べて半分以下であるものの、減少率は自動二輪乗車中は他のシチュエーションに比べて最も減少幅が少なくなっています (= 死者数があまり減っていない)。このことは折れ線グラフの右下がり具合を見ても一目瞭然。
歩行中、自動車乗車中は歴然と右下がり、自転車乗車中と原付乗車中も緩やかではあるものの右下がりであるのに対して自動二輪乗車中は微減・横ばいです。
どころか、2020年は前年と比較すると若干ではあるものの増えてさえいます。
こういった死亡事故件数の多さも昨今の「空前のバイクブーム」に水を差すものです。
冒頭に紹介した2022年6月7日付け日経産業新聞の記事ではこのことに触れるとともに、記者の実体験として危なっかしげな初心者に加えて車列間や路肩をすり抜けするベテランライダーにも言及しています。
この記事ではさらに、一向に減らない自動二輪車の事故へのメーカー側の取組みとして、自動二輪車に自動車並みの自動ブレーキシステムを搭載する試みについても紹介されています。
記事にも書かれていますが我々ライダーにとっては、意図しないタイミングで想定外の強さで制動されるとかえって車体挙動が不安定になるであろうことは容易に想像が付きます。クルマで普及したものをそのままバイクにも、とはいかない訳です。
また、ただでさえ高騰気味の車両価格がおせっかいな上にさほど安全性向上に貢献するとも思えないギミックの搭載で更にハネ上がるとなると、バイク界にとってよいことなのか悪いことなのか、よくわからない話になってきます。
こういったバイクを巡る難しい諸問題に対して、いちライダーである自分になにかできることがあるのだろうか?というのはここ数年の私の中の課題であり疑問でもあります。
前半の環境問題については正直、良い回答は得られていません。
自動車に比べて快適ではなく、多くの人も荷物も運ぶことはできず、移動の手段としては甚だ効率が悪いバイクという乗り物。生活の足というにはあまりにも不便でどう言い訳しようとも趣味の乗り物です。ましてや通勤でも通学でもなくただパイロンを並べたコースを走り回る練習会に至ってはもはやいかなる言い訳も思いつきません。その趣味の乗り物が二酸化炭素を排出することをもしも面と向かって非難されたら、どうにも抗弁のしようがありません。
我々にできるのは無意味な暖機運転はしない、空ぶかしはしない、街なかで必要以上に急加速して無駄にガソリンを消費しない、といった程度でしょうか。
要は人の目があるところで悪目立ちするような乗り方はしない、ということですね。
また練習会ではむやみに本数をこなすのではなく、考えながら実のある練習を心がけたいです。
一方で後半に述べた安全に関しては、バイクを後ろ指さされるような乗り物にしないために我々が関与できる余地は比較的大きいと思います。
これは安全に、マナーよく乗りましょう、に尽きます。
安全運転の技量向上については福岡県について言えば県内や近隣他県で開催されるグッドライダーミーティングのような講習会や、長井鶴交通公園(宮若市)や小石原川ダムふれあい公園(朝倉市) のような練習場所もあり環境的には比較的恵まれています。また、伝手がないと参加が難しかったりするケースもありますが一般の練習会もいくつかあります。
私のように安全運転の技量向上のための練習が楽しくて仕方がない、という人間にはこういった類の練習は一石二鳥です。
それともう一つ安全ということに関して言うと、ヘルメットは当たり前のことながらプロテクター類の着用というのも比較的簡単に実行できて効果も期待できる手段です。私は通勤のような普段使いでもバイクに乗っていますが、どんなに短距離であっても炎暑の夏でもプロテクター内蔵のジャケットと膝にパッドを入れることができるパンツを必ず着用しています。
そして、マナーよく乗る。これはお金も労力もかけず、誰でもできます。
不正改造したバイクで暴走行為などはマナー以前の問題なのでここでは割愛しましょう。それよりも日常よく目にするケースに話を絞ります。
クルマとクルマの間をすり抜けて車列の先頭に出たところで目的地につくまでの時間はそれほど変わらないでしょう。リスクを取る価値はないと思います。クルマのドライバーから買う反感の大きさと比べたら割に合いません。
路肩には変なものが落ちていてパンクするリスクもあります。ここを走るのもデメリットのほうが大きいと思います。
以前に比べて数が減ったバイクはその分、道路上では存在感が際立ちます。皆に見られています。見られて舌打ちされるより、私はマナーよく乗って「バイク乗りってかっこいいな。」と思われたいです。
私一人ができることは微々たるもので、バイク界の将来は決して明るいものではなさそうですが、多くのライダーがマナーよく乗って、事故が激減して世間の見方が変わって「まあ、クルマに比べて排気量も比較的小さいし、そもそも数も少ないんだからバイクは排ガス規制、大目に見ても良くない?」 てな感じに世間の空気が変わらないかなぁ、なんて期待するのは少々楽観的過ぎますかね (^^;)。