白砂青松の海を初めて見たのは六十歳を過ぎていた。定年後に旅行で鳥取県を訪れ雄大な日本海を見た時だった。

同じ海でも故郷が佐賀の干拓地で、車で15分も走れば有明海があるのだがここは有数の潟海。干潟の泥土と濃茶に濁った海水はとても白砂青松には程遠かった。従って小学生の頃帰省した夏休みは海水浴は出来ずもっぱら河口の川遊びまでだった。

釣りといえば堤防でハゼやドンポがたまに掛かるくらい。食卓には大嫌いなムツゴロウの照り焼きが乗っていた。

が、唯一の楽しみは真夜中にカンテラを提げて岩場で灯すと無数のイカゴと呼ばれる小さなヤリイカが集まってくる。これをタモ網ですくうと面白いように採れた。バケツいっぱいに持って帰ると翌朝母が甘辛い煮付けにしてくれた。

現在は有明海も護岸工事が進み潟海もガタリンピックの地域おこしに使われ結構なことだがあの楽しかった夏の思い出はもう還らない。