東京オペラシティには初台駅から直通で行けるので地上に出る必要がない。
だからだろうか、決して大きくはない会場には神々しい光の束が集まっていた。

篠山紀信という人について、私はほとんど知らないのだが、この写真家にあらかじめ知識は必要ないと思う。それほど会場と一体となって、観るものを包み込んでいく――そんな力を秘めていた。美空ひばり、三島由紀夫、大原麗子、夏目雅子、浅田真央、吉永小百合、王貞治、宮崎あおい、AKB48、市川海老蔵、山口百恵、そして先日亡くなった森光子、中村勘三郎……。

金井美恵子の次のことばを思い出す。

「ポターの絵本(※ピーターラビットの絵本)にあっては、おはなしにあわせて小さな動物たちの動作が描かれるのではないように、私には思える。小動物たちの動きからおはなしが生まれるのだ」(「ページをめくる指 -絵本の世界の魅力-」金井美恵子著)
 
言ってよければ、篠山紀信はスタイルに被写体を嵌めるのではなく、被写体に合わせてスタイルが生まれる、のである。つまり100人の被写体がいれば100のスタイルがある。それでいてブレない。
今回展示された作品は、1968年から2011年までに撮影された。そこには43年もの時間が流れているにもかかわらず、まるで、全てたったいま撮られたかのような錯覚を覚えてしまう。会場入り口のインタビュー映像で、「時流を先駆けるには?」という質問に、篠山紀信は「先を読まないこと、後にも戻らないこと。自分の立ち位置をちゃんと見ること」と語っていた。いまその瞬間を、金魚すくいのように素早く、しかしやさしく、すくい取るということだろうか。

だから、ある種の無茶苦茶さも生まれる。「BODY」というコーナーには、宮沢りえをはじめ、世を騒がせたエロティックなヌードが展示されているが、その中には、豊島園プール、大相撲、刺青の男たちの俯瞰ショットも一緒に並べられている。そして、どういうわけか共存しているのだ。究極のエンタメともいえるその表現の幅に興奮を禁じ得ない。

エンタメといえば、私が最も驚いたのは、東京ディズニーランドを収めた7点だ。
「夢か現実か」と問われたら間違いなく「夢です。早く醒ましてください!」と叫ぶだろう。子供のころシンデレラ城がトラウマになって以来、A・A・ミルンの「くまのプーさん」を除いて、あの世界に全く興味を持てなかった者にとって、この7枚こそ東京ディズニーランドそのものに思えた。いや、80年代以降の日本の闇のようなものも写ってしまっていたのではないだろうか。

ところでタイトルの写真力とは、「時空や虚実を超えて、脳裏に強くインプットするイメージの力」とのことだが、私は、篠山紀信の次のことばに深く共感し、リスペクトしたくなった。
1940年生まれ。まだまだ頑張ってほしい。

「虚と実の間にひそむリアリティにこそ写真の力がある」

『篠山紀信展 写真力 -THE PEOPLE by KISHIN-』
公式HP http://www.operacity.jp/ag/exh145/
※展覧会は終了しました。