うつ状態になっている方に仕事や勉強を休むことを提案すると、強く抵抗されることがある。
一週間あるいは1ヶ月ぐらい休んだところで、実際には業務やキャリアに大きな影響はないということは、理論的には本人も分かっている。

しかし、本人の中では、これまで苦しくても必死に頑張ってきたことをやめるということは、その場で「止まる」というイメージより、ズルズルと後退し、堕落の人生に落ちてしまう恐怖があるようだ。
特に若い人は、自分が止まっている間に他の人が前進してしまうので、相対的にもこの交代イメージが強化される。

そもそも人は怠惰のプログラムを持っている。あまり効果が感じられない作業には、エネルギーを出さないという省エネのプログラムだ。
長期的に何かを成し遂げなければならない時には怠惰のプログラムを理性によって打ち消して、努力を続ける必要がある。それを私たちは小さい頃から訓練してきた。

だから、私達は、前進をやめると、 ダメな人生に転げ落ちてしまうという恐怖を持ってしまうのだ。

うつの時は、理屈よりイメージで説得した方が受け入れてくれるので、私は、昔の車と今のオートマ車の違いで説明することがある。
昔の車は、ちょっとした上り坂でアクセルを離したら、確かに、後ろに走り出してしまう。ブレーキが間に合わなかったり壊れていたりしたら、とことん下まで転げ落ちる可能性もあっただろう。

ところが、今のオートマ車は、アクセルから足を離しても、ゆっくり前進する機能になっている。クリーピング現象と呼ばれるものだ。
この機能のおかげで、ちょっとした坂道でアクセルを離しても、まだうっすらと前進する力がかかっているため、簡単に後ろに下がることはない。

頑張ることを必死にトレーニングしてきた人は、クリーピング現象が起こるオートマ車のように、常に前に進む力を発揮できる人なのだ。その機能がついている。

そういう人は、アクセルを外しても簡単には後ろに下がらない。
アクセルを外し、ブレーキを踏み、パーキングにして、エンジンを止め、そして、ガソリンを補給すれば、これまで同様、坂道をぐんぐんと走っていける。

このプロセスを始めるとき、まず必要なのが、勇気を出してアクセルから足を離すことだ。決してそれで後退はしない。それを確認できれば、少し落ち着いて給油(うつの場合必要な休養)ができるようになる。

 

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