感情は、私達の情報収集や分析を、かなりゆがめてしまう機能がある。
私は感情による思考の偏りを、アンプ(増幅)機能、ズーム(集中)機能、ワープ(切迫機能)と表現している。
感情的になると冷静な判断ができなくなるのはこれら作用のためだ。
全ての感情はこの機能を有しているが、不安は特にこの三つを強力にするアプリだ。

今、紅麹の問題で多くの人が不安になっている。
中には、過剰に様々な食物を避ける人も少なくないようだ。
危険が増幅され、紅麹だけに思考が集中し、すぐに止めなければ死んでしまうと感じてしまうからだ。
販売停止の商品が増えていることと、TVやネットで関連の情報があふれているのがこの不安をあおっているように思う。

不安は先の三つの偏った思考機能を強化するので、とにかく情報を欲しがる。
また、マスコミもそれに応じて小さくてもリスクがありそうな情報をこまめに提供してくる。
ニュースやサイトのいわゆる専門家は、危険がないとは言ってくれない。そうなると、不安な人は、危険があるというメッセージとして受け取る。

また、今日の時点ではプべルル酸が注目され、ニュースで特集されている。
すると、もともと不安の思考が強い人は、聞きなれない「プべルル酸」について調べ、自分でどんどん不安を拡大させ、しまいには消耗してうつ状態になることがあるのだ。
コロナの時にも、一晩中ネットの情報を追いかけてから、うつが始まった方もいた。

冷静に考えると、確かに危険かもしれないが、量さえ取らなければおそらくさほど問題ではないはずだ。
ただ、既に不安に乗っ取られている人にこのような見解を伝えてもなかなか理解してもらえない。
感情が出す答えは、論理的ではないが、本人にとっては極めて「真実ぽさ」があるからだ。
これは東日本大震災の放射能の時の過剰反応の時と同じだ。

このように世間が浮ついている時は、自分の心を冷静に保つためにも、あまり積極的に不安情報に触れない方がいい。
例えばプベルル酸の問題も、研究者や製造者にとっては、何が原因かを特定する作業はとても重要だろう。ところが私たちは、ただ自分の身を守るだけでいいのだ。そのためには、ある特定のものを取りすぎないようにする、それだけでいいのだ。

こういう時期に専門家の意見を、積極的に追い求めようとすると、どうしてもネガティブ情報の影響を受け過ぎてしまう。
実は、自分の思考力や情報収集力に自信がある人がそうなりやすい傾向がある。
人は感情の3つの機能が働いていない時なら冷静な判断が下せても、不安のバイアスがかかると、どんなに頭のいい人でも、間違えた答えを出してしまうものだ。頭がよくても、この感情の働きについて知らないと、大局的な判断を間違う。それは、歴史を見ても明らかだ。

こんな時は、情報から離れ、少し、鈍感な人と過ごした方がいいだろう。

 

<お知らせ>

「がんばらない仕組み」三笠書房が発売されました。

感ケア入門講座が4月14日(日)に開催されます。