スポーツは私たちにいろんな感動をもたらす。
私が、北京オリンピックで個人的に感動したのは、不運が続き4位に終わった羽生結弦選手に松岡修造さんがインタビューするシーン。
「誰もトライしたことのないものに、何があってもトライし続けましたよ」という松岡さんの一言に、羽生選手は、涙をこらえきらなかった。そして「修造さんとは長いからな」とつぶやいた。

カウンセリングを学ぶとき、「感情を捉えよ」と教えられる。つらい、悲しい、悔しい、うれしいなどの感情が表現されたときは、必ずそれを要約しなさいということ。多くのカウンセラーがやっているが、私は、それでは浅いうわべだけの共感になってしまうと指導している。
本当に必要なのは、クライアントの体験(事柄)をきちんと聞いた(知った)上での、共感。


松岡修造さんは、いつもはとても前向きな「励まし」で知られている。私は、元気な人を勇気づけるメッセージ群を「頑張れルート」と呼んでいるが、講座などではよく「別名、松岡修造ルートです」と紹介して笑いをとる。ただ、頑張れルートは、落ち込んでいる人にとっては、責められているように感じてつらい。うつの人に頑張れはよくない、というのはよく知られた教訓だ。


そこで、カウンセリングでは「守ってやるよルート」で支援する。クライアントが弱っている場面では、頑張れではなく、頑張ったね、というメッセージから入る。

松岡さんの今回のインタビューは、まさに守ってやるよルート。しかも、松岡さんは、元プロテニスプレーヤで本当の修羅場を経験している人。しかも、引退してからも積極的に現場に足を延ばして取材している。羽生選手のこれまでのすさまじい努力を知っているのだ。
その人から、「本当によく頑張った」というメッセージをもらったから、羽生選手も涙をこらえきれなかった。


きっと松岡修造さんは、素晴らしいカウンセラーでもあるのだろう。