東大受験生を狙って傷害事件を起こした高校2年生のニュースでは、容疑者は自らも東大を受験を予定していた秀才だったらしい。ところが、最近成績が思わしくなく、挫折したという。

こういう事件があると、大人は、人生についてもっと現実的な知識を与えるべき、道徳や倫理を教えべき、相手の身になる共感力や自尊心を鍛えべきなどと議論する。

私は頭の良さには2種類あると思う。一つは物事を深く探求する力。もう一つは幅広く考え、バランスの良い選択肢が選べる力。
学校で鍛えられるのはどうしても深く学ぶ方の力だ。
一方、大人になってからの社会では知識が豊富なだけではうまくいかない。幅広く考える力が伴わない深く考える力は、社会から逸脱する行動を生むこともある。

では、幅広く考える力はどうやって身につけるのだろう。

カウンセラーの私には、何かを教育する、覚えさせるということ以外に重要なことがあると感じている。それは、感情との付き合い方だ。

感情はその人の思考の「方向性や重点のおき方」に影響を与える。冷静な時にはチョイスしないような選択肢でも、感情が強く働いている時にはその方法しか目に入らなくなる。恋愛でも株の取引でも、知識があっても感情的になった時は選択ミスが起こる。
ブラック企業から離れられないのも、自殺しか選択肢がなくなるのも、犯罪を犯すことしか考えられなくなるのも感情が大きく関わっている。

しかし、残念ながら私たちはこの感情との付き合い方について、学校でも教わらないし、自己流で試行錯誤しながら、人生の中でコツを掴むしかなかった。
そのほとんどが「忘れてしまう、なかったことにしてしまう、言い聞かせる」という我慢によって感情を抑え込む対処法だ。

元気な時はこの対処法でもなんとかなるが、自分が弱った時には破綻する。そして選択ミスをしてしまう。またこの対処法は長く残る恨みを生む場合もある。
感情の対処法について、我慢以外の方法を、身につけるべきだ。

子供達の幅広い思考を鍛えるのは、身近な大人たちの役割だと思う。何を伝えればいいかだけでなく、大人はもっと感情について関心を持ってほしい。