今月からOTO工房らしい?かーなり古いピアノの修理が再び始まっております。

 

 

CARL HARDT

カール・ハート

 

 

という国産のピアノです。カール・ハルト、カール・ハードと発音する場合もあるようです。このピアノは福山ピアノというかつて日本にあったピアノ製造メーカーで作られたMADE IN JAPANのピアノです。

 

いわゆる我々が"フクヤマ"と呼んでいる同メーカー製造のFUKUYAMAやFUKUYAMA&SONSなどはたまに見かける機会がありますが、僕はこのカール・ハートは今回初めて出会ったブランドのピアノです。この機種は木目が多いようですが黒は逆に珍しいみたいです。

 

 

 

 

 

今回の福山ピアノという会社は1900年(明治33年)に「福山オルガン製作所」として福山松太郎によってオルガン造りから創業したメーカーと伝えられています。1900年といえば日本楽器(現ヤマハ)によって我が国第一号の純国産(部品など全てが国産)アップライトピアノが製造された記念すべき年です。その年にもう創業していたというわけです。戦前にはドイツから巨匠ハインリッヒ・ウェルクマイスターを技術顧問に迎えピアノ造りに心血をつぎ込んだ歴史のある会社として我々調律師の間では知られています。会社の全盛期には最大で16ブランドのピアノを製造、今回のカール・ハートもその中の一つです。

 

 

かつて92鍵盤のコンサート用グランドピアノも作っていた。

 

 

下の年表からも「福山オルガン製作所」が日本のオルガンやピアノ製造会社の中でもかなり早い時期の創業であることがわかる(明治30の辺り)。また赤線で示されているのは東京や横浜など関東地区で創業された会社であり、黒は現在ではピアノの町として知られている静岡県の浜松地域を示している。つまりこの頃はヤマハ(山葉風琴製作所)以外のピアノやオルガンなど楽器製造の拠点は関東地区だったことがわかります。

資料出典:日本のピアノメーカーとブランド 著:三浦啓市

 

 

今回のピアノには当然というべきか調律カードや製造番号的なものは見当らないのではっきりした製造年はわかりません。がしかしおそらく1954年(昭和29年)の製造と思われます。なぜなら"1954"と響板にばっちり刻印があるのです。つまり68年前のピアノです。鍵盤の裏には手書きで昭和31年(1956年)とありますが楽器自体が製造されたのはその2年前ということなんだと思います。いずれにしてもかなり初期のカール・ハートであることだけは確かです。

 

 

「カール・ハート2号」という機種のようです。

かなり深い刻印が響板に..  左下の小さな刻印は2号の"2"でしょうか?

 

 

このカール・ハートというネーミングはどこからきたのでしょうか。実はドイツの古いピアノにほとんど同じ名を持つCARL HARDT STUTTGART(シュトゥットガルト)というブランドのピアノがあります。想像ですがそのピアノを参考に作られたのかもしれません。ピアノは西洋楽器なので当時は本場のピアノを参考に作っていたということが普通にありました。


本家のカール・ハートは167年前の1855年にドイツのシュトゥットガルト州で創業されました。フランスやイギリス、オーストリア等で数々の賞を受賞してきた歴史があるピアノ製造メーカーです。このCARL HARDT STUTTGARTの中古は現在もヨーロッパを中心に普通に流通しているようです。

 

 

↑今回のCARL HARDT JAPAN↓

 

ドイツ産CARL HARDT STUTTGARTのロゴ。

更に古い1800年代の個体はこの様なロゴだったようです↓

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写真お借りしましたm(__)m



 

さて、特に古いピアノの修理やメンテナンスを行う前には必ず「チューニングピン」の状態を確認しなければなりません。先にアクションの修理やメンテナンスを全て行っても、いわゆるチューニングピンが緩い"ピンズル"状態だと調律ができないからです。

 

でピンが緩い場合は必ずお客様にそのことをまずお伝えし、そのうえで修理を行うか否かの判断を確認しなければなりません。50年以上前のピアノでピンに問題がなければこれはもう絶対にラッキー。逆に緩いピンがあった場合でも費用はかかってきますがほとんどのケースで修理は可能ですので諦めないでほしいです\_(๑❛ᴗ❛๑)ココ!

 

で今回も予想通り?チューニングピンにかなり緩い箇所がありました。ただしっかりした部分もあるため鉄骨を外すなどの大掛かりな修理をせずに何とかできるという判断。そのことをお伝えしとりあえずは楽器として成立するように頑張らせていただくことになりました。

 

 

とにもかくにも古いピアノはチューニングピンの確認は必須。

 

 

ピアノという楽器は正直なもので、たとえ古くて音がバラバラでも、ちょっと音を鳴らし和音を弾いただけで、これはちゃんとメンテナンスをすればきっといい音を鳴らす楽器だということがわかるものです。このカール・ハートの音を聴いた瞬間、かなりこれと近い響きを最近聴いたなと感じました。それは昨年出会った広島ワグナーです。もちろん楽器が異なるので全く同じ音などありえませんが、ゴォワ〜〜〜〜〜〜ンという艶のある遠鳴りがいつまでも消えない響きがよく似ていたのです。

 

 

鍵盤は貴重な象牙。

 

 

アクションの傷み度合いやチューニングピンの緩みの症状などから、今回は一昨年に行わせていただいたイースタインBや昨年出会ったヤマハのミニピアノに近い内容のメンテナンスになりそうです。楽器の古さでいうと昨年末に行わせていただいたヤマNO.20とちょうど同い年の68歳でほぼ古希クラスの楽器です。

 

欧米ではこのクラスの古いピアノは笑ってしまうくらいざらにありますが、日本ではかなり少なくなってきているため上記3機種と同じく希少性は高い個体です。また古いピアノは日本だと処分されてしまうことが多いですがピアノの本場欧州では修理して長く使われるということも注目点です上差し

 

この理由の一つは、日本は年間を通して湿度が高い時期が長いため天然素材や鉄材を多用したピアノという楽器の長期保存に向いてないということが挙げられます。弾かれなくなって何十年もの間放っておくともう一気に内部が傷んでしまうのです(湿度の低い地域は別)。

 

一方ヨーロッパなどはピアノ保存に適した自然環境の地域が多いためピアノが傷みにくいのです。100年以上前に作られたピアノが普通に流通しているのはこの事も大きな要因の一つといえるでしょう。また日本で水分を多く含んでよく鳴らなかったピアノを欧州に持って行ったらその水が抜けて数ヶ月ですごく鳴るようになったという話も聞きます\_(・_・))ココ!

 

 

なんて激しい鉄骨のデザイン!

本家の鉄骨にも似た様なデザインの機種がある。写真お借りしましたm(__)m

 

 

 

 

 

今回ご依頼いただいたカール・ハート、

お客様のお兄様が大切に弾かれていた

思い出のピアノと伺いました。

 

「昔兄が弾いていたピアノの音が

今も耳に残っている」

と妹さんは静かに教えてくれました。

 

ピアノの蓋が閉じられてから

数十年の時が流れ

ピアノが置かれていたその空間だけ

時が止まったままです。。

 

 

今回修理を行うことによって

その長い時間が再び動き出すことを願いながら

作業を進めていきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

今日も僕のブログを読んでくれてありがとうございましたm(__)m

 

 

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