心霊ネタから離れてしまうけど、わたくし提唱のカレー理論(具材を切って煮込めばカレー/広げた風呂敷を気合いで畳む)からちょっと寄り道。


( ̄∀ ̄)v- 来たよ「死の島」。スイス生まれのアルノルト・ベックリンという画家が1880~1888年にかけて描いた絵で、けっこう有名じゃないかすら。


ずっと前に中野京子氏の「怖い絵」(文庫版だと「怖い絵で人間を読む」)のレビューを書いた時に取り上げた作品ですが、何が怖いってこれ、アドルフ・ヒトラーの執務室に飾られていて、その時代のドイツでは絵葉書や複製画が多数出回り、一般のお宅の壁にもよく架かっていたのだとか。


ヒトラーが画家志望だったのはよく知られてて、総統閣下になってからも美術品の蒐集が好きだったのも有名。当時ベックリンはマイナーな画家だったそうですが、総統閣下は何でもフェルメールとベックリンの絵がお気に入りで、全部集めて専用の美術館を作りたかったとか。フェルメールも割と後世から持て囃されたと思いますが、総統閣下の、少なくとも審美眼は本物だったかも。


(; ̄∀ ̄)v- あんまり景気のいい絵じゃないでしょ? 同じくスイス生まれのH.R.ギーガー(「エイリアン」のあのキモエログロなクリーチャーの生みの親)が、「ベックリンに捧げるオマージュ」と題してこれをリスペクトした絵を描いてますが、うんやっぱりギーガー御大です。


「死の島」というタイトルは画商がつけたそうで、描いたベックリンはアバウトに「墓の島」とか「静かな場所」と呼んでいたそう。いずれにせよモチーフとされたのはギリシャ神話の冥府の河の渡し守が、埋葬所となっている島に死者の魂を送るところで、そもそも若くして未亡人となった女性からの依頼で描かれたそうです。


(* ̄○ ̄) 夫の喪に服し、その思い出に浸れる絵を描いてください。


絵に描かれている埋葬所の島に生えているのは糸杉で、ギリシャ神話である若者が「永遠に嘆き続けていたい」と望んだエピソードにちなむよう。ベックリンは完成した絵にこんな手紙を添え、未亡人はいたく満足したそうです。


( ̄○ ̄) 深い暗闇に入っていくご自分の姿を、きっと貴女は夢想なさるでしょう。


永遠に嘆き続けたい。
その夢想に閉じこもりたい。


この絵の製作が8年間もかかったのは、ベックリン自身もこの主題がお気に入りだったようで、未亡人に渡した分を含めて5枚描いたからでした。


未亡人に渡した絵は今はニューヨークのメトロポリタン美術館にあり、同時進行で描いた少し大きいサイズの絵はスイスのバーゼル美術館。3枚目はドイツのベルリン美術館。4枚目はベルリン大空襲で焼失し、5枚目はドイツのライプツィヒ美術館にあるのだそう。ヒトラーの執務室にあったのは、今はベルリン美術館にある3枚目だそうです。


( ̄∀ ̄)v- 時代が下がるごとに少しずつ細部が違い、バージョン5では最初は小舟にまっすぐ立ってた渡し守が島に向かってお辞儀をしてます。見比べるのも面白いですが、なぜこんな主題を繰り返し描いたのか……


写真の2枚目はベックリンの自画像で、あらイケメン。でも背後から骸骨がいい笑顔で親しげに寄りかかっており、正直こういう肖像画もあちらには多いのですが、世紀末!デカダン!って近代にも「死の舞踏」は健在だったみたいすね。


( ̄ー ̄)v- 片手に頭蓋骨を持って描かれた肖像画は多く、わざわざそう描かせたのは流行りでもあろうし、あえて寓意を込めさせたんでしょうね。「俺は叡智を知っとるで」みたいな。


「怖い絵」では中野京子氏は、「死の島」がドイツで人気があった理由には「ゲルマン的だった」と書いており、そこはちょっと独文学に不勉強な私にはよく分かりませんが、同時に「世紀末ゆえ。大量死の予感を感じさせるゆえ」とも考察されており、漠然ながらああ、そうかもなと。主題はひたすら静謐ですが、何やら畏怖を覚える絵には違いないですな。識域下にある何かを意識するやうな。


( ̄∀ ̄)v- そんな曖昧模糊としてやたらスケールが大きなものは「考えるな感じろ」で脇に置いといて、少しずつ番組ネタに戻ります。3枚目以降はこれなら分かりやすい。ロンドンで行われている「ちょっと怖い歴史ガイド」の様子で、観光客に限らず、当の英国人がガイドさんに引率されて、かつて血生臭い事件があった名所旧跡をめぐっていました。


(* ̄∀ ̄) あまり知られていないロンドンの裏の歴史を詳しく知りたいですね。



これはまたダークサイドなパワースポット巡りを(笑) ロンドン塔から二王子の遺骨が出た国はひと味違う。とりあえず英国ではこうしたツアーがお商売として成り立っており、不謹慎ながら羨ましく思います。