義兄の所でおやつを食べたと聞いた彩は一瞬で怒りモードに入ったが、南瓜プリンを受け取るとまたすぐに機嫌を直した。


「短大の時に専門店があったのよ。1ホール食べたいと思ってたけど、恥ずかしいから我慢してたの」


夕飯の後に母娘揃って容器代わりの実ごとぱくぱく食べる姿を見て、女はどうしてこうも甘味は別腹なのかとしみじみ思った。彩は包みを開けて開口一番に「どうして崩れてるの?」と言い、義兄に一部分けたと答えると「兄さんが平地で甘い物を食べるわけないでしょ」と眉をひそめた。


「久しぶりに腹筋が健在なのを見たから、体脂肪を増やしてやろうと思って」


斎藤や柘植に「家族でしょほらほら」と囃したてられる姿を想像するのは楽しかった。柘植に頼んだ小細工がばれればまた大変だが、遅れてきた反抗期だ。どうにでもなれ。


祖霊舎の隣の床の間に据えられた骨壷の前には、佳奈が南瓜プリンを一切れ供えていた。神妙な顔で手を打ち鳴らさず二拍する様子を見て、親が大人げないのにいい子に育ったなと智史は思った。


やる事はいくらでもあり、まずは彩と佳奈が風呂に入っている間、裏の倉庫で探し物を始めた。……十年前にあの女に会った時、持ち帰った工具箱をしまい込んでいた筈だ。確か箱の蓋の裏側に、持ち主の住所氏名のようなものが貼られていた。


棚に懐中電灯を置いて埃まみれになって十分ほどで、錆びついた金属製の工具箱が見つかった。蓋を開けて内側を見ると、所在地が愛知県の町工場のシールがあった。個人名は無かったが、一宮市ならほとんど岐阜県だから会いに行けると智史は思った。


確証はないが、これは多分あのマリア像を寄進した男の持ち物だろう。役場か学芸員の林に問い合わせれば名前は分かるから、探し出すのはそれほど難しくない。そう思った時、背後に気配が満ちて肩に白い手がかかった。