調査・捜索隊として登高したのは以下の7名。年齢は1999年当時のものです。


エリック・サイモンスン(44)/遠征隊長

コンラッド・アンカー(36)/クライマー

デイヴ・ハーン(37)/高所カメラマン、クライマー

ジェイク・ノートン(25)/クライマー

アンディ・ポウリッツ(39)/クライマー

タップ・リチャーズ(25)/クライマー

トム・ポーラッド(37)/高所カメラマン


( ̄∀ ̄)v- サイモンスン隊長は「捜索に行く気まんまんだったのに、隊の管理運用に時間をかけすぎて高度順化し損ねたぜシット!!」で7600m地点で引き返し、カメラマンのトム・ポーラッドも酸素器具の不調で中途離脱。だから実質的に高度8200mの最終キャンプ(C6)から上に登ったのは、残り5人のどプロでした。


デイヴ・ハーンさん談

( ̄∀ ̄) 第5キャンプ(7800m)を出ると、時速40kmの風が間断なく吹いていた。引き返すほどの強風じゃないが、この寒い早朝に自分の体を安定させるのは少しばかり難儀だ。

( ̄∀ ̄) これだけの高度だと、実際の気温などほとんど無意味だ。酸素があまりにも少なく、人体が効率的に熱を生み出せないので、体感気温は寒暖計が示すものよりずっと低い。焚き火と同じで、燃料と火種のほかに必要なもの、酸素も欠かせない。


それでも夜明け前から登り始めると次第に気温は上がり、お誂え向きのコンディションになった。彼らは北稜の陰になる岩場を手探りで、北壁の方に向かって斜めに進みます。


( ̄∀ ̄) 雪は少なく、足元は不安定だった。ぐずぐずの岩のところどころに凍りついた岩が混じり、何もかもが斜めにきつく傾いでいる所を歩くのは、あまり気持ちのいいものじゃない。


ベテラン(自称:中年組)のハーンさんは割と余裕ですが、若いノートンさんは率直に「やべぇだろここ……」。


( ̄○ ̄;) ……このルートに来たのは初めてだったが、露出感も相当なものだった。下を見ると気持ちが萎える。


そこは北壁(稜線ではなく、広大な北面の斜面)の一角で、足を滑らせたらどこまで落ちるか分からないデンジャラスゾーン。はるか下に叩きつけられ登山靴の片方しか残らなかったクライマーもおり、プロでも心が折れそうになる場所です。


しかしこの若手のノートンさんがひとつ興味深いものを見つける。それはとても古い木製の柄がついたピトンハンマーで、1960年に北東稜を初登頂した中国隊のものでした。


( ̄∀ ̄)v- このハンマーの発見が手がかりになり、アンディ・ポウリッツさんが東ロンブク氷河で見つけた古いキャンプ跡(6630m地点)が、1960年の中国隊のものだと判明した。ヘムレブさんの見立ては、順調に当たっていってました。


ヘムレブさんは調査の起点になる1960年の中国隊の第6キャンプの位置を「スノー・テラスを二分する“不明瞭な小岩稜上”」と推測しました。結局そこはアーヴィンのアックスが発見された辺りでしたが、実際に登った調査・捜索隊は、ここからは己の判断でその周辺を探します。


アンディ・ポウリッツさん談

( ̄○ ̄) 1924年のあの日の午後に、オデールが最後にマロリーとアーヴィンを見た場所に、自分の足で立ってみたかった。

( ̄○ ̄) これまで75年の長きに渡り、オデールが見たとか見なかったかとか言って激しい論争になっていたので、私は彼が見たそのままの景色を自分の目で確かめたかった。


ポウリッツさんはその場所に立ち、その謎に惹かれる人間ならば一度は見上げたいと願う景色を見つめます。


( ̄ー ̄) ……ファースト、セカンド、サード・ステップはひとつひとつ明確に分離していて、何の苦もなく識別できる。

( ̄○ ̄) オデールが見ていた場所から見ると、「頂上ピラミッドの基部から間近な段差」と言えば、誰の目からもただ1ヶ所、サード・ステップ以外あり得ない。

( ̄○ ̄) ファースト・ステップは論外。セカンド・ステップも距離が遠すぎて、オデールの記述にはそぐわない……取り違える事などあり得ない。たとえ天候が悪くても。


これは旧来の「ファースト・ステップかセカンド・ステップか」を超えた画期的な意見で、トム・ホルツェルと共に「エヴェレスト初登頂の謎」を書いた山岳史家のオードリー・ソーケルド(サード・ステップの命名者)は、マロリーとアーヴィンが最後に目撃された場所はそこだと述べてます。


-v( ̄○ ̄;) ……推測という形だが、長年のうちに定着した「ファースト・ステップかセカンド・ステップか」が覆る? そこまで達していたのなら、マロリーとアーヴィンが登頂した可能性はこれまで以上に高くなる………


( ̄∀ ̄)ゞ HAHAHA。誰がこの辺に「スノー・テラス」なんて優雅な名前をつけたんだよ?


高所カメラマンでもあるデイヴ・ハーンさんがぼやきます。


(; ̄∀ ̄) 広いっちゃ広いけどさ、ヘムレブの指定した小岩稜を越えた辺りから北壁の傾斜は30度を越して、ぐずぐずの岩屑がはるか下の氷河まで埋め尽くしてる。サッカー競技場にすれば12面くらいあるが、それが馬鹿馬鹿しいくらいに傾いでるんだ。落ちたら終わりだね。


アンディ・ポウリッツさんの補足。

( ̄∀ ̄) 平地ならそれほど広くないが、高度8000mで、ジョギング中に心臓がバクバクしてる状態で、1歩につき3呼吸の割合で地べたを這いずってる状況だと、メチャクチャ広大に感じるね。


登頂経験のある中年組も、これまで経験した事のない超高所にやってきた若手クライマーも、おそらくこの雪田(スノー・テラス)のどこかで眠っているアンドリュー・アーヴィンの運命について、それぞれ独自の勘を働かせていました。


デイヴ・ハーンさん→( ̄○ ̄) 私が探したのは物陰のような所だった。誘い込まれていきそうな場所とか、風雪から庇われているような場所。

アンディ・ポウリッツさん→( ̄ー ̄) 私はマロリーとアーヴィンが登頂して下降中だったと思いたい。下降中に明かりも体力も尽きて座り込み、疲労凍死したんだと……だから常に上を見ながら、自分だったらどんな下降ルートを採っただろうかと予想を立てていた。


だが実際には、その場所は傾斜が急すぎて、上を見て歩くのは難しかった。ポウリッツさんは高めに登っては下を向いてルートを探し、巨大な地層の帯のイエロー・バンドにも踏み込みます。


( ̄○ ̄)「英国人の遺体」を見たという王洪宝は地質学者だったからね。彼が散歩に出て、この辺りで地質学的にいちばん興味深いのはイエロー・バンドだと思ったんだ。


そして、若いジェイク・ノートンさんはこんな視点から考えます。


( ̄○ ̄) ……相当の勢いがついて落下した体がやがて停まるとしたら、どの辺りになるかと考えた。これまでずっと、アーヴィンが滑落したのは1933年にアックスが見つかった地点だと考えられていたから、そこから下に向かって直線距離上に何かないかと思って探していた。


それぞれの考えで辺りを捜索するうちに、リチャーズとアンカーとノートンの3人は「うっ……」と絶句する場所に踏み込みます。


( ̄ー ̄;)( ̄○ ̄;)( ̄~ ̄;) ……………………………。


そこは墜落したクライマー達の遺体の溜まり場で、タップ・リチャーズはこう振り返ります。


( ̄○ ̄;) ……死はまるで霧のように、エヴェレスト北壁を覆う空気の中に充満している。そのショックはひどく大きかった。初めの数体を見た時には気味悪く、胸が絞られるようで、みじめになった。


中年組のデイヴ・ハーンさんもそこに来てこう思います。


( ̄ー ̄;) 私は、エヴェレストで亡くなった人達というのは、大抵が疲労のあまり何気なく座り込んでそのまま死んでしまったと考えていた……だが、それまでの見方が甘かったのは明らかだった。


彼らは合わせて6体の遺体を見つけましたが、すべてが比較的新しいものでした。その無残さは、若いジェイク・ノートンさんにも深いインパクトを刻みます。


( ̄ー ̄;) ねじ曲がり、折れ曲がった遺体を見ているだけで、「私たち自身がいずれは死ぬのだ」と暗澹とした。

( ̄○ ̄;) ……数日後には私たちが北東稜に登っていって、彼らが足を滑らせたルートをたどるのだ。遺体の変形の具合から見て、彼らが激しい転落を長々と続けたことは明らかだった。


「明日は我が身」。それを知識として持つことと、実感することは必ずしも同じではない。ここで死ねば腐ることもなく、野晒しで半永久的に留まり続ける。


しかしそれだからこそ、自分達はこれ以上に風化して、土に還れない筈のマロリーやアーヴィンを探しに来ている。自分達がこうなり得る実感を持たぬままで「来てしまった」…………………


( ̄ー ̄)v- いろんな意味で震撼する。それは「畏怖」というものかもしれないですね。


彼らは遺体を見つける度にベースキャンプのヘムレブさんにその様子を無線で伝えますが、するとすぐに「どこの国の〇年隊の誰々」と答えが返ってきたそう。


( ̄○ ̄)q 〇年に滑落した誰々だよ。靴下の色は---------

p( ̄○ ̄;) ……いや、いいわ。


捜索班のクライマー達は「色鮮やかなゴアテックスの防寒服やプラスチックの登山靴が見えれば、それはマロリーでもアーヴィンでもないからいいよ」と答え、さらに捜索を続けます。


その日エヴェレストに入っていたのは彼らだけでなく、無線にはいろんな登山隊の交信が入り混じっていました。彼らは何か見つけた際は合言葉でベースキャンプとやりとりしていましたが、「だんだん面倒になって音量を絞ってたし、合言葉も忘れた」そう。


「……降りてきたら……紅茶とスニッカーズ……スパムも………」


(-"-;) スパム喰いてえ……


胸ポケットにしまった無線機から聞こえる交信にそんな事を考えていたポウリッツさんは、不意に仲間の声を聞いて辺りを見回します。


(; ̄○ ̄) グループの会合を命令する!



すると北壁のある箇所に、他の面々が集まっていくのが見えた。はるか下のベースキャンプにいたヘムレブさんも「何かが起きた」と気づきます。