“12時50分、エヴェレストで初めて紛れもない化石を発見した喜びに浸っていた私が我に返った直後、にわかに大気が澄み渡り、エヴェレストの頂上山稜から絶頂にかけて、その全容があらわになった。”


( ̄ー ̄)v- その光景を、オデール(写真1枚目)はこう振り返ります。


“私の目は釘付けになった-----稜線上のとある岩の段差(ロック・ステップ)の下、小雪稜上に小さな黒い点が1つ浮き出し、そのまま動いていく。と、また1つ別の黒点が現れて、小雪稜上の黒点に合流すべく、雪の上を移動していく。”


( ̄○ ̄;) あれは……………


“そのころ第1の黒点は、大きな岩の段差に接近しており、程なくそのてっぺんに現れた。もう1つの点も同じようなあんばいだった。間もなく、その魅惑的な光景はかき消され、ふたたび雲に包まれた。”


( ̄∀ ̄;) 登っている…………


ほんの束の間、霧の切れ間からそれを見たオデールは、マロリーとアーヴィンが「頂上直下の岩の段差」を登攀中だと確信します。


“遠目にも見てとれるほど、かなりてきぱきした身ごなしだった。それは2人とも、そこから山頂に達して第6キャンプに戻るまで、明るい時間がそう長くないと意識していたからだろう。”


問題はここ。↓


“稜線上のその場所は、頂上ピラミッドの基部からあまり距離のない、よく目立つ岩の段差である。”


( ̄ー ̄)v- これは遠征失敗直後のオデールの証言で、そこでは「2つの黒い点が動いていたのは高度8500mのファースト・ステップか、それとも8580mのセカンド・ステップだったのか」は明言されていない。しかし1年後に出された遠征報告書ではこうなってます。↓


“……頂上山稜のわずかな部分しか見えなかったから、私には2つのステップのどちらに彼らがいたか、精密に確認することはできなかった。”

“その2つのステップの形は下から見ると非常によく似ている。私はその時には、彼らがいたのはセカンド・ステップだと思った。しかし今は、セカンド・ステップは斜面に隠れていたのではないかと思っている。”………


( ̄ー ̄)v- 遠征隊が帰国して1年の間に、関係者の間でいろんな議論があった。それは酸素ボンベの是否から始まり、「マロリーとアーヴィンは登頂したはずだ」とか、「疲労凍死ではなく滑落死だ」というもので、最後の、そして唯一の目撃者のオデールは疲れきってしまったんですね。


目撃した時刻は午後12時50分。これはマロリーがよこしたメモの「遅くとも午前8時には、頂上ピラミッドの下のイエロー・バンドを横切っているかスカイライン(ファースト~サード・ステップを含む稜線)を登っている」から考えるとかなり遅い。


( ̄○ ̄;) 予定通りに登っていたのなら4時間以上も遅れるはずがない。何かアクシデントがあって、セカンド(またはファースト)・ステップまで行くのが遅くなったのかも……


でもとりあえず、オデールがマロリーとアーヴィンを目撃したのは、予定時刻はかなりオーバーしているものの、登頂して日暮れまでに第6キャンプまで戻って来られる時間帯でした。


ヾ( ̄○ ̄;) ……あの分では登頂までにまだ3時間はかかる。それまでに第6キャンプに行って、彼らが一泊する準備をしておかなきゃ。


マロリーは「登頂したら第6もしくは第5キャンプまで下りるから、テントを空けて第4キャンプまで下りていてほしい」と言っていた。極地仕様の無線機がないというのは不便なものですが、オデールは言われた通りに第6キャンプに食料などを置いて第4キャンプまで下ります。


ヾ(; ̄∀ ̄)/ 帰りは雪の斜面をグリセード(登山靴+ピッケルで滑って下りる)………マロリーのコンパスも代わりのストーブも置いてきたし、大丈夫だろう。


第4キャンプでハザードに迎えられたオデールは、その晩は晴れていたので、登頂を終えた2人が第5か6キャンプに戻ったかどうかを双眼鏡で夜通し見張ります。


しかし上方のどちらのテントにも明かりは灯らず、懐中電灯や発火剤による救難信号も見えなかった。それはもっと下のノース・コルにいたノエル大尉たちも監視しており、次第に不安が募っていきます。


(; ̄○ ̄)/ 心配だ。様子を見に行くから、誰か一緒に来てくれ。


一夜明け、正午にしびれを切らしたオデールは、嫌がるポーターを2人連れて第5キャンプまで登ります。


この登攀はオデールの実力を証明するもので、彼は既にデス・ゾーン(8000m以上)で何日も行動し、何度も荷上げまでしていたのに、なおも人並み外れた底力を出していました。


( ̄○ ̄;) ……戻って来てない………


たどり着いた第5キャンプには誰もおらず、マロリーとアーヴィンが戻ってきた形跡はなかった。オデールはそこで一夜待ちますが2人は帰らず、翌朝には第6キャンプまで登ります。


連れてきたポーターは同行を拒み、オデールは1人で第6キャンプに向かいますが、そこではちょっと酸素ボンベを使ってみました。


( ̄□ ̄;)/ ……重いだけだ、効果ナシ!!


すごい話ですがもうすっかり高地に順応していたので、むしろボンベなぞ邪魔になっていた。第6キャンプにもマロリー達が戻ってきた形跡はなく、オデールはボンベを放り出し、そのままさらに上へと登ります。


( ̄○ ̄;) ……このまま、どこまでも登りたいような気がする。


エヴェレストの北稜は西から吹きつける強い横風がよく知られており、凄まじい暴風とひどい寒さの中を行くオデールは、こんな事を感じます。


ヾ( ̄○ ̄;) ……チョモランマ(世界の母なる女神)の聖なる隠れ家を侵したのは、正しい事だったろうか?

ヾ( ̄○ ̄;) ……しかし、そのそびえ立つ姿には、見る者を誘う力があるようだった。それに近づく者は必ずつり込まれ、すべての障害を忘れて、最も神聖で高いそこへ到達しようとせずにいられまい………


そんな「誘い」を感じはしたものの、オデールは2時間後に諦めて第6キャンプに引き返します。何の手がかりも見つからない以上、下にいる隊員達とあらかじめ打ち合わせていた仕事をしなければなりませんでした。


6枚の毛布が雪の斜面に十字架の形に並べられ、“遭難死”を表す合図を作り終えると、オデールはハザードと1人のポーターと共に第3キャンプに下り始めます。


( ̄○ ̄;) ……下山する時、ちらっと山頂を振り返った。それは冷たいよそよそしさで、私というちっぽけな存在を見下ろし、私の切なる願いを嘲笑っていた。


( ̄ー ̄;) ……秘密を明かしてくれ、2人の我が友にまつわる謎を明かしてくれ、という私の願いを。



第4キャンプを出発したのが6月6日。オデールにほんの束の間目撃されたのが6月8日。こうしてマロリーとアーヴィンは消えてしまいました。