本書には章ごとに、後の捜索隊が発見したマロリーの遺品の写真が掲載されてます。これは彼の腕時計で、現在に至るまでの「時」を象徴してるみたいです。


( ̄ー ̄)v- まずは『エヴェレスト初登頂の謎』の著者トム・ホルツェルが、最後の目撃者ノエル・オデールの孤立感を和らげたのではないかと引用した逸話を。


“1924年からずっと後に、シェトランド島出身のウィリアムソンという引退した画家が、マロリーとアーヴィンの最後の運命についてのニュースをオデールに連絡して来た。”


このウィリアムソンという元画家にはいわゆる霊媒の知人がいて、その人がアーヴィンの霊とコンタクトを取っていたのだそう。それによるとアーヴィンは「自分たちはエヴェレストに登頂したが、下山する途中にマロリーが滑落し、自分は1人で衰弱死した」と語ったそうです。


“山頂に到達したが、時間は非常に遅かった。闇が濃くなりまさる中を帰路につこうとした時、彼らは疲れきっていた。ザイルには繋がれていなかった。途中でマロリーが滑り落ちて死に、アーヴィンは1人で降り続けた。”


“ほんの少し行ったところで、彼はあまりの疲労に耐えかねて、稜線から幾らも下っていない辺りのとある岩に腰を下ろし、傍らのスラブ(一枚岩)の上にアイス・ピッケルを置いた。そのままひどい寒さの中で身体を丸めていると、マロリーの幻がふわふわと目の前に現れた。”


( ̄∀ ̄) さあ、来いよ。出発の時間だ。


トム・ホルツェルは「これは彼らの運命を告げる最初の超感覚的顕示というわけでなく、彼らの死の直後には似たような話がたくさん流れた」と前置きしてますが、さすが英国。オカルトネタへの親和性が伊達じゃない。


オデールは隊員の中で唯一「滑落死などあり得ない」と強く主張した人ですが、それは「滑落して死んだなど、彼らの名誉を傷つける」という反発心の顕れだった。しかしこのスピリチュアルな霊界通信は、仲間から孤立し目撃証言さえ疑問視されたオデールを慰撫しただろうとトム・ホルツェルは語ります。


( ̄○ ̄) オデールにとってこの霊界通信には、なるほどと思わせるような筋道が通っていた。


1933年に英国の第4次捜索隊がアーヴィンのアイスアックスを発見しますが、そこは標高8460m地点で、ファーストステップの230mほど東側、稜線から20mくらい下でした。


( ̄○ ̄) 『エヴェレスト初登頂の謎』でトム・ホルツェルは、そのアイスアックスが「わずかに傾斜のついた一枚岩の上にただ置いてあった」事を気にしている。何か事故があって落ちてきたと言うより、「わざわざそこに置いたようだ」と指摘している。


↑1999年に実際にマロリーの遺体を見つけたヨッヘン・ヘムレブ談。これについて、オデールがとても興味深い証言をしていました。


( ̄○ ̄) ……私には、どちらか片方が-----アーヴィンの方がアックスを持って岩登りをするのに慣れていない為、途中で「後で持ち帰ればいい」と、稜線上にアックスを置いていった可能性があると思う。


勿論このアイスアックスの発見状況は、マロリーとアーヴィンの遭難の謎をすべて解明する手がかりにはならない。しかしこのスピリチュアルな霊界通信を聞いたオデールは別に奇妙に思わなかったし、少し楽になっただろうと書かれています。

※もともと滑落派で、インド暮らしが長かったサマーヴェル隊員はもっとストレートに「あるよな」と受けとめた。


( ̄○ ̄) ……その話では、転落死したのは、経験の少ない彼の弟分(アーヴィン)でなく、マロリーだったのだ。


『エヴェレスト初登頂の謎』を書いたトム・ホルツェルはこう語ります。


( ̄○ ̄) 世間からの「酸素装置が故障したのではないか」という疑いは一掃されて、その点で酸素係だったオデールとアーヴィンの罪はなくなった。彼らは登頂したのだから、アーヴィンの登山経験の浅さも、もはや問題視され得なくなった。


( ̄○ ̄) アーヴィンは、マロリーが新しい生活(天国での?)への道を彼のために坦(な)らそうと慈悲の天使のように戻って来た時、“あの世”からの誘いによって孤独な凍死の苦しみからさえ救われたのだった。


「男が言っても角が立つ、女が言っても角が立つ。一職場に一オカマ」って喩えじゃないですが、時にスピリチュアルな話は人の心を和らげる。現実にはそういう訳にはいきませんが、この霊媒の話は、とても小さく個人的な範囲でオデールの重荷を減らしてくれたよう。


もともと遠征隊にアーヴィンを誘ったのはオデールで、酸素係として共に過ごす時間が長かった。そしてオデールの方が登山経験が長く、「なぜ最後の頂上アタックにオデールでなく未熟なアーヴィンが選ばれたのか」という疑問も根強かったのですが、それは相方を選んだマロリーの責任論に繋がるものでした。


酸素の問題と、自分がエヴェレストに連れて来たアーヴィンへの責任。そして「滑落したと認めるのは、彼の名誉を汚す」というマロリーへの思い。それらを背負うオデールに霊界通信を伝えたウィリアムソンという人は、ガチなスピリチュアルの人と言うより、「これを聞いたらちょっとは気が楽になるんじゃあ……」と考えていたのかも。


ヾ( ̄○ ̄) 私の友人で、最近亡くなった霊媒から聞いたのですが……


ひょっとしたら、その霊媒は存在していなかったのかもしれない。スピリチュアルも商売になるといろいろアレですが、この小さなエピソードには「深イイ話」的なところがありますね。


( ̄∀ ̄) さあ、来いよ。

( ̄∀ ̄) 出発の時間だ。


既に肉体を離れたマロリーはもう苦しんではおらず、ひとり残され寒さと疲労に意識朦朧としていたアーヴィンを呼びに来た。彼もそこで救われたのだ。彼ももう、現世での苦痛や批判から解放された………



エヴェレストには見えない同行者(ゴースト)がいるというオカルト話があり、単独登山者が「誰かが側にいて、孤独感が和らいだ」と感じる事があるのだそう。それは自分自身が生んだ幻かもしれませんが、いい話ですね。


※補足:この時計はマロリーが身につけていた遺品で、その止まった時間が遭難の謎の解明に役立つかと思われましたが、後に専門家が鑑定した結果「滑落の衝撃で壊れたとは断定できない」との事でした。