少し前にパレスチナ問題について雑な記事を書きましたが、それを思い出しました。


『FALLING』(落下)
(監督:アハロン・ケシャレス、ナヴォット・パプシャド/「オオカミは嘘をつく」)


冒頭は大きな木の幹の隣で揺れる足。一瞬「首吊り死体か?」と緊張しますが、それは大木に引っかかったパラシュートから下りられなくなってる女性兵士でした。


b( ̄○ ̄;)d ……………!!


辺りはサバンナみたいな平原で、そこに1本だけそびえる大木が聖樹バオバブのよう。撃墜されたのか機体の故障でかで緊急脱出した彼女は、やがて目の前に白い蹄(ひづめ)を見て緊張します。


近づいてきたのはヤギに乗った少年で、背中にライフルを担いでる。金髪碧眼で青い瞳の女性兵士は、黒髪で褐色の肌の少年と対峙します。


少年はライフルを構え、女性兵士は「やめて」と呟く。どう考えても絶対絶命。少年は険しい眼差しで彼女を睨み、「黙れブス」と言い放ちます。


b( ̄○ ̄;)d ……悪かったわ。“テヒラ”が欲しいのかと。


(; ̄○ ̄)“テヒラ”とは何だ。


b( ̄○ ̄;)d 賛美よ。今このまま私を撃てば、銃声であなたの仲間がやってきて手柄を取られるわ。


女性兵士は必死に頭を回転させ、正規兵ではない少年相手に時間を稼ぎます。


b( ̄○ ̄;)d そうなったら、あなたは「イスラエル女を捕獲」の賛美を受けられないでしょ? あなた名前は?


ああ。彼女はイスラエル軍の女性兵士で、アラブ人自治区に落ちてきてしまったのか。これは危ない。敵対してる年月が長すぎる……


少年は答えず、女性兵士は「名前をつけてあげるわ」と笑顔を作ります。


b( ̄∀ ̄;)d つけてあげるわ。“ムハンマド”。


( ̄○ ̄) 独創的だな。


偉大なる預言者の名前で呼ばれ、まんざらでもないアラブの少年。銃で武装してるけど子供なのだと分かってきた女性兵士は、もうちょっと冒険してみます。


b( ̄○ ̄;)d ……ここに登って、綱を切って私を捕まえたら?

b( ̄∀ ̄;)d 高い所が怖い? 私は空から無事に下りたわよ?


「どこが無事だ」と鼻白み、それでも構えていたライフルを背中に担ぎ、大木を登り始めるアラブの少年。


ヾ( ̄○ ̄;) 女は家にいるべきなんだよ。


アラブでもユダヤでも基本は男尊女卑。大人ぶった物言いでナイフを取り出してパラシュートの綱を切り始める少年。女性兵士は何だかおかしくなってきて、うつむいてクスクス笑います。


( ̄○ ̄;) 何を笑ってるんだ?


b(; ̄∀ ̄)d ……オシッコしたいの。


「何やってんのかしら私」という笑顔。だだっ広い平原で木からぶら下がって、まだ幼い「敵」に殺されまいと必死になってる。あたし一体何やってんのよ?……


( ̄∀ ̄;) 女は我慢できないからな。漏らすなよ?


一人前ぶった物言いで、それでも自然に湧き上がった笑顔で綱を切る少年。彼女はドサッと落下しますが、同時に折れていた足首の骨が露出してしまい、激痛に悲鳴をあげます。


( ̄○ ̄;) !?


少年が驚き、その弾みにライフルが肩から滑り落ちた。彼は慌てて手を伸ばし、バランスを崩して木から落ちます。


ヾ(; ̄○ ̄)/ …………!!


女性兵士は傷めた足を上げ、ケンケンして逃げ出しながら、背後を振り向いて少年が落ちる瞬間を見る。彼女はケンケンして引き返し、木の下で動かなくなった少年に駆け寄り屈みます。


(; ̄○ ̄) …………………………。


もう死んでいる。打ちどころが悪かったんだ。もう息がない。女性兵士は茫然と、死んだ少年の頬に手を伸ばします。


( ̄○ ̄;) …………………………。


だだっ広い平原に1本だけ屹立する、何かの象徴のような大木。遠くから車の近づく音がして、彼女は振り返ります。


1台の車がやってきて、兵士ではない、それでも年季の入った武装アラブ人たちが降りてくる。彼女は茫然とそれを見つめ、アップになった時がラストでした。


-v( ̄○ ̄;) ……彼女も死ぬのか?


アラブ人の少年を死なせるつもりなんて無かったのに死なせてしまった。長い間、自分たちがお互いにやってきたように。


身近なつもりだったがリアルじゃなかった「大義」が初めて少年を死なせ、いま自分も直面している。茫然とした彼女の表情は、観ているこちらもただ茫然とするしかないようなものでした。



これをイスラエル人の監督が撮ったのか。思わぬところで重いものに出会った心地です。