夜明け前の薄闇の中、ルイーズは古い遺跡にエヴァン君を案内します。


( ̄○ ̄*) 知ってると思うけど、この町は噴火で埋もれたの。


( ̄○ ̄*) 火山灰に埋もれた町は、1000年以上経って発掘されたわ。


ポンペイ……


ルイーズは慣れた足取りで遺構に踏み込み、「それは古代の“猛犬注意”の警告板よ」と指をさす。その先には古代の文字が刻まれた石板と、石膏で再現された犬の死骸がありました。


紀元79年8月24日、ナポリ湾岸にそびえるヴェスヴィオ火山の大噴火によって滅んだローマの自治都市。ポンペイが他の古代都市と違うのは、「繁栄のさなかに突然火山灰に埋まった町」であることでした。


発掘が始まったのは1748年で、1863年に「石膏鋳型法」が発明される。人間や動物を埋めた火山灰は死体が腐敗して朽ちた後もその形を空洞として留めるため、そこに石膏を流し込めば死体の姿を再現できる。発掘されたポンペイからは多くの美術工芸品だけでなく、生々しい「犠牲者像」も発見されました。


ヾ( ̄○ ̄*) そこは娼館。私は来た事がないけれど、そっちの角のベーカリーと酒場には来たわ。


ルイーズは発掘された町並みをスタスタ歩き、ひとつの民家跡の前で立ち止まります。


( ̄○ ̄*) 私の家族を紹介するわ。両親と弟よ。


( ̄□ ̄;) …………………………。


息を飲むエヴァン君。目の前には、熱さと苦悶に体を縮めた3体の石膏像が横たわっていました。


( ̄ー ̄*) ……変異の苦しみに比べたら、溶岩なんて大したことなかった。


目を伏せてぽつりと呟くルイーズ。たぶん違う。いちばん苦しいのは、この石膏像が永遠に存在する事なんだろう。


( ̄○ ̄;) …………。


言葉もないエヴァン君。この石膏像はさっき見たカタコンベのミイラほどリアルじゃないですが、死の瞬間の生々しさは痛いほど伝わる。むしろ細部がハッキリしてないのが一層むごい……


ルイーズの不死の人生はここから始まった。彼女は紀元79年の「ポンペイ最後の日」まで、家族と幸せに暮らしていたのでした。


( ̄○ ̄*) オキシトシンの話には根拠がある。事例は母よ。母も不死だったの。


( ̄ー ̄*) ……でも、私と父を選んだ。


もう顔立ちもよく分からないけれど、幼い子供を抱いたまま横たわるお母さん。彼女はもっともっと古い時代に不死を捨て、1回きりの人生を選んだのだとルイーズは語ります。


(* ̄○ ̄) 私は死にたくない。人の死も見たくない。


エヴァン君を振り返り、静かに、けれどもキッパリと告げるルイーズ。彼女にとって、死とは目の前の家族の姿そのものなのでした。


(; ̄ー ̄)v- 考古学的には価値のある石膏像だろう。しかしそれを見る肉親がいたら、こんなに酷いものは無い……


相次いで両親を失ったエヴァン君にはそれが分かります。もし自分が彼女の立場なら耐えられない。安らかな死ですらないというのに。


ヾ( ̄○ ̄*) ……ああ、その日時計に触っちゃダメよ。


無意識に半壊した遺跡の一部に手をかけるエヴァン君を見て、ルイーズが「保存のために触るのは禁じられてる」と制止します。


( ̄○ ̄*) アポロンとキリストがごっちゃになって、もう今では誰に献じられた時計か分からないの。


そんなに長い年月が経ったのに……



そろそろ東の空が白み始める。ルイーズはひどく静かな表情で、「変異が始まったら急いで逃げてね」と告げました。