カメラを掲げ、そろりそろりと水辺の女性に接近するあんちゃん。お前許可なく撮ってんじゃねーよ!……でも、あら?


(; ゜Д ゜)v- ほう!これはなかなか美しい………


背後からだんだん正面に向けて映るその顔は、山の中には似つかわしくないテラ美少女。年の頃は17~8歳か、流れるような黒髪に映える白い肌。どことなく儚げで、憂いを漂わせる美貌です。


(; ゜Д ゜) ………………………………。


ぼーっと見とれていたあんちゃんが、無意識に接近しすぎて岩にけつまづく。派手にバシャン!とコケた瞬間、女の子がハッとして顔を上げます。


( ̄○ ̄;) だ、大丈夫ですか?


ガラスの鈴のような澄んだ声。あんちゃんはあたあたしながら「だだだだだ大丈夫!大丈夫!」と立ち上がります。


(; ゜Д ゜) ………………………………。


( ̄ー ̄;) …………………………………。


両者しばしの沈黙。あんちゃんはいきなり視界に入った美少女に言葉もなく、女の子はそれなりの警戒の眼差しで彼を見つめます。


ヾ(; ゜Д ゜)/ いやあの、決して怪しい者じゃなくて………あっ!


どこからどう見ても自分が不審者。あんちゃんは慌てふためき、ハッとひらめいた小ワザを繰り出します。


(; ゜Д ゜)/ おいらベロってんだ、怖くないよ!!


ハイ、中指と薬指を畳んで掲げる例のアレ!


( ̄○ ̄;) ?………何それ。


ハイ全力でスベッた! あんちゃん、そのアプローチは相手をある程度知ってからでなきゃ危険!!


(; ゜Д ゜)/ いやあの……『妖怪人間ベム』知らない? 最近実写でドラマ化されたりしたんだけど…………


(; ゜Д ゜)/ ベム、ベラ、ベロって妖怪人間がいてさ。ベロがこうやって自己紹介するの。でも、指が3本しかないからやっぱり怖がられて………………


そこじゃない!!-v( ̄□ ̄;)


けれども「うちテレビないから知らない」と答えた女の子は、思ったより怖がる風もなく、岩に腰かけたまま問いかけます。


( ̄○ ̄*) おじさん、何してるの?


(; ̄○ ̄) なにって……別に何も。あちこち撮りながら歩いてたら、こんな山の中に女の子がいたから驚いて………


( ̄○ ̄*) 何を撮ってたの? なんで?


重ねて問われ、言葉を探すあんちゃん。彼は意識せず、なかなか気の利いた言葉を呟きます。


(; ̄○ ̄) 木とか、石とか……その、何て言うか、綺麗なものと醜いものが混じり合ってて面白いから………


( ̄○ ̄*) あたしはどう見えた?


(; ゜Д ゜) エッ?


にわかにどぎまぎするあんちゃん。見知らぬ男にあまり怯えた様子もない女の子は、まるで7人の小人が仕事から帰ってくるのを待ってる白雪姫のよう。そんなきれいな女の子にそんな質問をされたあんちゃんは、それこそ不審者みたいにどぎまぎします。


(; ゜Д ゜) ……えーーと………その、周りの風景にマッチして、すごく自然に見えた。


( ̄○ ̄*) それだけ?


(; ゜Д ゜) いや、だから………だから、すごく可愛いなって………………………


女の子は「ふうん」と呟き、不意に手を伸ばしてカメラを奪います。


( ̄○ ̄*) よーし。名を名乗れ。


家にテレビがなくて『妖怪人間ベム』も知らないけど、なんとなく時代劇くらいなら分かるよう。カメラを向けられたあんちゃんは「ちょっと止めてよ!」と尻込みしますが、女の子は事もなげに言い返します。


( ̄○ ̄*) おじさんも断りなくあたしを撮ってたじゃない。さあ、名前は?


(; ゜Д ゜) ……さ、櫻井。


そして問われるままに名は櫻井、36歳のフリーターだと答えるあんちゃん。


(; ゜Д ゜) 仕事は……年に3~4回バイトしてる。後は家でネットとか……


( ̄○ ̄*) 働いてなくて、親は何も言わない?


(; ゜Д ゜) 諦めたって言うか……自分でもこのままじゃダメだって思うけど、勇気が出ない。


( ̄○ ̄*) 今まで何人の彼女がいた?


(; ゜Д ゜) 何人って………いない。女性経験も………ちょっと、もういいだろ?


けっこう痛いトコ突いてくるなこの白雪姫。つい喋りすぎたあんちゃん=櫻井くんはカメラを奪い返し、今度は自分が質問します。


( ̄○ ̄*) 名前は川野つぐ巳。この近くでお母さんと2人暮らし。あたしも働いてない。体が弱くて………


( ̄○ ̄*) 今日は少し具合が良かったから、ここで外の空気を吸ってたの。


意外にもすらすらと答えてくれる女の子=つぐ巳ちゃん。櫻井くんは彼女が「あまり外に出られなくて学校にも行けなかったから友達もいない」と語るのを聞き、思わず身を乗り出します。


(; ゜Д ゜)/ ぼ、僕も友達がいないんだ! よかったらメールアドレスを教えてくれる? メールしていい?


けっこう攻めてくな36歳オタク系。でも、これでこんな綺麗な女の子とご縁ができれば言う事はない。割と後先考えず、櫻井くんはお願いモードに入ります。


( ̄ー ̄*) あたし、携帯持ってない。


( ̄ー ̄*) ……それにダメだよ。あたし、妖怪人間だし。


ちょっとうなだれてそう答えるつぐ巳ちゃん。櫻井くんは意味が分からず? 「じゃあまたここで会える?」と畳みかけます。


( ̄○ ̄*) 分からない。それに、ここはヒトが来る場所じゃない……あたし、もう行かなきゃ。


(; ゜Д ゜)/ ま、待って!



謎めいた言葉を残し、サッと立ち上がって身を翻すつぐ巳ちゃん。櫻井くんは慌てて後を追いますが、彼女は一瞬で木立の中に消えてしまいました。