怒りくまさんのブログにて、今日は江戸川乱歩のご命日と知って私も一筆。
“うつし世は夢 夜の夢こそまこと”
美しい言葉です。
ベラ・ルゴシ演じるドラキュラ伯爵の、
“Listen to them.
Children of the night.
What music they make.”
(聞きなさい。夜の子供たちだ。何という音楽を作り出していることか)
と同じくらい、詩的で奥深い。
生まれて初めて読んだのは小学校の図書館で、挿し絵が本当に怖かった『幽鬼の塔』でした。
( ̄ー ̄)v- ついさっき調べたら、乱歩のオリジナル作品ではなく、「メグレ警部シリーズ」のベルギーの作家の小説を日本を舞台にして書き換えたものだったと判明。
( ̄ー ̄)v- 巫女めいた美女に絡むかなりおどろおどろしい作品で、いかにも乱歩だったんですが。
『少年探偵団シリーズ』は図書館の目を引く棚に並んでいたんですが、この『幽鬼の塔』は常に一番下段の隅っこにありました。
後に『陰獣』『人間椅子』『孤島の鬼』『芋虫』などの、エログロパンチのききすぎた作品群を知るまでは、
( ̄ー ̄)v- なんで少年探偵団を書いた人が、『幽鬼の塔』なんて怖い作品を?
などと、素で疑問に思っておりました。
怪奇・妖美・猟奇と言えば、私には横溝正史の金田一シリーズの方が先だったんです。
とんでもねえ。
こっちが師匠筋だと知ったのは、多分中学生になってから………
それでもですね、
あんまり好きじゃなかったんですよ、乱歩。
怪奇・妖美・猟奇の書き方は乱歩の方が上手いと思うのですが、ちょっと浮き世離れしすぎた感が強かった。
横溝正史の、特に金田一シリーズは生身の人間の感情が伝わりやすく、人間ドラマとしても楽しめました。
( ̄ー ̄)v- そちらの手腕は横溝正史の方が上手いと言うのか、受け入れられやすいように思えました。
けれども、
現実離れしすぎる故の面白さが多少なりとも分かる気になってくると、乱歩作品にも好きなものが多々あります。
『お勢登場』
これは90年代の『RAMPO』という実写映画の冒頭に使われたアニメーション短編です。
( ̄ー ̄)v- この映画には2パターンあり、黛りんたろう監督版と奥山和由監督版が同時公開されるという奇妙な作品でした。
その奥山和由バージョンの冒頭に乱歩の短編の『お勢登場』が使われたのですが、今観ても決して見劣りしない秀作です。
肺病を患う主人公にはお勢という美しい妻がいるが、お勢は浮気している。
主人公はそれに気づいているが、面と向かって妻を問いただせない。
お勢が実家の母の病気見舞いにと言って若い愛人との密会に出かけた後、主人公は幼い息子やその友達と、自宅で隠れんぼをして遊びます。
隠れ場所に長持(大きくて頑丈な木箱)を選んだ主人公は、隠れたはいいけれど、フタが開かなくなってしまいます。
やがてお勢が帰宅した時、主人公は長持の中で息も絶え絶え。
「助けてくれ……助けてくれ……」
夫の姿が見えないのを訝しむお勢の耳に、か細い声が聞こえます。
「まあ……隠れんぼをなさっていらしたの? 子供じみた真似をなさるから……」
長持の前に膝をつき、呆れてフタを開けようとするお勢。
その時、彼女は一瞬で魔性のものに変わります。
開きかけたフタを、力を込めてまた閉じる!
長持の中からは、弱々しいカリカリという爪の音。
大丈夫だ。
誰も気付かなかったことにすればいい。
大丈夫だ………
しばしの魔の刻を耐え抜いたお勢は、何事もなかったように鏡台に向かい、外出着の帯を解きます。
しばらく後に発見された主人公の死の形相は凄まじく、長持の内側には、爪で刻まれた「オセイ」の文字が……
「お義姉さんの名前ですね?」
かねてからお勢の不義密通を苦々しく思っていた主人公の弟が疑惑の目を向けますが、彼女は
「まあ……それ程まで、私を案じて下すったのでしょうか……」
と涙をこぼし、疑惑をそらします。
そして彼女はとりあえず保身のために愛人と手を切り、裕福な未亡人として、幼い息子と共にどこかに去ります。
劇画家の池上遼一氏が凄艶なお勢を描いて劇画化していますが、映画『RAMPO』の冒頭アニメーションでは、お勢の顔はほとんど描かれませんでした。
その代わりに、魚眼レンズを通したような幻想的な映像が美しく、それだけで独立した作品にも見えました。
『RAMPO』自体は、竹中直人演じる江戸川乱歩が自分の分身の明智小五郎(本木雅弘)と度々入れ替わり、羽田美智子演じる薄幸の美女(お勢のように夫殺しの疑惑あり)を救わんと、帝都東京を駆け巡る作品でした。
平幹二郎演じる、ヒロインを囲っている女装癖ありのマザコン紳士が強烈でした。
( ̄ー ̄)v- 映像は美しいですが、著名人や芸能人を出しすぎで、かえって安っぽい印象でした。
エログロ規制のためにヌルくされて大々的に宣伝されるより、観たり読むのがちょっと後ろめたくてこその“大乱歩”じゃないのかなぁ……