偽史と呼ばれるものがあります。
個人蔵の巻物や古文書という形で現れることが多いですが、私たちが学校で習う日本史とは全く違う、トンデモ史だったりするものです。
竹内文書だとか東日流外三郡史だとか、数え上げるとキリがないようですが、たとえば東北に首都があったり、自分ちが皇族どころか世界の王だったりするものがある。
なぜそういう文書が書かれて今まで大切に保管されていたのか(もしくは近代に書いたのか)は、それは理由は様々でしょうが、
いずれも学校で習う歴史(正史)とは違う別モノ、“偽の歴史”と結論づけられています。
これを上手く活用した人がいます。
「正史とは所詮は勝者が作ったものであり、敗者には敗者なりの歴史がある」
東北を舞台にした作品を書いた高橋克彦氏も同じような意見を述べていたと思いますが、さらに確信犯なのが大塚英志氏。
『多重人格探偵サイコ』など、サブカルチャー系の漫画の原作者です。
本業は民俗学者だったかな? 『遠野物語』で名高い柳田国男の系譜の学者さんです。
この大塚英志氏が漫画家の森美夏氏と組み、生まれたのが
『北神伝綺』
『木島日記』
『八雲百怪』
の3作品です。
いずれも舞台は明治~大正の、軍国主義に染まった日本です。
日本はまだ近代化が完成しておらず、富国強兵のために邪魔なものを消し去ろうとしています。
日本には昔から連綿と続く迷信、妖怪、先住民、あちこちにある異界への入り口を、です。
いずれの作品にも狂言回しとそれに振り回される役割の人物がおり、
『北神伝綺』では民俗学の巨人・柳田国男と、弟子であり自らがその存在を否定した先住民「山人」の最後のひとりの兵藤北神と、愛憎入り混じったやり取りを交わします。
『木島日記』では、怪しげな政府機関の手先である木島平八郎と、悩み多き民俗学者にして国文学者の折口信夫が異界を巡り、
『八雲百怪』では、日本に帰化した作家ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)が、異界の入り口を塞いで回る政府機関の男・甲賀三郎と相対する。
津山三十人殺し
遠野物語
満州国興亡……
実際の事件や歴史を多用して、「これからの日本にあってはならないもの」を隠蔽する役目を担った狂言回しと、それをただ見届けるしかない実在の著名人たちが繰り広げる、裏の近代日本史の物語です。
懐古趣味
猟奇趣味
民俗学好き
妖怪好き
いずれの嗜好にもマッチする内容と、スタイリッシュでちょっと異様な絵柄がよく合ってます。
「偽史と呼ばれるしかないものを、せめて創作の世界で遊ばせてやりたいのだ」
文筆家としてはちょっと癖がある方ですが、この考え方は好きですね。
『多重人格探偵サイコ』でもそうですが、なかなか作品がきれいに収束しないのが難ですが……