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クライヴ・バーカーの手を離れてからはあまり観る気がしなかったんですが、観て良かったです。



『ヘルレイザー~ワールド・オブ・ペイン~』


監督:リック・ボータ
製作のひとりがスタン・ウィンストン


そして原作に掲げられるのが、英国パンク・ホラーの傑物クライヴ・バーカー。


ヘルレイザー・シリーズは、美しいパズルボックスを開けると現世に降臨する「魔導士」のインパクトと、彼らの姿に象徴される「究極の苦痛」を「究極の快楽」に反転させる倒錯的な世界観で成り立っています。


あからさまな身体的苦痛を体現した姿で現れる魔導士たちのいでたちは、黒革のボンデージ。


道徳的・倫理的な制約がきつい英国でこそパンク・ロックが生まれたように、価値観が反転する時はハンパなく冒涜的なものを生み出す。


英国人にしか作り得なかった、背徳的な作品だと思います。


人間が想像することもできない苦痛と快楽に満ちた世界(地獄?)からやってくる魔導士たちのリーダー格は写真の「ピンヘッド」。


( ̄ー ̄)v- 初代作より、ちょっと太りましたか?


ハードSMすぎる、痛そうすぎなご尊顔です。


舞台はルーマニアの都市・ブカレスト。
『アンダーワールド』はハンガリーのブダペストが舞台でしたが、東欧の街って独特の色彩がありますね。


青空でさえ灰色の曇天に見える石造りの建物や、青いフィルターをかけたような冷たい地下鉄の映像を見るたびにそう思います。


主人公は英国のタブロイド紙の女記者、エイミー。


危険を顧みない体当たり取材を得意とする気の強いお姉ちゃんですが、ある日上司から、1本のビデオを見せられる。


黒ミサを思わせる儀式で自殺する若い娘。
しかし、謎の青年が彼女に口づけると、彼女は生き返る……


そのビデオの送り主を訪ねてブカレストにやってきたエイミーは、自殺死体(腐る寸前)となっていた送り主マーラと対面します。


見開かれた目は白濁し、硬直した体にはハエがたかっている。
エイミーはそんな死体が手にしていた小さな箱(大きさはルービックキューブくらい)を取り、引き上げようとしますが……


-v( ̄□ ̄;)!!うわあびっくりした!!死体バリバリのマーラさんが激しく動いた!!


美しい装飾が施されたパズルボックスを手に入れてから、エイミーには不可解な怪事が雨あられと降り注ぐ。


「私たちを助けて」


遺言めいた自分撮りのビデオで、絶望感を漂わせつつ救いを求めるマーラ。


地下鉄を走る列車の中に展開される、地獄のSMクラブのような異様な世界。


列車に轢かれても死なない、ビデオに映っていた謎の青年……


“Deader”


ゾンビ化とは違う感じですが、儀式を経て「生ける死者」となったカルト集団のリーダーが、謎の青年・ウィンターでした。


ウィンターは「忌まわしい過去」を持つ人間を儀式で自殺させ、それによってトラウマを断ち切れると言ってエイミーを誘います。


エイミーにも少女時代の深刻なトラウマ(父親による性的虐待→父親を刺殺)があり、


「私は存在しない」


「血も肉も魂もない」


と、呪文のように唱えて迫るカルト集団に抗いきれない弱みがあります。


自我形成の過程で心に深い傷を負ったため、自分には価値はない、生きている価値はないと思い込み、それ故に危険な取材に飛び込んでいくというのがエイミーだった様子です。


なぜエイミーを狙うのか?


生ける死者となったマーラがそれをエイミーに教えます。


ウィンターはあのパズルボックスの向こうにいる魔導士たちを凌駕し、「究極の苦痛の世界」を自分のものにしたがっている。


その目的のため、パズルボックスと自分を結びつけられる存在は、エイミーしかいないのだと……


生ける死者たちは、決してトラウマからの解放なぞは得られていません。


儀式の際に銃を使った者には銃創が、刃物を使った者には生傷が残ったままですが、これは「精神的な傷」の象徴とも。


自殺したところで、救いなぞない。
それどころか、苦痛は永遠に続く……


これは実に、キリスト教的な価値観ですね。


エイミーもまた包丁を背中にブッ刺され、死なないどころか、ずっと血が流れ続ける体にされてしまいます。


パニックに陥る彼女の前に現れる魔導士ピンヘッド。


「パズルを開けた以上、お前の魂は私のものだ」


お前を救えるのは、
不死の苦痛から解放できるのは、私だけだとピンヘッドは語ります。


( ̄ー ̄)v- 実に異様な威厳です。ちょっと1人で、苦痛にウットリしてる感じ……


自分の野望のためにエイミーを利用したいウィンター、
地獄の覇権を守るためにエイミーを利用したい魔導士たち。


再びウィンターらに自殺の儀式にかけられたエイミーは、繰り返し繰り返し少女時代のトラウマを再現されて耐えきれず、自分を包丁で刺そうとするものの、


「思い通りにはさせないわ」


と抗います。


そこでひとりでに開くパズルボックス。
魔導士たちを従えたピンヘッドがその場に降臨します。


「お前は所詮、玩具屋の後継ぎだ」


ピンヘッド様お得意の、どこからでも飛んでくる鎖つきの鉤爪攻撃きたああああああ!!!


ウィンターの四肢はバラバラに引き裂かれ、カルト集団の面子もついでに貫通。


残るはエイミーただ1人。
しかしピンヘッド達には、パズルボックスを開けた者を生かしておく選択肢はありません。


「お前の父親もここにいて、お前を待っているぞ」


そう告げるピンヘッド。


彼らに連れ去られたら、永遠の苦痛の世界に堕ちてしまう………


悲しいかな、
この街に来た時から、
エイミーには現世で生きる未来はなかった……


「私は屈しなかった。今も負けない」


そう言い放ち、自らに包丁を突き立てるエイミー。


( ̄ー ̄)v- パズルボックスの向こうにだけは行かずに済んだけど……


その選択で、彼女の魂はどこへ行くのか?



初代作には及ばねど、別の感慨が深い作品でした。



( ̄ー ̄)v- 特典に入っている、別の監督による短編映画『NO MORE SOUL』がかなり良いです。


シェイクスピアの舞台演劇のように、ピンヘッド様が一人語り。
映像は古きよき怪奇映画の手法を使いつつ、
最後に魔導士たちによって惨殺され、皮を剥がされ椅子に釘打ちにされるピンヘッド様がカッコよすぎます。



本編ではちょっと不足気味だった、ピンヘッド様のヤバい美しさを堪能できるPV的短編映画でした♪