<カルマン渦>

 

昨日、Twitterにこういう報告が。

 

 

カルマン渦の発生前から収束時までの衛星画像は、下のようなもの。

 

 

利尻島から南西方向へ100km以上も伸び、11時30ごろから15時過ぎまで、4時間程度継続しました。

 

以前、記事で紹介したとおり、

 

 

利尻島は洋上に浮かぶ標高1500m以上の孤立峰なので、カルマン渦を発生させることがあるのです。

 

過去にも、年に一度ぐらいの頻度でTwitterにその発生が報告がされています。

 

利尻島のカルマン渦に関する過去のTwitter検索結果

 

今回のカルマン渦は、北海道の西岸にやや発達した低気圧が上陸し、東進してゆく過程で発生しました。

 

(気象庁より)

 

 

顕著な前線は解析されておらず、500hPaの天気図では

 

 

のように、

真冬並みの寒気塊を伴う寒冷低気圧(切離低気圧)の内部(しかも、等高線が円形に膨らんだところ)に発生しているので、寒冷渦的なものといえるかもしれません。

 

天気図や、衛星画像の低気圧の雲渦の様子から、このカルマン渦は、利尻島が低気圧中心の北西側に位置するようになって北東風が吹き始めたことに伴って発生していることがわかります。

 

カルマン渦は、川の流れに棒杭を立てたときに下流にできたり、強風時に電線がビュンビュン鳴らせる原因機構となったりする物理現象で、基本的には一様な流体(水や空気)の流れが柱状の障害物を左右や上下に分かれて避けて流れるときに、障害物の下流側で再び出会った流体が半規則的な振動をすることで発生する、ほぼ二次元的な現象です(もちろん三次元構造もありますが)。

 

衛星写真で観測される規模の大気中の水平面内でのカルマン渦は、上記のとおり「二次元的な」現象であるため、鉛直方向には一様な流れが実現されている必要があります。

 

この条件は、下図のように、洋上の孤立峰(日本付近では韓国の済州島、日本の屋久島、利尻島など)に対し、地上から山頂高度より低い高度までの低層に逆転層により閉じ込められた層状の冷気の流れがぶつかったときに達成されます。

 

上から見ると、冷気層は孤立峰が杭のような障害となって左右に分かれて流れ、島の下流で再び出会って乱れることになります。

 

 

日本では、冬期、大陸からの寒気の吹き出しがある際に韓国の済州島南方に発生するカルマン渦が有名ですが、寒気がやや弱まり始め(あるいは初めから強くなく)、寒気層の厚さが済州島の高度よりも薄いときにみられ、ひとつの寒波の終焉を告げるサインでもあったりします。

 

では、今回の利尻島のカルマン渦はどうでしょうか。

 

北東風が吹く低気圧の北西象限での発生ということで、単純に寒気が流入するエリアであるといえばそれまでですが、季節は初夏。

でも、オホーツク海は下図のように、まだ海面水温が2~3℃。

一方、利尻島のある日本海北部(北海道西方海上)は、対馬暖流の影響もあってか、6~8℃と、4~5℃高くなっています。

 

(気象庁より)

 

利尻島の本泊アメダスにおける当日の気温推移をみると、南風が吹いていた早朝(7℃前後)にくらべ、低気圧が南方を通過して北東風になった10時以降、気温は3~4℃と、早朝より3~4℃程度下降し、オホーツク海の海面水温と同程度の気温となっていることがわかります。

 

16時以降、風上にオホーツク海がない北寄りの風になり、それとともに気温が6℃前後に上昇していることからも、北東風の時間帯での低温にオホーツク海の低海面水温が影響していることが示唆されます。

 

風も、カルマン渦が発生していた時間帯は平均15m/sに迫る北東の強風が安定的に持続していたことがわかります。

 

(気象庁)

 

 

上記動画から13時の写真を切り出してみると、利尻島南方や積丹半島西方には、層積雲と思われる、いわゆる「筋状の雲」がみられ、冬期の東シナ海や日本海と同様の、下層寒気が吹き出している状況であることが推察されます。

 

 

ちなみに、稚内のウインドプロファイラの観測結果も載せておきますが、高度3km以下は下降流(青色)が観測されていますが、風向は下層全層で西よりで、あまり利尻島付近の状況を推察する参考にはならなさそうです。

 

<重力波(山岳波?)>

 

今回のカルマン渦ですが、写真をよくみると、利尻島付近(カルマン渦発生領域)を起点に、東西に伸びる雲筋が複数、南へ波状に伝播しているようにみえます。

 

端緒はちょうどカルマン渦が発生し始める11:40頃。

 

 

利尻島の南岸から短い雲筋が2本、南方へ連なっているのが見えます。

 

 

12:00になると、島を起点に扇形に南方へ4~5本の波状雲の雲筋が広がり、西側はカルマン渦の領域に重なっていて、東西幅も50km以上に伸びています。

 

この波状雲は同じような領域に13:10ごろまで明瞭に存在し、以後、薄れてゆきました。

 

 

もしかしたら、低気圧中心付近で発生した低気圧による重力波かもしれませんが、

波状雲の扇形の要は利尻島に固定されているように見えますし、低気圧中心がある南方へ伝播してもいますので、その可能性は低そうに思えます。重力波を発生させそうな対流雲もみあたりません。

 

こういう、カルマン渦と山岳波(重力波)の同時発生がよくある現象なのかはわかりませんが、検索しても、下記のような事例しか見当たりませんでした。これは波状雲がカルマン渦とはずいぶん離れて存在していますので、今回の事例とは異なるように思えます。

 

 

 

下記論文には、カルマン渦が鉛直構造として重力波的な性質を持っているとの示唆があります。

 

大気のカルマン渦列の形状に及ぼす成層の影響について
 

こうしたカルマン渦の鉛直面での(重力)波が、奇跡的に可視化された事例なのかもしれません。

 

このあたりは、詳しい方の解析を待ちたいところです。