ちょっと古い話になりますが、

10月上旬に日本へ接近した台風14号の風系に伴って、

韓国済州島の風下にカルマン渦ができていた件。

(忙しくてアップできていませんでしたが、せっかく

 写真などを準備していたので・・・)

 

台風が日本の南方にあった10/6には、

日本付近はちょっとした西高東低の冬型で、

済州島(赤矢印)を含む東シナ海の海面付近には冷たい北風が吹いており、

これが済州島の南側から南西諸島にかけて続く、かなり大規模な

カルマン渦を生成しています。

 

 

ちなみにこの時の済州島での上空の気象観測データをみてみると、

風向き(DRCT)は地上から2300m上空までほぼ北風で一定して

いますが、気温(TEMP)に注目すると、地上から993mまでは

順調に気温が高さとともに下がっているのに、

赤枠の高度1000mあたりのわずか20m程度の層を境に、

その上の気温が3度ほど高くなっていることがわかります。

 

この境界となる層がいわゆる「逆転層」で、その下の冷たい空気(気層)は

逆転層の上の空気とは混ざりにくく、

閉じ込められた層状の流れになっています。

(冷たい下層の空気が逆転層を超えて上に噴き上げても、

 逆転層の上の暖かい空気より重いのですぐ落ちてきます)

 

済州島の最大標高は約2000mなので、

この厚さ1000mの冷たい空気の流れを貫いて、

逆転層の上に頭を出していることになり、

上で書いたように、

逆転層下の冷たい空気の流れは逆転層を超えて上昇できないので、

済州島の上を乗り越えて流れることができず、左右に分かれ、

風下でまた出会って乱れ、カルマン渦を生み出していると

考えられます。

 

2日後、冬型は崩れて北高型となって、14号が九州の南に進んで

きたところでも、

 

 

台風の北側をめぐる北東風が済州島に当たり、

その風下である南西方向に、中国大陸に達する大規模なカルマン渦が

発生しているようすが写っています。

 

 

寒気を巻き込みながら接近する晩秋台風ならではの光景です。

 

このときは、逆転層は1600m付近にあるようですが(下表)、

済州島の頂上は余裕で逆転層から頭が出ています。

 

 

以上、衛星写真は「デジタル台風」さん、天気図は気象庁、

高層観測データはワイオミング大学のHPから頂戴しました。

 

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なお、カルマン渦は、液体や気体の層状の流れの中に、

流れが左右に分かれるような障害物を置いた場合に、

その風下に次々と、左右に分かれて発生する、

向かい合った勾玉状の渦列のことで、

「流体力学」という学問上、興味を持たれる現象。

 

詳しくは

Wikipedia「カルマン渦」

をご参照。

 

自然界で、この渦列が、孤立した背の高い島の風下に発生することがあり、

日本付近では、韓国の済州島(標高約2000mの孤立峰をもつ孤島)、

屋久島(同約1900m)、利尻島(同約1700m)などの風下によくみられます。

 

この現象は、層状の流れが孤立峰によって完全に左右に分流すると

発生しやすいため、カルマン渦の発生源として知られる上記各島は、

大気下層の寒気の層(1000~2000mぐらい)を超える標高を持っています。