リモート |  お転婆山姥今日もゆく

 お転婆山姥今日もゆく

 人間未満の山姥です。
 早く人間になりたい。

夏休み、娘夫婦が来たときのこと。

 

夫は初盆その他で留守にしていた。

 

事前に連絡があり、食べる物は持って行くので、とくに準備はしなくて良いと言われた。

楽チンだが、いくら何でも…と、娘が好きなジェラート屋さんに買いに行き、アレコレ選んで来た。

前夜に仕込んだ浅漬けがあるし、煮付けもあるが、汁物も用意しようと思った。久しぶりなので矢張りはりきってしまう。

 

娘と婿殿はいつも通り機嫌良くやって来た。

婿殿は私に慣れてきたようで、緊張もとれてニコニコしている。

 

が、何か二人してソワソワしている。

ややあって

「折り入ってお願いがあるんですが…」

と、婿殿。

 

なんだろうと思ったら、

「リモートで…」

 

婿殿の親御さんとは、未だに面識が無い。

いい大人同士が決めて結婚したのだし、娘は婿殿の親御さんとは、当然何度も会って婿殿の実家に泊まったりもしている。

婿殿には兄がいるそうだが、関東に住んでいて、そちらにも何度か会いに行っている。

 

親同士も会う機会を作ろうと、それは彼らだけでなく私も当然考えていたのだが、コロナ禍の世になり予定が立たないまま時間が経過した。

婿殿のお父さんは、一時体調を崩されたそうで、それもあって見合わせるしかなかった。

 

「そうよね、私も失礼ばかりしていると気にしていたけど、コロナではね…」

 

で、若夫婦が

「タブレットでテレビ電話」

というのを提案し、先方には快諾を貰ったという。

 

「え、顔出しなの?こんな顔」

「そうそう」

 

と――――っても恥ずかしいんですけど!!! ( ̄▽ ̄;)

 

私が騒ぐと婿殿は申し訳なさそうな顔をして、娘は

「大丈夫大丈夫」

と、この母の何のどこが大丈夫なのか知らぬが、私が断らないようニタニタして言ってくる。

 

婿殿が何かご実家とやり取りをしていて

 

「あ、父が帰って今お風呂に入って、準備しているそうです」

「お風呂に入って準備!!!」

「清めて失礼のないように」

 

3人で大笑いして、

「私、化粧…」

 

と言うと、

「しなくていいから」

と止められる。

 

皆で(恐らく婿殿のご両親も)、変にハイになり、なんだか

「アハハハ」

「ハハハハ」

と笑うのである。

 

ややあって

「準備オッケーだそうです」

と婿殿。

 

やがてご両親が画面に映し出された。

私の両脇には、娘夫婦である。それら全部が画面にあるのだ。

 

「初めまして・・・」

 

お互いに頭を下げ合う。

照れくさくて、どうもなんだか取り敢えず

「アハハー」

と笑い合うのだった。

 

一通りのご挨拶を互いにして、いきなり言われる。

「おかあさんは山がお好きだそうで・・・」

 

ひっ!!!

 

「あっ・・・いえ、あのその・・・」

 

想定外だったのでどこまで話せばいいのか。

 

「やっ・・山といってもですね、登山ではなく、熊みたいに山菜やキノコを採るほうでして・・・アハハ・・・(ノ´∀`*) ・・・。」

 

婿殿のお父さんから、ある山菜の名前が飛び出した。

 

「そうそう、ボンナ、あれも美味しくて・・・」

 

何を話したのか覚えていないが、多分余計な事、聴かれてもいない事までベラベラ喋ったことだけは覚えている。

 

大きく真ん中に映るご両親も、右下に映る私と娘夫婦も、とにかくニコニコ(#^^#)。

 

「照れますよねぇ・・・」

などと挟みながらも、そのわりにこのオバハンの喋ること・・・。

主に母親同士が話し、お父さんは横でずっとニコニコしている。

いつもはこの母の暴走を止める娘だが、 婿殿と二人でニコニコしている。

 

ああだこうだと話し、聞き、頭を下げ合い、照れて笑って・・・ではまた、ありがとうございました・・・となって我に返ると、私は手に汗をかいていたのだった。

 

娘たちと口々に言い合う。

 

「あー良かった、お疲れさまでした」

「楽しかったー、けど失礼してしまったねぇ」

「そんなことないですよ、親もとても喜んでいました」

「お義父さん、ずっとにこにこしてて、初めてだよああいう顔見たの」

「そうだよ、珍しいよ、嬉しかったんだろうね」

 

それからしばらく、初めて婿殿の口から色々な事を聞いた。

娘からチラリと聞いていたことではあったが、長い歳月、夫婦や家族をやっているとそれはそれはいろいろあるものなのだ。

 

賑やかな夕食の間も、アレコレああだこうだと話は尽きない。

その途中で、夫から連絡が来たが、美人の娘たちと夕食中とのことで嬉しそうだった。

 

「いろいろあるけど、いろいろあっての今、笑うのが一番だよねぇ」

 

 

リモートは恥ずかしいが、癖にもなりそうなのであった。

誰かが言っていたな

「恒例にしましょう」

 

私だけど

(笑)。