なんぼあでもあるじゃ |  お転婆山姥今日もゆく

 お転婆山姥今日もゆく

 人間未満の山姥です。
 早く人間になりたい。

なんぼあでもある

 

というのは、ここらの方言だが

「とても価値がある」

「実際以上に価値がある」

という意味で、

「ものすごいお得」

という感じ時に口をついて出る言葉です。って、多分私の親世代だけだと思うけど(私も使いません)。

 

師走、娘からお誘いが来たので、出かけてきた話の続き。

娘夫婦はなんと昨年マンションを購入し、

「中古だからリフォームする」

と言っていたのが夏のこと。

当初は

「入居は9月末くらいかな」

 

その後ウチに来たとき

「まだリフォームが残ってる」

と言っていた。

 

娘には夢もこだわりもあるのだが、夢よりも現実的すぎて余計な心配をしてしまうせっかちな私と違い、特段焦る様子もなかった。

娘によると婿殿は

「私に任せてくれて、うるさいことは言わないよ」

だそうだ。

「私はオヤジに似てしまったので、こだわりが強いから、両方そうだと収拾つかないでしょ、とてもありがたいよ」

だそうだ。半分ノロケにも聞こえるのがおかしい。

 

確かに私は娘のようにこだわりとか執着はまずない。

無いなりに暮らして来た。

しかしながら娘のこだわりは母親のワタシから見ると、なかなか微笑ましいもので、

「へぇ・・・センスあるのね」

と負けてしまう。

 

息子もそうで、高校の頃からヤツの部屋は実にオシャレに片付いていて

「田舎臭い私とは何たる違い」

と思ったものだ。

 

     

              

 

この写真は息子が大学の頃だが、思えば子供たちどちらの部屋でも参考書や辞書、その他専門書的なものを一度も見たことがない。

大学はふたりとも県外だったので、たまに訪ねる程度だったが、学費や生活費は送っているものの彼らの通学姿など見たことがない。

入学式や卒業式は大学に行き、その時彼らはちゃんと列席していたし、卒業証書や学位記も貰っていてそれを見たので、やっぱり行っていたのだろうが未だに謎の4年間である。

 

話が逸れた。

 

息子は大学を出て就職してYちゃんと知り合い、翌年には結婚し、その時

「3年後に大きな買い物をする」

と言っていたそうである。

結果、私の伯父伯母の大きな屋敷と離れをすべて片付け、解体し、更地にし、アレコレ手続きの後本当に家を建てて住んでいる。

 

昨年から

「固定資産税減税期間が終わった」

とボヤいていたが、なんとか暮らしているのだから何も言うことは無い。

 

娘のマンションは、仕事柄

「資格があり、目利きである」

「情報を持っている」

「それで食べている」

ので、ましてや私の出る幕などない。

 

お呼ばれ当日。

娘と待ち合わせたのは新居近くのスーパーであった。

そこで落ち会い、軽く買い物をしてマンションに向かう。

来客用のスペースに車を停める。

通用口がすぐ目の前なのだが

「せっかくだから正面から入る?」

と言われ、ウンウンと頷く。

 

それにしてもあれですよね、マンションの共有部分、つまりは玄関ホールというか、ホテルで言うとロビーというか、ああいった場所は随分贅沢に出来ているのに人がいたのを見たことがなく

「なんか、こういうのって無駄な気がするのだが・・・」

と思うもケチ臭いので黙っていた。

 

エレベーターで静かに上がる。

いよいよ突入である。

 

玄関ドアが開き、まず見えたのは花であった。

 

飾り棚に高そうな花籠がメッセージカードとともに置いてある。

 

私は殺風景な人間なので、花を飾るということをしないで生きてきた。

 

「誰かからの贈り物?」

と聞くと、ムコ殿のお母様からであった。

 

「結婚記念日と誕生日祝い」

 

むむむ・・・花籠を贈るようなお母様。私は思いつかないので、果たしてそういう殺風景な母に似てしまった娘はうまくやれるだろうかと危惧するが、本人はいたって普段通りで

「優しいお母さんだよ」

なんて言う。

ならばよかった。何か不具合があれば、この母に似てしまったが故なのでと頭を下げようではないか。そもそもそんな場面も無いと思われるが、息子の結婚とはオモムキが大分違う気がする。

 

リビングに通されると、思わず

「ひゃ~!!!」

と声が出た。

7階なのだが、市街地も山もバーンと一望できるではないか。

 

                 

 

「ちょっ・・・ちょっと、凄いねぇ・・・」

 

寝室からの景色も見ろと連れていかれる。

 

         

 

ぬぁんと!!! 岩手山が見えるではないか!!!

 

「朝目覚めて窓に目をやれば、四季折々の岩手山が見えるというの!!!」

 

「うん」

 

「なっ・・・なんとうらやましぃぃぃ!!!

 

大騒ぎしつつ、娘が淹れてくれたコーヒーを飲み、アチコチに目が行く。

 

         

「向かいにドラッグストアが出来るんだって」

「何、ドラッグストアとな」

「うん」

「どこもかしこも徒歩圏内、なんて良いところなの、ややっ!!! アンタたちが通った中学もすぐそこに見える」

「うん、やっぱり学校が遠いよりはね・・・」

 

母はコーフンし、リビングとつながっている畳も新しくしたばかりの和室を見て

「今度さ、コロナ落ち着いたらさ、布団担いでくるからここに泊めてもらっていい?」

娘は笑って頷いている。

 

「年をとったら雪国の一戸建ては厳しいよねぇ・・・」

 

ムコ殿の故郷は豪雪地である。この夫婦の選択は正しいとつくづく思う。

今のマンションは、収納も作り付けで家具をわざわざ買う必要もなく、スッキリとしている。狭いと想像していたが、洗面所も風呂もトイレもゆったりしていて、まるでホテル仕様である。

断言する。

 

私が産まれてこの方住んできた様々な場所と家の中で、

「ここが一番いい!!!」

 

当たり前になれば感動は無いのだろうが、この景色、この街が好きな私にとっては娘が代わりに夢を叶えてくれるような気持ちだ。

夜になれば灯りがまた綺麗だろう。

四季折々の空の色、川の流れ、街の佇まい、一日でいいから何もせずここで眺めていたいと切望している。

 

娘夫婦は、その景観だけでも

なんぼあでもある

所で、今日も暮らしている。

 

良い買い物とはまさにこういうことが正しいひとつだと、母のコーフンは年が明けても鎮まらないまま、今季も豪雪と極寒に苛まれ、早や二月になったのであった。