今年も父の命日がやってきた。
今朝ご飯とお弁当の支度を終えたのが、父の亡くなった時間だった。
夫を送り出しに外に出る。
初の霜柱。
雪より後に霜柱が立った。
二人で競うように踏みしめるが、
「なんか、ザクザクいかないね」
厳しく硬く凍った霜柱だった。
父が逝った朝も寒かった。
まだ夜明けの兆しもない時間、4時半に電話が鳴った。
取るのが嫌だった。いい知らせなはずがない。
その3日前、土日と付き添った私が最後に見たのは、左肺が苦しくていつも右を下に横たわっていた父の背中。
「じゃ、今日はこれで帰るね」
「気をつけてな」
かすれた声だった。
知らせを受け気ばかりが急いてしまう。
病院に付き車から降りて走り出す。
走りながら思う。
「どうして走るんだろう、父はもう死んだのだ・・・」
天井にむき出しの配管は、その昔母が入院していたころと何も変わりがないと、誰かが言っていたな・・・ そんなどうでもいいことばかりが次々頭に浮かんだ。
病室の前には白い衝立があり目隠しされていた。
一足先に駆けつけた父の親戚がうつむいて立っていた。
母は私が来るまでオロオロしていたのだろう。
私を見るなり
「おとうちゃん・・・血 いっぱい吐いて・・・」
拭き取ったタオルや汚れたシーツは袋に入れられ無造作に一つ所に置いてあった。
父の顔には白い布がかけられ、ベッドも整っていた。
布からはみ出た父の頭髪は、抗がん剤の投与で数日で真っ白になっていた。
「白い・・・白いな」
部屋全体も白い。
ベッドも布団もシーツも顔を覆う布も白い。
母や親戚の顔も白い。
そして私の頭の中も白くなっていた。
駆けつける道すがら、雨が上がり陽が出た。
西に大きな虹がかかった。
七色。
山は・・どんな色だったかな。
空は青と鼠色が織り交ざっていた。
息が白い。
父が今の私や子供たちを知ったら、きっと穏やかにほほ笑むはずだ。
「みんな頑張ってるよ。
ちゃんと生きているよ。」
父がいなくなってからも私たちは生きてきた。
あの日からの日々が愛しい。
もう少し陽が高くなったら、墓参りに行こう。
明るい色の花を買っていこう。