山田無文老師が説く「本当の自分」 ~月刊『致知』2017年8月号 ~ | 致知出版社公式アメーバブログ

 

 

 

 

 

かつて山田無文という有名な禅僧がいました。ある学生が無文老師に「自分とは何で

すか」と質問します。無文老師はどのように答えられたのでしょうか。若き頃から参禅し、

臨済宗円覚寺派管長となった横田南嶺老大師によるやさしい文章が沁みてきます。

 

 

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■山田無文老師の話を聴いて

〈横田〉
人様に自らの求道の跡を披瀝するようなものではないが、顧みると折々にすばらし

い出会いに恵まれたことを感謝するばかりだ。

 

仏教には縁遠い家庭に生まれながら、小学生の頃に坐禅を始め、和歌山県由良町

興国寺の目黒絶海老師にめぐりあうことができた。更に、中学生の終わり頃に、生

涯の恩師となる松原泰道先生との出会いに恵まれた。

 

高校時代には、坂村真民先生と手紙を通してご縁をいただいたのだが、もう一つ忘

れられない出会いがある。

 

高校一年の時に、ラジオを聴いていると、たまさか京都妙心寺の管長に就任されたば

かりの山田無文老師のお話が放送された。「菩提心(ぼだいしん)を発しましょう」とい

う題であった。

 

無文老師は、学問の志を懐いて上京し、早稲田に学ばれた。世の中を平和で争いの

無いようにしたいとの願いをもって、法律を学んでおられた。

 

そんな折に、『論語』の一節を読んで衝撃を受けられたという。「訟えを聴くこと、吾猶

お人の如し。必ずや訟え無からしめんか」。無文老師は、このように解釈をされてい

た。裁判官になって判決を下すことは自分にも出来る。しかし、それよりも訴えの無

い、争いの起こらない世の中を作ることが自分の理想なのだと。

 

無文老師は、この言葉に驚いて、どうしたら争いの無い世を実現できるのか、様々

な宗教に解決を求められた。キリスト教の教会にも足を運ばれた。まるで飢えた犬

が餌を求めるように、少しでも真理の匂いのするところに出向いて道を学ばれた。

それでも、容易に納得出来る答えは見つからない。

 

そして、或る日チベットで仏教を学んで帰国された河口慧海師の講話を拝聴された。

河口慧海師は、チベットから伝えたお経の講義をなされていた。そこでこんな譬(たと)

えを話された。「牛の皮」の譬えである。

 

「この地球を全部牛の皮で覆うならば、自由にどこへでも跣足で歩いてゆける。がし

かし、そんなことは不可能である。しかし自分の足に七寸の靴さえはけば、世界中

を牛の皮で覆ったのと同じことである。どこへでも歩いてゆけるのだ。


 それと同じように、この世界を争いの無い理想の世界にすることは、おそらく不可

能であろう。しかし自分の心に菩提心を発すならば、すなわち今日から人類の為に

自己のすべてを捧げることを誓うならば、世界は直ちに争いの無い世になったのと

同じになるのだ」

 

私も、無文老師の訥々(とつとつ)とした講話を、初めのうちは自室でくつろいで聴い

ていたが、だんだん居住まいを正し、ついには正座して恭(うやうや)しく拝聴した。牛

の皮の譬えを聴いた時には、身震いするような感動に包まれた。

 

■本当の自分に出逢うには?

ある学生が山田無文老師に質問をしたという。

「自分とは何ですか、本当の自分とは何でしょうか」と。


 
無文老師は、とっさにこう答えられた。

 

「きみは今日から、
 自分のことを勘定に入れないで
 何か一所懸命人の為に
 尽くしてご覧なさい。

 とにかく一所懸命人の為に尽くして、
 そして心から良かったと
 思える自分がいたら、
 それが本当の自分ですよ」と。

 

菩提心に生きるとはどういうことかを実に言い得て妙である。


 
自己の完成を求めることも大事なことだが、あまりにも自己にとらわれるとそれが

執着になってしまいかねない。それよりも、何かお役に立つことはないか、些細な

ことでもいいから、何か人様に喜ばれることがないかを探してできる限り勤めて

みることが大事であろう。


 
宮沢賢治が「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」と言

われたことはよく知られている。


 
それと同じように皆が幸せにならない限り、個人の悟りもあり得ないというのが大乗

仏教の精神なのだ。


 
鍵山秀三郎先生は「日本をよくする法」として、

「たとえ政府が百兆円投下しても今の日本はよくなりません。後世に借金を残すだ

けだと思います。日本をよくするには、国民の一人一人がちょっとした思いやりや

人を喜ばせようという気持ちを持つことです」

 

と仰せになっている。何か出来ることはないかと思うことこそ、悟りへの一番の近

道なのだ。

 

 


(本記事は月刊『致知』2017年8月号 連載「禅語に学ぶ」より一部を

抜粋・編集したものです)

 

 

◇横田南嶺

臨済宗円覚寺派管長

よこた・なんれい
昭和39年和歌山県新宮市生まれ。62年筑波大学卒業。在学中に出家得度し、卒業

と同時に京都建仁寺僧堂で修行。平成3年円覚寺僧堂で修行。11年円覚寺僧堂師

家。22年臨済宗円覚寺派管長に就任。29年12月花園大学総長に就任。
著書に『人生を照らす禅の言葉』『禅が教える人生の大道』『命ある限り歩き続ける』

(五木寛之氏との共著)『十牛図に学ぶ』(いずれも致知出版社)など多数。

 

 

 

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