大谷翔平の人間力はどのように培われたか(栗山英樹×隈研吾)~2019年4月号より~ | 致知出版社公式アメーバブログ

 

 

 

 

 

2021年、日本人史上2人目となるアメリカン・リーグMVPを獲得したエンゼルス・

大谷翔平選手。月刊『致知(ちち)』では、大谷翔平選手らを輩出した北海道日本

ハムファイターズを率いる栗山英樹さんと、新国立競技場の設計に携わった建

築家・隈研吾さんに対談していただきました。ともに「教育者」でありプロフェッショ

ナルであるお二人が語った、一流の仕事の要となる「人間力」とは──。

※内容は2019年4月掲載当時のものです

 

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■選手が育つヒントは野球以外にある

〈隈〉
栗山さんも来シーズンに向けて何かとお忙しいでしょう?

 

 

〈栗山〉
おかげで話題のスター選手が何人も入団してくれましたので、チームを優勝に

導くことは当然なのですが、それと同時に僕が次の時代の日本にどうしても伝

えたいのが、野球という競技の面白さなんです。そのためにも若い選手たちが、

誰もが憧れる選手として人間的にも大きく成長してもらわなくてはいけない。

 

そういう願いから僕は致知出版社から出版された『小さな人生論』を昨年の入団

発表の時に新人全員に配りました。人間学の根本が書かれたこの本をしっかり

読んだ上で、両親と高校時代の監督に一生の約束事を本に書いてもらうよう指

示しました。

 

その後、今度は僕が自主トレの時に一人ひとりとの約束事を書きました。ささや

かながら、このような形で僕が学ばせてもらった人間学の教えを選手たちにも残

してあげたいと思ったんです。

 

 

〈隈〉
それは、いいことですね。

 

 

〈栗山〉
これまでの新しい選手には渋沢栄一の『論語と算盤』を配って「オフの間にまず読

みなさい」と伝えていました。「商売でも野球でも人間としての徳がなかったら発展

させることができない」ということをこの本を通して伝えようとしたのですが、なかな

か思うように伝えられなかったものですから、僕が愛読していた『小さな人生論』を

必読書として渡しました。

 

プロ生活に慣れた頃に、選手たちがこの本を読み返して自分の原点を見つめてく

れたら嬉しいですね。僕は野球以外のところに選手が育つヒントがあると思ってい

て、特に我われが先人から授かったものを若者に橋渡ししていきたいという思いが

とても強いんです。

 

 

〈隈〉
栗山さんは監督というよりも、教育者ですね(笑)。

 

僕も東大で教鞭を執っていますから、栗山さんの気持ちはよく分かります。建築学

科の学生ってどこかマニアっぽいところがあるんですね。建築オタクなんですよ。

 

建築雑誌を見ることしか楽しみがないような学生もいますが、建築は人間が使う

ものだから、人間が分かっていないといい建築はつくることができない。そこを押

さえるのはボスとしてとても大事だと僕も思っているんです。

 

 

〈栗山〉
建築は外見の美しさだけではないということですね。

 

 

〈隈〉
建築写真を見て格好いいとか悪いとか言うのは建築学科の学生だけで、ほとんど

のユーザーが重んじるのは「この空間にいると気持ちがいい」「癒やされる」という

感覚です。

 

若者を建築オタクから解放してあげるために、僕の事務所では僕が短時間でも新

人とミーティングの場を持って、建築の哲学や建築と人間との関わりのようなものを

伝えることにしています。

 

 

〈栗山〉
ああ、隈さん自らが。それは隈さんに憧れて事務所に入った新人にとっては何より

の喜びでしょうね。

 

 

〈隈〉
偉いボスが「建築は美が大事だ」とばかり言っていたら、スタッフは安全性よりも見

かけの美しさを優先することになりかねない。実際そういう組織が多い。それじゃ

困るから僕は

「美しさばかり立派ではコストが予算内に収まらないよ。それよりも自分がお金を

払う人の立場になってみな」

ということを繰り返し言うんです。理想を唱えるのも大切だけど、現実はこうだという

こともしっかり伝えるのがボスとしての役割だと思っています。

 

■大谷翔平選手をどのように育てたか

〈隈〉
話は新人教育に及びましたが、栗山さんが大谷選手などをどのように育てられたか

といったお話も、ぜひ聞きたいですね。

 

 

〈栗山〉
僕が特別に何かをしたから彼が育ったというわけではありません。ただ、僕が意識

したのは前例がどうだとか、野球とはこういうものだとかいう先入観をいかに自分自

身が払拭できるかということでした。

 

真白な感覚で大谷翔平という選手を見た時に、投手としても打者としても絶対に

世界に通用することは確かでした。

 

僕如きが自分の感覚で彼の可能性を閉ざすようなことがあってはいけない、決め

られるのは野球の神様だけだと思ったものですから、技術的なことはほとんど翔平

に任せて、僕と球団のゼネラルマネジャー(GM)は、それを削いでしまうような要

因を排除することに力を入れました。それに、彼が成長する上では、根っからの野

球好きということも大きかったですね。

 

翔平を見ていて僕らも勉強になったのは、いま隈さんが言われたように野球も結局

は人間がやるものだということでした。人間として駄目な部分は誰が見ても駄目な

わけですし、反対に欠点を改めて人間として成長していけば、野球選手としても成

長していく。その手本を示してくれたのが翔平だったんです。

 

 

 〈隈〉
なるほど。

 

 

〈栗山〉
翔平には「野球が上手くなりたい。そのためには何でもやります」というはっきりしたス

タンスがありましたから、人間学の教えを含めて彼の成長のために我われはやれる

限りのことをしました。

 

だからといって何かを無理強いしたことはありません。うちのチームの特徴として、必要

以上に何かを教えたりすることはしないんですね。普段は黙って練習や試合を見てい

て、何かを聞かれた時に「こういう方向がいいんじゃないか」と教える。翔平をはじめ選

手たちの成長を見ていると、この指導の方向で間違ってはいなかったという感覚を抱き

ました。 

 

だから、その分、僕たち指導者の勉強が欠かせないんです。選手たちよりも10倍は

勉強しないと彼らの成長に追いつかないし、人間的に成長させてあげることができ

ない。

 

指導者としての僕の課題は自分が人間として大きくなることだと思っていますので、だ

からこそ過去1000年、2000年の間、様々な苦しみを味わいそれを乗り越えてきた

先人たちの教えにも積極的に学んでいるわけです。 

 

 

 


(本記事は月刊『致知』2019年4月号 特集「運と徳」から一部抜粋・編集した

ものです)

 

 

◇隈研吾(くま・けんご)
昭和29年神奈川県生まれ。54年東京大学建築学科大学院修了、60年コロンビア大

学建築・都市計画学科客員研究員。平成2年隈研吾建築都市設計事務所設立。21

年から今日まで東京大学教授を務める。代表作に、栃木県那珂川町の馬頭広重美

術館、東京の根津美術館など。建設中の新国立競技場の設計にも携わる。著書に

『負ける建築』(岩波書店)『建築家、走る』(新潮文庫)など多数。

 

◇栗山英樹(くりやま・ひでき)
昭和36年東京都生まれ。59年東京学芸大学卒業後、ヤクルトスワローズに入団。平

成元年ゴールデン・クラブ賞受賞。翌年現役を引退し野球解説者として活動。16年白

鷗大学助教授に就任。24年北海道日本ハムファイターズ監督に就任、同年チームを

リーグ優勝に導き、28年には日本一に導く。同年正力松太郎賞などを受賞。著書に『栗

山魂』(河出文庫)『育てる力』(宝島社)など。

 

 

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