円周率4万桁暗誦の元ギネス記録保持者が語る「記憶術のすすめ」~2006年4月号~ | 致知出版社公式アメーバブログ

 

 

 

 

円周率暗誦の元ギネス記録保持者で、現在もなお、人間の持つ記憶の限界に挑み続けている友寄英哲さん。目から鱗の記憶術、そして記憶術を通して得た人生の要諦を明かしていただきました。

 

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■自分にもできそうだ

〈友寄〉
私の脳はごく普通だと思います。特に暗記が得意だったということもありません。子どもの頃はもっぱら丸暗記でしたが、20歳ぐらいになるとそれもままならず、学生時代、シェークスピアの長台詞を覚える宿題がなかなかできず弱りました。

 

ある日、黒板に書いた数字を暗記してみせる老大道芸人に出会いました。飛びついて買った10ページほどのガリ版刷りの冊子には、連想を使った暗記法が書いてありました。こういう方法もあるんだとすっかり記憶術に魅せられました。これがそもそもの始まりです。

 

大学を出て、ソニーに入社しました。海外と折衝する営業が仕事でした。面白半分に1,000桁の円周率を3年かかって覚え、やっと暗記できたのは30歳。これは仕事に役立ちました。宴会芸で披露すると結構受けて、人脈も広がり商談も進むのです。

 

45歳の時でした。

「カナダの若者が円周率8、750桁を暗誦し、ギネスブックに申請」

という記事を読んだのです。こんな世界記録があるんだと知り、自分にもできそうだと挑戦することにしました。

 

1万5,151桁を暗誦して世界記録を立てたのは翌年のことです。ところが、世界には強豪がいて 次々とギネス記録を塗り替えます。

 

それならとさらに挑戦し、シーソーゲームを繰り返して、円周率4万桁暗誦の世界記録を立てたのは54歳の時でした。これは8年間ギネスブックに記載されました。

いまのギネス記録は原口證さんという方の8万3,431桁です。

人間の記憶力は底知れません。近い将来10万桁、20万桁を超えるのも夢ではないと思っています。

 

■自ら編み出した暗記方法

暗記の方法は紙幅に限りがあるので、宣伝めいて恐縮ですが、詳しくは私の本を読んでもらうことにしましょう。

 

近著には『脳を鍛える記憶術』(主婦の友社)があります。要はイメージを結合させたり、馴染み深いものを活用して連想をふくらませ、ストーリー仕立てにして覚えていくのです。これは経験豊富な高齢者に有利な記憶法です。

 

人間には記憶に適したリズムがあります。

3秒間です。3秒間に収まるフレーズはすうっと頭に入ります。だから3秒間に収まるようにフレーズを切り、その3秒間に集中するのです。

 

「1192」を「いい国」として覚える日本に古来伝わる語呂合わせは数字の記憶法として非常に優れたものです。

 

私はこれを補足発展させ、「友寄式――仮名置換法」を作りました。

これを円周率暗誦の過程で何度も練り直した結果、大勢の人が楽に数字を記憶できる実践的なものになりました。

 

それにしても、人間の脳は忘れるようにできているのだとつくづく思います。でも、忘れるままにしておいては記憶はできません。

 

本当に記憶したいものはタイミングを見計らって復習する必要があります。ちょっと忘れかけた頃覚え直すことがコツです。

 

覚える内容により異なりますが、最初は5分後、次は1時間後かもしれません。試していくと、自分にぴったりの復習のタイミングがつかめます。おまえは仕事をしないで円周率の暗記をやっていたのかと言われそうですが、私は真面目なサラリーマンで、仕事はきちんとやっていました。

 

暗記に使ったのは片道1時間半、往復3時間の通勤時間です。コースを細かく区切り、あの電柱までに10桁、八百屋さんの前までに10桁、電車に乗れば次の駅までに10桁、というふうにして覚えていくのです。

 

覚えていなければそこで立ち止まり、覚えるまで先へ進みません。会社は遅刻できないから懸命です。集中するには細切れの時間がいいのです。

 

■継続は力なり

円周率を暗記して何の役に立つのだ、馬鹿馬鹿しくないのか、とよく言われました。人に言われている分にはどうということもないのですが、私自身が自分で馬鹿馬鹿しくなってしまって、1か月ほどやめたことがあります。

 

だが、やめてほかに役に立つことができたというわけではありません。通勤の3時間は無意味に過ぎただけでした。

いいことがいっぱいあったことに気づきました。

 

まず健康になりました。私は低血圧で、8時間寝てもしばらくはボーッとしていたのですが、昼間円周率の記憶で脳をフル回転しているため熟睡するせいか、6~7時間の睡眠ですっきり目覚め、活気に満ちて一日を過ごすことができるのです。

 

人脈が広がったのも記憶術をやったおかげです。集中力も持続力もつきました。 それに使命感と言えば大げさになりますが、

「世の中の役に立つ記憶術を生み出したい」

と燃えるものが湧き起こってきました。

 

円周率を暗記するのは馬鹿馬鹿しいことではないと心底から納得できた時、私は変わりました。何事にも前向きになり、朝が待ち遠しく、毎日が楽しくてならなくなりました。

 

それでも壁に突き当たります。円周率4万桁を一応覚えた頃、実際に暗誦してみると約30か所間違えました。そこを覚えなおし再挑戦してみると今度は別な場所を30箇所間違えます。約1年半この傾向が続き人間の弱さを思い知りました。

 

それでもめげずに続けていたら間違える箇所が激減し本番では何とか間違えなく暗誦できました。

「継続は力なり」という言葉は本当の本当だと身をもって知りました。

 

人間の脳は加齢と共に衰えるといいます。しかし、これは迷信だと思います。私は73歳になりますが、若かった頃になかなか覚えられなかったものが、いまはすんなり頭に入ってきます。人間の脳は加齢で衰えるのではなく、使わないから衰えるのではないでしょうか。

 

年間5,000人の脳を診ているというお医者さんが私の脳を調べ、20歳の脳だと太鼓判を押してくれました。脳は使えば発達するという私の実感は、真理なのだと思います。

 

私は「70歳代で、円周率5万桁をどの桁からでも暗誦可能」を目指し日々特訓をしています。

「人間の脳の力に限界はない。あるとしたらそれは自分があきらめた時」。

必ずできると信じています。

 

 


(本記事は『致知』2006年4月号  連載「致知随想」より一部を抜粋・編集したものです)

 

 

【著者紹介】
友寄英哲(ともより・ひであき)

1932年生まれ。電気通信大学卒業後、ソニー株式会社に入社。54歳のときに円周率4万桁を暗唱して88年版ギネスブックに掲載され、95年まで記録保持。2016年、日本ルービックキューブ目隠し部門に出場し、自身の持つ世界最高齢記録を82歳から83歳に更新。

 

 

 

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