【特別寄稿】トランプか、バイデンか——マックス・フォン・シュラーが読み説く「アメリカ大統領選挙の | 致知出版社公式アメーバブログ

 

 

元海兵隊、歴史家として独自の視点と情報源からアメリカ政治、国際情勢に対する鋭い評論を続けているマックス・フォン・シュラーさん。

 

日本在住の親日家でもあり、日本文化への深い理解から、この激動の時代の中で日本が持つ使命、とるべき具体的な方策も積極的に提言し、

 

YouTube公式チャンネル「軍事歴史がMAXわかる!」でも積極的に情報発信をしてきました。

 

そのフォン・シュラーさんに、一か月後に迫ったアメリカ大統領選挙の行方について、特別寄稿していただきました。

 

 

 

逆風の中で全うした任期

 

アメリカの大統領選挙が、いよいよひと月後に迫ってきました。

 

世論調査では、現職のトランプ大統領を抑え、民主党のバイデン氏の優位が続いていますが、

 

彼がこの優位を維持して次期リーダーの座を掴むのか、それとも前回の選挙同様にトランプ大統領が逆転して再選を果たすのか。

 

世界中が固唾を呑んでその行方を見守っています。

 

 

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次期大統領が誰になるかを予想する前に、まずトランプ大統領の4年にわたる実績を振り返ってみましょう。

 

冒頭からいきなり冗談のように聞こえるかもしれませんが、私の一番の驚きは、彼が生きて4年の任期を全うしたことです。

 

周知の通り、彼は大統領就任前から過激で型破りな言動を繰り返してきました。

 

それは、国民の格差を助長する貪欲な資本家や、スポンサー企業のプロパガンダ機関に成り下がったマスメディア、極端な非差別主義で国を混乱させる左派など、いまのアメリカの病理を鋭く指摘するものでした。

 

しかし、それは一方で多くの敵をつくり、大統領選に勝利を収めたにも拘(かかわ)らず、「最悪の大統領」という批判や、反トランプを掲げる運動が収まることはありませんでした。

 

暗殺の噂まで上るほどの不穏な空気も漂う中で、4年にもわたり大統領の地位を維持し続けてきたことは、ある意味奇跡といえるかもしれません。

 

 

常識外れの外交手腕で停滞を打開

 
 

そのようなトランプ大統領ですが、外交の舞台では余人に成し得ないような革命的なことをいくつも実現してきました。

 

今年、紛争の絶えない中東で、イスラエルとアラブ首長国連邦の国交樹立の仲介を果たしたこともその一つでしょう。

 

大統領に就任した2017年には、反体制拠点に毒ガスを使用したシリアに軍事攻撃を仕掛け、後ろ盾のロシアとの関係は史上最悪でした。

 

しかし、翌年プーチンを対話の方向に引き込み、首脳会談を実現して核戦争の危機を回避しました。

 

ミサイル問題で激しく対立していた北朝鮮には強い圧力をかけつつ、リーダーである金正恩を史上初となる米朝首脳会談のテーブルに引きずり出しました。

 

また、会談ではプロモーションビデオを使って非核化のメリットを訴えるという斬新な手法も用いています。

 

その後、大きな進展は見られないものの、予測不能なディールを仕掛けて突破口を切り開くトランプ流の外交手腕が光りました。

 

中国とは、当初こそ互いの国を行き来して良好な関係をアピールしていましたが、貿易を巡るさや当てが安全保障問題にも発展し、香港問題や新型コロナウイルス問題なども相俟(あいま)っていまや完全に冷戦状態となっています。

 

周知のように中国は近年、国際ルールを無視して領土の拡張を目論(もくろ)み、一帯一路の美名の下で他国の主権を脅かすなど、自己中心的な行動が様々な軋轢(あつれき)を生んでいます。

 

自由と民主主義を弾圧し、覇権への野心を露骨に表し始めた中国に、トランプ大統領が厳しい姿勢で対峙していることは評価できます。

 

特に北朝鮮と中国への対応は日本の国益にも適(かな)うものであり、安倍前首相がそうしたトランプ大統領との蜜月を維持してきたことは、日本の安全保障上非常に有意義なことだったと思います。

 

雇用拡大と高株価を実現

 

内政においては、「アメリカ・ファースト」のスローガンのもと、海外に流出した仕事を国内に呼び戻し、雇用の拡大と高株価を実現しました。

 

トランプ大統領が登場するまでのアメリカは、工場などを海外に移転する「アウトソーシング」が過度に進んでいました。

 

例えば、現在アメリカの製薬会社の工場の製造施設の約7割は海外にあり、そのうちの約13%が中国にあり、国内では薬をつくれない状態に陥っています。

 

トランプ大統領は、そうした行き過ぎたアウトソーシングによって中産階級の仕事が激減し、多くの人が困窮に陥っていることを重く見て、これを是正したのです。

 

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しかし、評価できないことも多々あります。

 

不法移民の流入を阻止するため、メキシコとの長い国境に壁をつくるという主張は荒唐無稽で、実現は不可能でしょう。

 

不法移民を阻止するなら軍隊を使うべきであり、問題の大本にある中南米の政情安定化に働きかけるほうが合理的です。

 

直近では、新型コロナウイルスの恐ろしさを見誤り、アメリカを世界最大の感染国にしてしまったことは大きな失点です。

 

しかしそこには新型コロナウイルスの発生源である中国による情報隠蔽や、アメリカの医療体制の問題があります。

 

日本のような国民健康保険がないアメリカでは医療費が非常に高額で、多くの人が十分に医療を受けられない現状が新型コロナウイルスの感染爆発に繋がっているのです。

 

対立候補・バイデン氏と民主党の危うさ

 

では、一方の民主党の候補者、ジョー・バイデン氏はどのような人物でしょうか。

 

弁護士から政界入りした彼は、29歳の若さで上院議員になりました。

家族を事故や病気で相次いで失う不幸を乗り越え、先のオバマ政権では副大統領まで務めたほどの人物です。

 

 

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しかし懸念されるのは、バイデン氏の対中姿勢です。

 

息子のハンター・バイデン氏が、中国が支援する投資会社の役員を務めるなど、中国との結びつきが強く、現在トランプ大統領が進めている対中強硬路線を大幅に転換する可能性があります。

 

既に77歳に達し、トランプ大統領を上回る高齢者であることも不安材料です。

 

彼について度々取り沙汰されるのが、認知症疑惑です。

 

先のテレビ討論では目立った失態はありませんでしたが、これまでの演説では失言や記憶違いが頻繁に繰り返され、高度な判断力が求められるアメリカ大統領の重責を本当に担えるのかという不安は拭い切れません。

 

彼がその追及をかわすために指名した副大統領候補が、人権派の黒人女性であるカマラ・ハリス上院議員です。

 

万一、バイデン氏が大統領に就任したにも拘らず、その務めを果たせないような事態に陥った場合、彼女が代わりに実権を握ることになります。

 

そのハリス氏が支持を表明しているのが、現在全米に広がりを見せている黒人差別への抗議デモですが、過去の連載記事でも触れたように、このデモは大きな問題をはらんでいます。

 

デモの発端は今年の5月、ミネソタ州ミネアポリスで黒人男性が白人警官に取り押さえられて亡くなったことが引き金となりました。

 

白人警官の対応に向けられた抗議の声は、警察署の焼き討ちや店舗の略奪など、デモの範疇を越えた大暴動へと発展し、その被害は一般市民にも及んでいます。

 

中には、親の代から40年にもわたって営んできた家具店を暴動による火災で失ったオーナーもおり、多くの人が不安や恐怖を募らせているのです。

 

実は、死亡した黒人男性には麻薬や武器所有などの前科があり、逮捕時の挙動も不審で、死因に持病悪化や薬物中毒の可能性がありました。

 

しかし、そうしたことはほとんど報道・検証されないままにデモが始まり、あっという間に暴動へと発展していったのです。

 

 

これは明らかに、既存の国の秩序をひっくり返そうと目論む急進的な左派が主導するものであり、バイデン氏とハリス氏を擁する民主党陣営が選挙を有利に進めるためにこれを利用している構図が浮かび上がってきます。

 

実際、暴動の盛んな場所はいずれも民主党の強い地区なのです。

 

嫌いな隣人をやり込めるために虎を飼えば、自分も噛み殺されるリスクを負うことになります。

 

同様に、人種差別への抗議デモの名を借りて暴動を容認するいまの民主党からは、国民がどんどん離れていっているのが実情です。

 

日本は真の自立を目指せ

 

以上を踏まえて大統領選挙の行方を占えば、私はトランプ大統領が勝利する可能性が極めて高いとみています。

 

白人を中心とした中間層の根強い支持と暴動を鎮静化できる強いリーダーを求める国民の声、民主党への不信感の高まり、さらには軍がこぞってトランプ支持を表明していることも追い風になっています。

 

しかし、蓋を開けてみるまで結果は分かりません。

 

特に、このコロナ禍の中で行われる今回の選挙は、郵便投票が大幅に増えることで不正リスクも高まります。

 

イギリスの新聞『The Sun』によれば、封入された投票用紙をまとめて預かり、偽造の用紙に差し替えて投函する商売がアメリカで行われているとの指摘がされており、結果の是非を巡って大きな混乱が生じる可能性もあります。

 

この原稿を執筆しているたったいま、トランプ大統領が新型コロナウイルスの検査で陽性と判明したというニュースが突如飛び込んできました。

 

最後まで波乱が続く大統領選となりそうですが、その間も先述の暴動は大規模な内乱に発展する危機を孕んで続いており、トランプ大統領が再選したとしても、バイデン氏が新大統領になったとしても、次期リーダーはその収束にエネルギーの多くを注がなければならないでしょう。

 

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アメリカが外に目を向ける余裕を十分持てないいま、私が日本に期待したいのは、確固たる自立の覚悟を定めることです。

 

これまでトランプ大統領から度々突きつけられてきた軍事的負担の要求を逆手に取り、憲法改正にも真剣に向き合い、自国の防衛を他国に依存する状態から脱却し、自分の国は自分で守る、当たり前の国へと脱皮を図ってほしい。

 

そして、日米両国が真の同盟国として世界の諸問題に力を合わせて取り組み、日本が世界を平和に導く強いリーダーとなっていくことを私は切に願っています。

 

 

◇マックス・フォン・シュラ―

 

 

1956年アメリカ・シカゴ生まれ。1974年に岩国基地に米軍海兵隊として来日、アメリカ軍の情報局で秘密調査などに従事。退役後は、国際基督教大学、警備会社、役者、ナレーター等、日本国内で幅広く活動する。著書に『アメリカ人が語る 日本人に隠しておけないアメリカの"崩壊"』『日本に迫る統一朝鮮の悪夢』『アメリカ人が語るアメリカが隠しておきたい日本の歴史』(いずれもハート出版)などがある。YouTube公式チャンネル「軍事歴史がMAXわかる!」でも情報発信中。令和2年10月16日(金)19時から20時頃まで、「youtube ライブ」を開催。

 

 

 
 

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一冊の本が人生を変えることがある
  その本に巡り合えた人は幸せである

 

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