桜の便りも聞かれるようになったこの頃ですが、先月のご報告忘れてました。
2月の初めには盛岡に行って来ました。
今回は大変リーズナブルな宿を予約したのでその分列車にお金をかけました。
うむ。東北新幹線のグランクラスです。
一輌に18席のみで飛行機で言ったらファーストクラス。
飛行機のほうはたぶん一生乗れないだろうから新幹線のほうでリッチ気分を満喫しようという魂胆です。
盛岡までははやぶさに乗れば二時間ちょっとで着いてしまいますが、それじゃあ大金払う甲斐がない。のんびりとやまびこで行くことにしました。
グランクラスにはいろいろと特典がありますが、まずは出発前のラウンジが利用できます。
東京駅八重洲口改札近くにゴールドラウンジと言うのがあって、出発前の時間を飲み物やお菓子を食べながらゆったり過ごせます。
いつもは自由席で良席確保しようと早めに出かけるのでその時間をゴールドラウンジで過ごさせていただきました。
ちょっとした高級ホテルみたいなフロントでチケットを提示するとキャビンアテンダントみたいなお姉さまが席に案内してくださり好きな飲み物を注文できます、茶菓子もついて飲み物のおかわりもできます。車内持ち込み用にリンゴジュースもいただけました。
出発10分ほど前になってホームへと向かい座席へ。
画像のようにゆったりしたシートで角度は手元のリモコンで自動調節ができます。アメニティーとしてスリッパも用意されています。
着席すると早速アテンダントさんから温かいお絞りのサービス。
軽食も出ますが洋食か和食のお弁当が選べます。
私は和食のほうをチョイス。
ついでに日本酒をつけていただいて、いただきまーす!
小ぶりなお弁当ですが駅弁よりはるかに美味しいです。
お酒は秋田の吟醸酒。
お酒もソフトドリンクも飲み放題です。
ほろ酔い加減でウトウトしてきたのでブランケットをお借りしてひと眠り。
景色はずーっと雪景色ばかりでしたから眠くなっちゃうよ。
いい気分で眠っててふと目を覚ましたらアテンダントさんが窓のブラインドを下してくださってました。ああ、こういう気遣いもグランクラスなのかしら。
3時間ちょっとで盛岡着。そこから田沢湖線に乗り換え小岩井へ。
有名な小岩井農場のあるところです。
そこからつなぎ温泉に行こうと駅員さんに尋ねると、「えええええ!歩いてゆくんですか!?遠いですよ!タクシーで2~3千円かかると思いますが」とたいそうびっくりされました。それでも何とか歩いていきますと道順を聞き雪道をトボトボと歩き始めました。親切な駅員さんはものすごく心配してくれて私を見送ってくださいましたが。このあと駅員さんの心配は現実のものとなります。
行けども行けどもこんな風景が続くばかりで自分がどこを歩いているのか分からなくなってきました。
1時間も歩いたところで心細くなり宿に電話すると、送迎はやっていないとのこと。たどり着いていたところはとりあえず合っていたようで「その先にコンビニがあります」と言う言葉に励まされまたトボトボ。雪道に車は走っているけれど人間の姿は一切ありません。
そこからが間違いの始まりで、行けども行けどもコンビニが見つからない。こらもうヒッチハイクするしかないなと腹をくくり始めたところで私の携帯が鳴り、宿のご主人から。いま、こんなとこにいますと返事すると「あー!そこは違います!いま家内が向かっていますからそこにいてください!」と。
うへぁ~、やっちまったか!小雪の降る中だんだん辺りも暗くなりトイレにまで行きたくなってきちゃったよ。
ばか!ばか!私の大馬鹿!なんでちゃんと下調べしてこなかったんだよ!おたんこなす!
5分くらいで前方からライトをバッシングさせながら一台の乗用車が。
車内からとってもきれいな奥様が「大変でしたね」とニコニコしながら降りていらして私を乗せてくださいました。
地獄に仏です。宿の奥様は笑いながら「これもあとで思い出になりますよ」と優しさに満ちた言葉をかけてくれました。もう平謝りで泣きそうな私。
それから10分ほどで宿に着きましたが、いやあこれ歩くのなんて無理だわ。それも知らない土地でさぁ。
宿に着くと御主人も笑いながら迎えてくださった。本当にすみません御迷惑をおかけして。
今宵の宿はつなぎ温泉の民宿山新さんです。
実はこの宿は5年前の夏に予約をしていたところなのです。
5年前職場の夏休みが9連休であったため、東日本大震災の被災地を巡ろうと独りで岩手県を巡る旅に出ました。宮古から南三陸鉄道に乗り、田老地区に行き津波がそっくり街を飲み込んだ傷跡に衝撃を受けました。
そのあとに盛岡に戻って泊まるはずだったのがこちらの宿でした。
折からその時期には猛烈な台風が通過し秋田からつなぎ温泉にかけてとんでもない大洪水が襲っていました。まるで山からの津波のように温泉街を飲み込んでいく映像を東京のテレビで見ていました。
もしかしたらこの宿も…と心配していましたが、やはり旅に出るちょっと前に宿から電話があり、「申し訳ないことですが、洪水で壊滅的な状況でお泊めすることができません」と連絡がありました。御主人の悲痛な声に「残念ですが仕方がありません。どうぞしっかり復興されますように応援しております。これも何かのご縁ですから、いつか必ずまいりますのでその時によろしくお願いします。力を落とさず頑張ってください。」とお話ししました。
残念ですがつなぎ温泉はあきらめ一関へと足を延ばし平泉を堪能する旅に変更になりましたが、それはそれで楽しい旅でした。そのあとは遠野を巡り、花巻の鉛温泉に逗留し釜石、大槌、山田と回って歩きましたが何処もあの津波で町が丸ごと消え草だけが生える中に線路やホームの形跡が残っていたり、鵜住居の防災センターや大槌の町役場の残骸にひたすら手を合わせるばかりでした。
ことしもう7年を経過しましたがあの時の衝撃は今も心に強く残っており、そのせいか東北には強い思い入れができたように思います。
辛抱強く温かい人の多い北国を私は応援し続けたい。
話がそれましたが、そんな話を宿のご主人とお話していたら、「ここも5年前の洪水でずいぶんやられてしまい、廃業した宿もあるんです。震災の津波の恐ろしさを身をもって知りました」とのことでした。「あの時、これはご縁なのかもしれないから必ず行きます」っていう約束をしたのをずっと忘れずにいたことを伝えるとたいそう喜んでくださり夕食にホタテを一品多くつけてくださいました。
華美な料理はありませんがとてもおいしい家庭料理の感覚です。
これで2食付きでなんと\5400!破格のお値段です。
その上源泉かけ流しの温泉付きです。
かけ流しと言っても源泉温度が高いので湯口から出る湯量を自分で調節して好みの温度で入ることができます。ま、お風呂そのものはごく普通のタイル張りですがふんわりとゆで卵臭のする透明なアルカリ単純泉は身体に優しい感じです。
この日は宿泊客は私だけ。外はマイナス気温。ちらつく雪を窓から眺めているだけで心が落ち着きます。
翌朝も雪が舞っておりました。夜に暖房を消して寝ましたので羽根布団の中はぬくぬくでしたが顔が痛いくらい冷えてました。
昼はバスで盛岡に出て大好きな「つぼ半」まで中華そば食べにいくべかと考えておりましたがせっかくの雪景色散歩して過ごそうと出かけることにしました。宿の奥さんが「耳あてと手袋忘れちゃだめですよ!」と声をかけられて出ましたが、うむ、確かにものすごい寒さだ。なんでも夜はマイナス17℃だったらしい。こら寒いわ!
つなぎ温泉は御所湖というダム湖のほとりにあります。しかし湖面にも雪が積もり周りも真っ白な雪ばかりで、サングラス持参していなかったので目がチカチカしてしまい散歩は短時間で終了。
足元も雪でおっかなびっくりでペンギンみたいにしか歩けません。
バス停そばの商店で買い物客がいっぱいいるところで猫ちゃん発見!
なつっこい猫で人の足元にすりすり寄ってゆきます。
あんまりみんなに近づきすぎて「あれまー猫踏んでまったー」とおばちゃんたちに笑われていましたが、ねこちゃんは「おいでんせー、買ってくなんせー」と商売熱心でした。かわいいな。
雪の上にはもう梅の花が・・・って足跡だよ。肉球冷たかろう。
そんなわけでまたしてもなーんもしない二泊三日を過ごしました。
それでも、宿の御主人夫妻と震災の記憶や台風の時の被害のこと、奥様が家庭菜園で作る野菜でお料理されてること、生き物が大好きであることなどなど、話は尽きませんでした。
御夫妻ともども優しい話しぶりと、たった一人の客である私のために館内を暖め、きれいに掃除し美味しい料理でもてなしてくださっているのがとても伝わってきました。
よい宿は人が作る物。いろんな温泉やホテルを回ってきましたが、もう一度行きたいと思う宿は良い人の作る宿だと思います。
そんな宿に出会いたいくてわたしは旅をするのかもしれません。
優しいご夫妻に見送られ宿を後にしましたが、なにか立ち去りがたいものを感じました。
雪の中救出してくださってありがとう。楽しいお話ありがとう。美味しいお料理でした。いいお湯でした。
暖かくなったら小岩井牧場にも行ってみたいし、つなぎ温泉から岩手山も見てみたい。また必ず来ます。また心の中で約束して帰路に着きました。