「不動産トラブル事例で学ぶ紛争予防」Vol 7  仲介手数料 支払い義務があるのでしょうか? |  NPO法人日本住宅性能検査協会 建築・不動産ADR総合研究所(AAI)

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VOL 7 

 

「不動産トラブル事例で学ぶ紛争予防」

 

 

<仲介手数料>

 

(質問)

 

仲介手数料として10万円(税別)を請求されたが、高すぎるような気がするのですが、

支払い義務があるのでしょうか?

 

(回答)

 

宅建業法第46条および建設省告示1552第3によれば、賃貸借契約の媒介においては、借賃(通常は家賃のことです)の1か月分プラス消費税が限度とされています。

 

そして、告示の後段で、「居住の用に供する建物の賃貸借の媒介に関して依頼者の一方から受けることのできる金額は、当該媒介の依頼を受けるに当たって当該依頼者の承諾を得ている場合を除き借賃の1か月分の2分の1に相当する金額以内とする」としています。

 

つまり、業者は、借主に対して事前に「1か月分支払うこと」を承諾させていなければ、

家賃の半額プラス消費税以上の報酬を請求してはいけないとされているのです。

しかし、実態としては、ほとんどの業者がこのルールを守らず、事前の承諾なしに、

「家賃の1か月分プラス消費税」を請求しています。

 

そこで、相談内容を見ると、「10万円の手数料を請求」ということですので、まず、家賃がいくらなのかをご確認ください。

手数料金額が家賃の1か月分プラス消費税よりも高額であれば、明らかに宅建業法違反ですし、「事前の承諾をしていない」ということであれば、家賃の半額プラス消費税分を超える部分については、支払い義務がありません。

 

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<判例の意味とは>

 

厳密な意味では、裁判所が示した判断全てを「判例」と呼ぶわけではなく、「一定の法律 に関する解釈で、その法解釈が先例として、後に他の事件へ適用の可能性のあるもの」 のみを「判例」と呼ぶ。

 

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<原状回復期間>(1)

 

(質問)

 

契約が終了し、家主立会いの上、原状回復のための修繕負担については同意した。

しかし、家主から、「修繕を行う期間については、他の人に貸し出せないので、家賃の支払いが必要と言われた。」家主に従う必要があるのでしょうか?

 

(回答)

 

家賃の支払いが必要なのは、契約期間中に限られています。

契約が終了すれば、当然のことながら、家賃の支払いは不要です。

 

「修繕を行う期間については、他の人に貸し出せない」のは確かに事実でしょうが、

 法律上の考え方として、 家主としても、内装の修繕を行わなければならないという

負担割合がありますので、 借主だけが100%修繕義務を負うということはあり得ません。

 

従って、家主としても、修繕する義務を負っているわけですから、修繕期間中は、第三者に貸し出しできないというのは、前の借主の責任とはいえないのです。

 

つまり、家主の主張には合理性がありませんので、「家賃を支払え」という家主の主張は認められませんし、 敷金からその分を差し引くことも許されないのです。

 

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<原状回復のための承諾書>

 

(質問)

 

入居時に、「原状回復のための承諾書」というものにサインを求められ、仕方なくサインしたが、退去時に、借主に不利なことがたくさん書いてあったので撤回しようと思うのだが、撤回は可能でしょうか?

 

(回答)

 

承諾書そのものを一方的に撤回することはできません。

しかし、承諾書には、通常の原状回復義務を越えた特約事項が書かれていると思いますので、このような承諾書の有効性が問題となります。

 

判例によれば、このような承諾書(特約)が有効となるのは、

 「特約の必要性があること」、

 「借主が特約の意味を理解していること」、

 「契約段階で特約を結ぶことについて承諾していること」

などの事情がある場合に限られています。

 

まず、通常の原状回復義務を越えるような特約事項を結ぶための合理的な理由がなければ、

「特約の必要性がある」とは言えませんので、例えば、家賃や礼金などの費用が、

通常よりもはるかに安いような場合とか、通常の原状回復義務以上の責任がある代わりに、

借主に特別に有利な規定が他にあるとかの事情がなければ、特約の必要性があるとはいえません。

 

その上、借主が入居時、「法律上の考え方からすれば、本当は家主が負担すべき費用だけど、

借主に負担してもらうことになっているんです」というような説明を受けているようなケースもほとんどないでしょうし、「特約の意味を理解している」とは言えないでしょう。

結局、「署名捺印した」というだけの消極的な承諾のみ残っているわけです。

 

従って、入居時に、無理やり提出させられた「承諾書」そのものの有効性は

認めがたいということになるのです。その上、2001年4月以降に交わした契約(承諾書)であれば、消費者契約法により、「消費者の利益を一方的に害する条項は無効である」という規定に反する可能性が高いので、消費者契約法に違反する可能性があります。

 

そこで、承諾書の撤回は無理ですが、承諾書の効力については、「認められない」として争うことが可能ですし、争えば、承諾書の効力が否定される判断が行われる可能性が高いでしょう。

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