空き家ジパング、輝く「お宝物件」 外国人が熱視線
日本の空き家問題に光が見えてきた
外国人にとっての日本の空き家
- 安価で手に入る「ジャパニーズドリーム」
- 円安の今がチャンス
- リフォーム代は購入金額とほぼ同じ
購入の際の注意点
- 築年数が古く、リフォームが必要
- 地域によっては生活が不便
外国人による空き家購入のメリット
- 低コストで質の高い暮らし
- 治安の良さ
- 町のきれいさ
- チップ不要で昼食は10ドル以下
- 安い公共交通機関
外国人による空き家購入のデメリット
- リフォーム代がかかる
- 地域によっては生活が不便
広がる空き家紹介ビジネス
- 外国人向けに空き家を紹介するビジネスが増えている
- 需要は世界中にある
- セカンドハウスとして購入する外国人
- 投資目的で購入する外国人
空き家問題の解決策
- 改正空き家対策特別措置法の施行
- 外国人向けの在留資格の新設
空き家購入の将来性
- 地方に拠点を構え、長く滞在する外国人
- 消費の増加
- 地域との交流
- イノベーションの創出
- 地域の活性化
日本の空き家問題に光が見えてきた。英語で空き家情報を発信するSNSのフォロワー数は33万人。マイホームやセカンドハウスを求める外国人にとって、日本の空き家は割安で手に入る「ジャパニーズドリーム」に映る。国際的にリモートで働く「デジタルノマド」が増えていることもあり、政府も新たな在留資格を創設して需要を取り込む。
タケさんはインスタグラムの「Cheap Houses Japan(チープハウスジャパン)」を見て日本の家に興味を持つようになった。一緒に旅行しているときジョセフさんに教え、物件探しを始めた。2人はともに大学時代を日本で過ごした仲良し。治安の良さや暮らしやすさなどはよく知っている。「温泉があってサーフィンができる暖かい場所」を条件に別府を選んだ。日本の住宅関連サイトなども参考に物件を絞り込んだ。
海外で暮らす2人が購入の際に頼りにしたのは不動産購入管理代行会社、ニッポントレーディングインターナショナル(福岡市)のジヴ・ナカジマ・マゲンさんだ。別府へ物件を見に行ってもらい、Zoom(ズーム)で部屋の様子などを確認し、購入を決めた。「円安の今がチャンスなんだ」。書類作成や支払いなどもナカジマさんのサポートを受けた。
とはいえ、築50年近い住宅に暮らすことは容易ではない。「購入後、鍵をもらって初めて訪れたときはショックだったよ。古くて床はベコベコだし、窓を開けたら隣の家が近い。でもホテルに戻って深呼吸し、やるべきことを書きだしたら落ち着いた。まず取り組んだのはバルサンをたくこと」(ジョセフさん)と振り返る。
現在は大規模リフォーム中。1階の和室は押し入れなどを潰してキッチンとつなげた。友達が集まれるよう3メートルの掘りごたつを造作中だ。比較的状態のいい2階を寝室や仕事場にしており、かつて訪れた温泉旅館の内装を参考にインテリアにこだわった。リフォーム代は購入金額とほぼ同じ600万円程度に膨れ上がりそうだが、マイホームを手に入れた喜びはひとしおという。
タケさんの父親は50年前に日本から米国に渡り、カリフォルニアで家を持った。だが不動産会社に勤務していたタケさんは言う。「今、別府と同じサイズの家を買おうと思ったらカリフォルニアなら20倍。ニューヨークなら30倍の値段。父親の時代には買えても、自分たちはとても無理。でもニッポンなら買える」
同じような思いでチープハウスジャパンを見る人は少なくない。米カリフォルニア州で暮らす日本人女性は家族と賃貸住宅に暮らしている。「いつか日本にセカンドハウスを持ち、夏休みなどに行って家族で過ごしたい」と話す。米国では物件価格だけでなく住宅ローンの金利も高いため、住宅購入を諦める人は多いとされている。
チープハウスジャパンのサイトを見ると、創設者は大学時代に日本に留学した経験があり、日本で別荘を買いたいと思ったそうだ。数年間のリサーチを経て購入し、今は年に数カ月を過ごしている。「日本は別荘を持つ場所として世界で最も過小評価されている。信じられないほど物件が安く固定資産税が低い。そして休暇を過ごすのにとてもすてきな場所」とし、有料のニュースレターで物件や購入に役立つ情報を提供している。
外国人から日本が注目される大きな理由は低コストで質の高い暮らしが手に入ること。治安の良さや町のきれいさなどは知られているが、「昼食はチップ不要で通常10ドル以下」「市内なら安い公共交通機関があるので車は不要」といった生活情報も海外では好意的に受け止められている。
ジョセフさんも米ニューヨークでエンジニアとして働いていたが、コロナ禍で在宅勤務を求められた時、狭いアパートで仕事をするのは嫌だと南部ニューメキシコ州のサンタフェに逃れた。暖かい場所で快適に暮らしながら仕事ができ、もはやニューヨークにとどまる必要はないのかもしれないと気づいた。
こうした人たちは「デジタルノマド(遊牧民)」と呼ばれ、世界中で約3500万人いるとの調査もある。欧州やアジアでは専用ビザを発行し、積極的に人材を呼び込む動きも出ている。
ジョセフさんは日本の空き家情報を求めている人向けのサイト「Akiyamart(アキヤマート)」を立ち上げた。英語で物件を紹介している。今、理想とする暮らしは世界各地に拠点を持つこと。「地元カナダと日本とニューヨーク。あともう一つはどこかワイルドカードだね」と笑う。
広がる空き家紹介ビジネス
外国人向けに空き家を紹介するビジネスは増えている。PR会社のパルテノンジャパン(東京・千代田)が2020年に立ち上げた「AKIYA&INAKA」もその1つ。コロナ禍で日本に住む外国人から「地方の広い家で仕事しながら暮らしたい」とのリクエストが相次いだのがきっかけだった。
当初は日本在住の外国人向けだったが、海外メディアやSNSで取り上げられ、今では問い合わせのほとんどが海外からという。アレン・パーカー社長の米国の実家は築100年。「海外では古さが住まない理由にはならない。むしろ大切に建てられて維持されてきた家は魅力的」と話す。
最近ではドバイ在住の顧客が埼玉県小川町の物件を購入した。現在は米国在住者の「大阪で川のそばに家を持ちたい」というリクエストに応えようと物件を探している。同社は物件探しや内覧同行、書類作成などのコンサルタント業務で収益を得ている。「コロナ前から民泊が広がり、1カ月単位で住むように旅をするスタイルが定着したことも購入を後押ししている」(パーカー社長)
予算の中心は10万ドル(約1500万円)。「セカンドハウスがほしいというニーズは世界中にある。自分の国にはないけれど日本にマイホームをと求める人もいる」と需要の大きさを指摘する。
外国人による不動産購入と言えば投資目的と考えがちだ。ただそれは東京など一部に限られる。チープハウスジャパンのサイトには「日本で家を買うことは喜びへの投資だが、長期的なお金を生む可能性は低い」と書かれている。
治安の悪化懸念や倒壊の危険性などから社会問題化している空き家。人口減と都市への人口集中で地方の空き家は増えている。総務省の住宅・土地統計調査によると、全国の空き家は18年に約849万戸と1998年の約1.5倍。7戸に1戸が空き家だ。2038年に3分の1が空き家になるとの予測もある。
国も対策に本腰を入れ始め、23年12月に改正空き家対策特別措置法が施行された。管理状態の悪い空き家の固定資産税負担が上がることで取引を後押しする狙いだ。
さらに出入国在留管理庁は2日、海外企業に勤めるITエンジニアらが6カ月滞在できる専用の在留資格を新設すると発表した。ジョセフさんらのように地方に拠点を構え、長く滞在する人も増えそうだ。消費はもちろんのこと、滞在中に地域と交流することでイノベーションが生まれ、新たな活力につながる可能性はある。
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