(1) 事案の概要
Xは、平成8年7月、マンションの一室を購入して、妻と共に居住していた。Yは、平成16年2月頃Xの住戸の上階の住戸を賃借して居住した。
Yの居住開始後、その長男(当時3~4歳)が室内を走り回ったり、跳んだり跳ねたりする音(以下「本件音」という。)がひどくなった。
管理組合は、Xの申入れに基づいて、日常の生活音について配慮することを求める書面を各戸に配布するなどし、Xは、Yの住戸を訪ねて話し合ったり、管理会社や警察に相談したりするなどしたが、解決には至らなかった。
そこでXは、機材を購入し、騒音を測定したうえ、Yに対し、騒音の差止め及び損害賠償を請求する旨の調停を求めたが、不成立となった。Xは、不法行為による損害賠償請求権に基づいて、慰謝料200万円等の支払を求めて提訴した。
(2) 判決の要旨
(ア)本件音は、Yの長男が廊下を走ったり、跳んだり跳ねたりするときに生じた音である。本件マンションの重量床衝撃音遮断性能は、LH-60程度であり、日本建築学会の建築物の遮音性能基準によれば、集合住宅の3級すなわち遮音性能上やや劣る水準である。そのうえ、本件マンションは、3LDKのファミリー向けであり子供が居住することも予定している。
(イ)本件音はほぼ毎日Xの住戸に及んでおり、その程度は、かなり大きく聞こえるレベルである50~65db程度のものが多く、深夜に及ぶことや、長時間連続することもあった。
Yは、長男をしつけるなど工夫し、誠意のある対応を行うのが当然であり、Yがそのような工夫や対応をとることに対するXの期待は切実なものであったと理解できる。
(ウ)Yは、床にマットを敷いたものの、その効果は明らかでない。一方、Xに対しては、これ以上静かにすることはできないなどと申入れに取り合おうとせず、その対応は極めて不誠実なものであった。
そのため、Xは、やむなく訴訟等に備えて騒音計を購入して本件音を測定するほかなくなり、精神的にも悩み、Xの妻には、咽喉頭異常感、不眠等の症状も生じた。
(エ)以上の諸点、特にYの住まい方や対応の不誠実さを考慮すると、本件音は、一般社会生活上Xが受忍すべき限度を超えているものであったというべきであり、Xの苦痛に対する慰謝料としては、30万円が相当である。
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