第2回 少額訴訟 <伊坂 重郎 氏 ・ 認定司法書士> |  NPO法人日本住宅性能検査協会 建築・不動産ADR総合研究所(AAI)

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■■ 第2回 少額訴訟

こんにちは。司法書士の伊坂です。コラム第2回目は、少額訴訟のご紹介をしようと思います。少額訴訟とは、訴額60万円以内の金銭支払いを求める場合に、簡易・迅速に裁判所の判決を受けることができる手続きです。

【少額訴訟のできた経緯】
裁判所は、お役所です。土日祝祭日は原則として裁判はしてもらえません。ですから、裁判をするためには、お仕事を持たれた方の場合、お休みを取るか、弁護士・司法書士などに訴訟を代行させる必要があり、経済的な負担がかかります。
また、裁判は通常、何回にも渡ってトラブルの原因を突き止め、その原因に関して両者の意見が食い違う部分を見極め、そしてその部分に関するどちらの言い分が正しいのかを判断していくという作業が予定されていますから、上記の経済的負担が「何度も」当事者の方にかかるという事になるわけです。

少ない金額を支払ってもらうためにわざわざ訴訟を起こすのは、費用対効果の面であまりよろしくない、という事がお判りかと思います。

基本的に、訴額140万円以内の訴訟については「簡易裁判所」という裁判所で審理をしてもらえます。簡易裁判所はその名の通り、他の裁判所と比較して若干手続きが容易になっており、一般の方が専門家に依頼しないでも裁判を受けることができるように配慮されています。ですが、簡易裁判所の容易な手続きであっても、請求する金額が少なければ少ないほど費用の効率が悪くなってしまいます。請求金額が低くても、必要となる手続きは変わらないからです。
これでは、不当にお金を騙し取られたり、貸したお金が返ってこなかったりした場合に、金額が多くないという理由で裁判を受ける事を諦める方が増えてしまいます。

裁判所で公正な判断をしてもらう必要性は、金額の多寡で変わるものではありません。
むしろ少ない金額のトラブルこそ、本当に裁判所の助けを必要としている方が多いのが現状です。
このような理解のもと、平成10年から開始された手続きが少額訴訟手続きであります。


【少額訴訟の特徴】
少額訴訟は、国民が「利用し易い」手続きである事を目標にしています。以下に少額訴訟の特色を簡単に挙げてみます。

① 1日で裁判が終了する。(原則として、裁判所に行ったその日の内に判決が出ます。)
② 証拠は、即時に取り調べることができるものに限られる。
③ 反訴ができない。(被告は別の請求を持ち出すことができません。)
④ 控訴ができない。(上級裁判所に控訴することができません。)
⑤ 当事者尋問、証人尋問の手続きが簡単。(尋問事項書が不要であり、かつ原則として裁判官が主導してくれます)

いかがでしょうか。普通の裁判手続きをご存じでなければあまりピンと来ないかもしれませんが、要は「大した準備をせずに裁判所に行って、裁判官の言う事に答えていれば、その日の内に判決を出してもらえる」という手続きになっています。

消費者金融業者など、少額請求の機会が多いプロにこの手続を独占されてしまわないよう、一年間の利用回数が制限されているのも大きな特色です。

【少額訴訟の注意点】
少額訴訟は、簡単に正しい判断ができる、という前提がなければ成立しません。したがって、裁判所が「この事件は少額訴訟にはふさわしくない」という判断をすれば、少額訴訟をしたいと申し出ても通常の裁判手続になってしまうことがあります。
また、被告の方が「少額訴訟ではなく、じっくりと普通の裁判で判断して欲しい」という場合には、原告が少額訴訟を望んでも通常裁判手続をするしかありません。

また、気をつけなければならないのは「裁判所は、口喧嘩をする場所ではない」という部分です。一般の方が裁判に関わる時に良くあるのが、相手の方がしゃべっている最中にご自分の主張をしてしまうという、初歩的なミスです。裁判は、テレビでよくある言った者勝ちのトーク番組などとは違います。裁判官が、双方の主張を順番に聞き、どちらの言い分に説得力があるかを判断するシステムになっています。相手方が話をしている時は、どんなにご自分の記憶や、意思と違う事を言われてもジッと我慢しなければいけません。ご自分の話す順番になった時に、きちんと説明をすれば良いのです。これは、少額訴訟という簡単な裁判方式であっても変わらないのです。このルールを良く理解せず、裁判官に注意を受けて、裁判官と口争いを始めてしまう方がたまにあります。裁判の結果に悪影響が出るとまでは言いませんが、裁判官に良い印象を与えることは大変重要ですから、注意が必要です。

【最後に】
裁判所に行ってみるとわかりますが、少額訴訟の行われる場所は専門家でない方があまり緊張しないで話せるように工夫されています。「一般国民の権利を擁護する」という裁判所の思いが伝わってくる、というと言い過ぎかもしれませんが、裁判をもっと気軽に利用して欲しい、という事なのです。

日本ではアメリカなどと違い、「訴訟」に対してネガティブなイメージをお持ちの方が多いと思います。たしかに、トラブルがなければ訴訟が発生することはないのですから当然と言えば当然です。しかし、人が自由に行動すれば衝突が起きるのもまた当然であり、第三者が介入する事によって素早く、公正にこれを解決しましょう、というのが裁判所の持つ役割です。当事者の方同士で話し合いを続け、ドロドロのトラブルになってしまう事を防止する事も期待できます。また、裁判所は「和解」という原告被告の相互譲歩を前提とした解決方法を提示する事が多いです。この方法であれば、被告が任意に支払いをしてくれる可能性が高くなりますし、お互いが納得した上でトラブルを解決する事ができます。

インターネットの普及により、通販やオークションなどでの小さな金額の事件も増加しています。他にも敷金返還に関する請求や、自動車の物損事故など、少額訴訟で解決できる事件は意外に多いものです。
簡単なご紹介だけさせていただきましたが、このような紛争解決の途も用意されている、という事を知っておいていただくのも良いのではないでしょうか。