日本版サブプライムローンの懸念   中央大学教授 井村進哉 |  NPO法人日本住宅性能検査協会 建築・不動産ADR総合研究所(AAI)

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日本版サブプライムローンの懸念   中央大学教授 井村進哉

2009.08.28

■サブプライムローン問題とは

サブプライムローンとは信用度の低い借り手向け住宅ローンのことです。アメリカでは住宅ローン市場は10兆ドルを超える規模であり金融市場の中でも最大です。その住宅ローン市場の20%近くをサブプライムローンが占めています。サブプライムローンは証券化商品に組み込まれて世界中に販売されてきましたが、2007年の第1四半期にサブプライムローン市場の15%が延滞となっていることが明らかになると、証券化商品の格付けの引き下げ、価格の暴落となって問題が表面化し、瞬く間にヨーロッパ、日本を巻き込んだ多段階の市場崩壊となって現れました。これがサブプライムローン問題です。


■日本版サブプライムローン問題の懸念-ワーキングプア化する持ち家階層

4月初旬のロンドンでのG20金融サミットで採択された総額5兆ドルの協調的財政出動などで国内の景気の底入れに対する期待感は高まっていますが、依然として回復力は弱く、アメリカの景気動向をはじめ、金融機関の破綻懸念、さらには消費のいっそうの収縮の懸念など景気の下振れリスクを抱えた状況です。
その中で、アメリカのサブプライムローン問題に匹敵する日本版サブプライムローン問題が懸念されており、すでに大量の住宅ローン破産が生み出されています。原因の一つは公庫のステップローンや3年固定金利ローンの金利固定期間のリセットが挙げられます。なぜなら住宅ローンの返済負担額は、ローン商品の選択によっては数百万円も違ってくるだけでなく、固定金利期間を過ぎる(リセットされる)と金利が跳ね上がり、返済負担が一気に重くなるリスクを組み込んだ商品が市場のかなりの部分を占めているからです。
また金融機関が融資態度を厳格化させていることや、折からの景気低迷で頭金も少なく、3年固定金利ローンなどの当初負担の小さいローンを選択し、しかも返済負担能力目一杯に借りているケースが増えていることも住宅ローン破産の原因となっています。
さらに、1998年に2%で史上最低だった旧住宅金融公庫のローンが、11年目に金利が2倍の4%に跳ね上がる「ゆとり返済」、「ステップローン」でのローン破産が心配されています。不況による給与・ボーナスの低迷、削減が、ローン返済に重圧を加えることになるからです。

■政策的対応の必要性

住宅ローンの返済が滞り一定期間がたつと、借り手は期限の利益を喪失し、全額の返済を迫られます。その場合、借り手は持ち家を手放してローンの返済資金に充てることになります。通常は、住宅ローンは民事再生の適用を受けることができないので、担保となる住宅・不動産の任意売却、競売により整理することになります。自分の住む家の売却なると、世間体などから同じ地域にすむことは難しくなり、例えば家庭崩壊につながります。こうした一連の問題点の根本には、制度上、消費者保護の観点が欠落していることがあります。
大幅な住宅減税が2009年度予算で成立し、消費者庁が今秋から設置されます。消費者庁設置法では金融面では、投資信託や外国為替関連商品の金融機関よる消費者向け説明義務規定などは盛り込まれていますが、住宅ローンが借り手=消費者にとってリスク商品であるという認識は希薄です。
従って、消費者保護の観点を確保するためには、第一に住宅ローン商品についてもリスクに関して借り手=消費者に対する説明義務の規定などを盛り込む必要があります。また、ボーナスカットや失業によってローンの返済が困難となった場合に、米国のような差し押さえ猶予規定やローン返済条件の変更(リスケジュール)などのルール整備が求められます。消費者庁の創設に際しては、消費者保護の観点から、日本における個人破産法制に関する制度整備が求められます。さらにクレジットカードや消費者ローンの場合に認められる個人民事再生法の適用範囲を住宅ローンにも適用するための法整備も必要です。現状では担保物件処分の後に残債が存在する場合には、破産した借り手にどこまでも請求が続くこととなり、債務免除益が発生して税務当局による課税の可能性もあるからです。

■生活防衛策-モーゲージプランナーの必要性

何よりも住宅ローン利用者がローン破産に陥らないように、また住宅ローンの選択によっては数百万円の返済負担を軽減できることを考慮して、消費者に丁寧で十分な情報提供活動、コンサルティング、消費者相談ができるようにすること、が求められます。それを担保する仕組みづくりが必要です。そしてその役割を担う立場がMPです。米国ではサブプラムローン問題に関連して一部のモーゲージブローカーが問題を助長したとされますが、準政府機関(NBER)の調査では、消費者への情報提供とリスク軽減の機能を持つモーゲージブローカー資格と教育制度は評価されています。
日本では、2004年の国土交通省の調査研究会で初めて住宅・不動産業界を中心に住宅ローンのコンサルティングをになう「住宅ローンアドバイザー」制度が提唱されましたが、貸金業法や銀行法上の銀行代理店に抵触する住宅ローンあっせん行為をやらず、また顧客から手数料を取らない消費者向けボランティアサービスの担い手となってしまいました。このような中で貸金業登録を通じてあっせん行為に関する法令遵守=コンプライアンスを確保し、消費者からコンサルティング・あっせん報酬を明記して受け取ることによって収益業務であることを前提とした責任ある業務を遂行するモーゲージプランナーの必要性が今後高まってくると考えられます。


(日本モゲージプランナー協会 ニュースリリースより)