第5回 大晦日の不動産鑑定士 <清水達也氏 不動産鑑定士・敷金診断士> |  NPO法人日本住宅性能検査協会 建築・不動産ADR総合研究所(AAI)

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第5回 大晦日の不動産鑑定士

昨今の不景気のため、例年ほどではないにしても、クリスマスから正月にかけて、日本ではお祭りムードとなりますが、この時期、公的仕事に携わっている不動産鑑定士は仕事に追われていることが通常です。理由は、地価公示や相続路線価作業など、基準となる年月日が1月1日のため、年末から年明けにかけて作業が集中するからです。私も例年、大晦日まで出勤し、上記の仕事の外、事務所で一年間の残務整理をします。お酒が嫌いな方でないわたしは、晩から、一杯やることをニンジンにして、仕事に精を出します。

さて、公的仕事も多い不動産鑑定業界で、その柱は以下の通りです。

1. 毎年、1月1日時点の価格を鑑定する地価公示。これは全国3万地点余りの地価を国土交通省から委嘱を受けた鑑定士が鑑定します。この価格は、国や地方公共団体、民間の土地売買など様々な土地価格の指標になります。いわば、母艦のようなものです。毎年、3月に新聞等で公表されています。

2. 毎年、7月1日時点の価格を鑑定する地価調査。これは、前記の地価公示を補完する役割を担っています。都道府県単位で行われ、その調査範囲は、都市計画区域外や山林に及ぶため、その重要性は高いです。毎年、9月に新聞等で公表されています。

3. 毎年、1月1日時点の価格を鑑定、意見を述べる相続路線価。これは、財務省から委託され、相続税、及び贈与税の算定基礎となる価格等を評価します。文字通り、一部を除き、道路に標準的な画地を想定した価格が表示されるため、大変重宝されています。但し、注意をしなければならないのはこの表示価格は市場価格ではないと言うことです。通常、地価公示価格等の概ね8割程度に設定されていますが、単純に計算してもその土地の適正な価格が求められるわけではありません。あくまでもこの価格は課税目的であることに留意する必要があります。この価格も新聞紙上はもとより、インターネットでも数年分が公表されており、閲覧が可能です。

4. 1月1日時点の価格を鑑定する固定資産評価。これは特別区及び市町村などから数年ごとに委託され、土地固定資産税等の基礎となります。この路線価についても市町村等で路線価の閲覧が可能です。

5. 競売に係る評価。これは、裁判所に登録された評価人が競売開始決定された不動産につき、評価を行います。買い受け希望者は、管轄裁判所やインターネットで物件に関する情報を閲覧することが出来ます。

6. 公売に係る評価。これは国へ物納等がされた不動産に対して公売価格を鑑定します。財務省の各財務局等で定期的に冊子が置かれている外、インターネットでも閲覧が可能です。7.地方公共団体等の用地買収や売却などの際に委託される鑑定評価。道路を造ったり、公的な建築物の用地を取得するため、または民間への土地払い下げなどのために鑑定評価が必要になります。

7. 各法令に基づく鑑定評価。例えば、土地収用法や土地区画整理法に基づき、鑑定評価を行うこともあります。挙げれば、切りがないですが、不動産鑑定評価は、全国の土地及び建物、各種権利に深く関わっています。

これらを評価する不動産鑑定士の責務は重く、日々、研鑽を積まなければ、立ち行きません。複雑な案件に出会えば、その本質を見極め、適正な価値を導き出すために、収集分析した資料を何度も見ては、悩み、考え、現地に何度も赴き、また、悩み、考えるという作業の繰り返しです。その作業のために不動産鑑定士には大晦日も無いのかも知れません。しかし、鑑定評価書が出来上がった時の充実感は何事にも代えがたいものがあります。おそらく、新年も不動産鑑定評価三昧の日々となることでしょう。

これが私の生きている間の使命であると感じます。本年も宜しくお願い致します。