第2回 不動産鑑定士の一週間 <清水達也氏 不動産鑑定士・敷金診断士> |  NPO法人日本住宅性能検査協会 建築・不動産ADR総合研究所(AAI)

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■■ 第2回 不動産鑑定士の一週間

 公的評価や金融機関の担保評価、減損会計、証券化、裁判鑑定などが業務の主流のため、普段、不動産鑑定士がどのような日々を過ごしているか、一般の方々にはなかなか目に触れる機会がないと思いますので、今回は不動産鑑定士の一週間を述べてみたいと思います。
 朝、9時出社。昨日依頼を受けた鑑定物件について、依頼者から頂いた概要資料を基に机上で大枠を把握。今回の案件は活動エリアでもコアになる東京都郊外のため、とりあえず現地踏査に行くことにしました。対象物件が貸家及びその敷地(雑居ビル)の資産価値評価のため、最寄り駅からの距離や街並みなど地域の把握から始まり、対象不動産の概況をじっくり見て、頭の中で評価方針を固めるためです。テナントの種類や空室状況、建物の品等、そして土地の形状などを周辺地域の類似建物も含め、外観一次調査を行います。
 次に最新の権利関係を明確にするためと入手資料の再確認のため、法務局へ赴き、全部事項証明書、公図、地籍測量図、建物図面を取得しました。ここで、隣地境界及び所有者を明確・特定するため、隣接地などの全部事項証明書も取り、喫茶店でその概況を補助者と検討し、その後、管轄市役所へ。ここでは、用途地域や地区計画、道路関係、建築関係、供給処理施設、埋蔵文化財、土壌汚染関係などを手分けをしてヒアリング。道路が都道であることが判明したため、後日、東京都建設事務所へ図面の取得、及び建築可能性を調査に行く段取りとしました。
 事務所に戻ったのが、夕方です。調査一覧をチェックシートに入力した後、どんな問題点があるか、図面等を見ながら、検討します。今回、正面道路と鑑定地に介在する帯状の土地が存在し、この土地如何で建築の可否が決まるため、より深く、行政調査を行う必要があることを確認、夜9時に帰宅しました。
 翌朝、依頼者に連絡を入れ、内部調査の日時を調整、その後、建設事務所で聞き込みをしました。その結果、帯状の土地も含んで道路認定されており、建築上、問題のないことを確認し、ひと安心。その後、鑑定地と類似する土地の成約事例を収集、選択した事例を現地調査、そして行政調査を数日かけて行いました。その間に依頼者立ち会いの下、2次調査が始まりました。建築図書の抜粋を片手に建物の内部調査(写真撮影も含む)、及び土地状況を精査し、依頼者よりテナントの賃貸状況資料、固定資産税関係資料、管理状況資料を頂き、事務所へ。 これら個別の調査と平行してマクロ分析、地価動向などの資料も収集、分析を行います。土地については、土地価格を評価する全資料が先に集まったため、土地価格の鑑定に移行します。今回、建物については、実際の賃料水準にかなりバラツキがあるため、標準的賃料を把握することが必要となり、業者ヒアリングや賃貸事例収集を後日あらためて行うことになりました。その間に、鑑定評価報告書(発行する鑑定評価書の素案)の作成が徐々に完成形に近づいていきます。そして、建物関連資料が揃った段階で調整前鑑定評価額まで辿り着くのです。この後、最終的な価格の調整、検討、再吟味などを経て、推敲を重ね、鑑定評価書が出来上がります。今回の案件は所謂貸しビル評価のため、収益からのアプローチが重視されますが、当然土地や建物の市場価値も比較考量されます。鑑定評価書の交付日、前記のようにテナント賃料にかなりのバラツキがあったため、賃貸借契約の内容やその経緯等を含め、依頼者とよく話し、アドバイスも行いました。その結果、この時期にしてもかなり低廉な賃料のテナントがあったため、後日、テナントとの交渉の末、更新後、値上げすることができました。不動産鑑定士にとって、価格評価は基より、これから派生する諸問題のアドバイスも重要な業務の一つであると考えます。