〔質問)
借主に責任がないと思う部分の修理費用まで請求された。
契約書に書かれていた場合には、泣く泣く従うしかないのか?
〔回答)
民法第598条1項では、
「借主は借用物を原状に復して之に附属せしめたる物を収去することを得」という規定を設けています。
これがいわゆる「原状回復」義務のもっとも根本的な意味であり、
「物件内に持ち込んだものを撤去したり、壁に貼ったポスターなどを取り外したりして
持ち出すことができる」ということを定めているに過ぎないのです。
当然ながら、このような原状回復義務から派生する修繕義務は非常に軽微なものに限られることになります。
一方、家主には、民法第601条1項において、
「賃貸借は当事者の一方か相手方に或物の使用及ひ収益を為さしむることを約し
相手方か之に其賃金を払ふことを約するに因りて其効力を生す」という規定で、
家賃という対価を得ている以上「使用収益させる義務」があるとしています。
そして、使用収益させる義務から、家主には物件の修繕を行う義務があるとしているのです。
ところが、すべてを家主の修繕義務にしてしまうと、軽微な修繕についても、
家主が修繕してくれるのを待つしかなく、それではかえって生活に支障が出るため、
「修繕費用の借主負担特約」を設けて、「軽微な修繕については、家主の承諾を得ることなく、
借主が自らの費用で修繕を自ら行うことができ。生活の不便を解消することができる」ようにしたのです。
つまり、もともと、民法の原則である「家主の修繕義務」をあらゆる場合に適用すると、
かえって不便な生活になる可能性があるために、「修繕費用の借主負担特約」が考え出されてきたのです。
ところが、世の中には悪賢い人もいるもので、「修繕費用の借主負担特約」が誕生した背景と趣旨を無視し、
「あらゆる修繕費用を借主負担とする」というようなとんでもない内容の
「修繕費用の借主全面負担特約」が生み出されてきて、それが全国的に普及してきたのです。
そこで、判例においては、このような「修繕費用の借主全面負担特約」については、
本来の法律上の考え方や特約が誕生してきた背景とは食い違い、このような特約の存在を許せば、
借主に一方的に不利になることから、「家主の修繕義務を免除したに過ぎず、
借主の全額負担を求めるには、それだけの特別な理由が必要である」として、
よほどの特殊な事情がなければ、「修繕費用の借主全面負担特約」の効果を否定しています。
なお、2001年4月以降の契約においては、
消費者契約法の「消費者の利益を一方的に害する条項は無効である」という規定に反しますので、
消費者契約法によって、このような特約は無効となります。
(0203)