臨時国会も残すところ2週間となりました。台風災害を受けた補正予算編成、日米貿易協定の承認をはじめ、国内外の難題が山積しているなかで、桜を見る会の騒動に終始しようとする野党側の対応にはあきれております。
すでに安倍総理が来年度の会の中止を決定されました。もちろん疑義を持たれるようなことがないよう運営の見直しはしなければなりませんが、内閣委員会で討議すべきことで、重大な国政上の課題を論じるべき予算委員会をスキャンダル追及の場にしてしまう悪弊は、どうにかならないものでしょうか。
自衛官の初任給引き上げ案
陸上自衛隊サイトより
野党側の対応で困惑したことといえば、自衛官の初任給を引き上げる防衛省職員給与法の改正案を可決した際、日本維新の会だけが反対したことが挙げられます。政府の安全保障政策でことごとく対立している共産党ですら賛成に回った中でのことです。
今回の改正案は、初任給を、任期制の自衛官候補生は月額8600円増の14万2100円に、定年まで雇用する一般曹候補生は、9300円増の17万9200円にそれぞれ引き上げるものです。この「初任給」というところがポイントで、折からの少子化と人手不足により、自衛官の採用がうまくいっていない状況が背景にあるのです。
グラフは東京新聞より引用
自衛官候補生の採用は、2013年度こそ「充足率」が100%超、つまり採用計画を上回る人員を確保できましたが、その後の充足率は落ちこんでいます。特に2年前に8割を切ってから、減少傾向が加速しており、危機的といえる状況なのです。
防衛省も、採用の上限年齢を現行の26歳から32歳に引き上げ、女性隊員の配置制限撤廃・活用などの対策に手を打っていますが、現場の一線を担う若い隊員の充足率低下に歯止めがかかっていません。
このまま行くと、近い将来、PKOなどの海外展開に人員を割く余裕がまずなくなるという悲観的な意見も出ています。そうなれば、日本の国際的なプレゼンスの低下につながります。
わかりにくい維新の反対理由
それでも、維新はなぜ反対しているのでしょうか。実は、維新は、これまでにも自衛官の給与引き上げに反対しています。維新というと「身を切る改革」=「公務員待遇切り下げ」を思い浮かべてしまいますが、さすがにそこは否定しているようで、過去の反対討論の内容などによれば、
・自衛隊の待遇改善のために、人員の増強を図ることで、自衛隊員の個々の負担を減らし、また、その仕事の危険度にあわせた危険手当を増やすことが重要。
・ほかの公務員と同じく人事院勧告に基づいて、自衛隊員の給与査定が経済で左右される民間給与に左右されることはあってはならない。
要は、自衛隊の待遇改善には賛成だが、公務員の給与制度を抜本的に改革しないから反対ということのようです。
しかし、自分たちの理想を言いたいがために、目の前にある自衛官の人手不足の危機を後回しにするような姿勢はいかがなものでしょうか。音喜多議員のブログによれば、維新内部でも「自衛隊員の給与法案だけは賛成でも良いのではないか?」という意見が一部の議員から挙がっていたようですが、結局、最終的には自分たちの政治姿勢を示すことを優先されたわけです。
維新の議員は、ほかの野党と比較して「自分たちは揚げ足取りだけの万年野党とは違う」と、よくアピールされますが、この自衛隊給与に関する対応については、どこが違うのでしょうか。
10月の台風19号で救助活動中の陸自部隊(陸自ツイッターより)
外交・安全保障の見識は、一朝一夕に身に付かない
引き上げ法案は、日本の安全保障に影を落としている隊員不足の危機をなんとかしなければならないという「政治的なメッセージ」にもなります。それは自衛官の皆さんはもとより、国民、そして自衛隊の動向をにらむ周辺諸国にも伝わっていくことを考えると、全会一致で決議してもよい重い問題です。維新の姿勢は内外への間違ったメッセージにもつながりかねません。
振り返れば、今年は維新の外交・安全保障感覚を疑う事態が相次ぎました。5月には、当時所属していた丸山穂高衆議院議員が北方領土を訪問中に、戦争をしないと領土を取り返せないという趣旨の暴言を放って国際問題になりました。
その直後には、党幹部がロシア大使館に謝罪に訪れたことも波紋を呼びました。領土問題は複雑な歴史的・外交的な要素もあるわけですから、ただちに謝罪してしまえば、かえってロシア側の思う壺になりかねず、慎重を期するべきだったと考えます。
政権担当能力、特に外交・安全保障の見識は、一朝一夕に身に付くものではありません。やはり今の与党以外に総合力を備えたところはないのではないでしょうか。最近の政治ニュースをご覧になった有権者の皆様から、私自身も地元で厳しいお言葉をたまわりますが、それもまた政権を託していただいている責任の重さだと噛み締める日々です。
※ 2019年11月26日「アゴラ」掲載原稿