5月28日、川崎市でスクールバスを待っていた私立カリタス小学校の児童17人と、近くにいた大人2人が包丁を持った男に襲われ、6年生の女の子と、保護者の外務省職員がお亡くなりになるという凄惨な事件が起きました。犯人の男は自殺したといい、あまりの身勝手な犯行に、一報を聞いた時は、ただただ怒りに震えるばかりでした。

 

同時に私は大阪府知事時代に直面した、大阪教育大学附属池田小学校で8人の児童が侵入した男に殺害された事件を思い起さずにはいられませんでした。6月8日には事件から18年が経とうというときに、またも大勢の子どもたちを巻き込む「テロ」が起きました。学校、行政、警察それぞれの現場で再発防止に向けて努力してきたことが、こうも簡単に打ち砕かれたことに言い知れぬ悔しさを覚えます。

 

池田小学校の殺傷事件の後、私は文科省と連携し、校門に警備員さんを配置するとともに、防犯カメラの設置を加速させました。ただ、私が最も心を砕いたのは子供たちの心のケアです。

 

報道によれば、カリタス小学校の保護者会では、けがを負った子どもたちの心のケアについて申し入れがあったとのことです。すでに神奈川県や川崎市でも動かれていると思いますが、ここは行政側としてできること、やるべきことが多々あります。

 

池田小の事件直後、私も現場で先生方にお見舞いと同時に、要望を聞き取り、大阪府から精神科の先生たちを学校に派遣して、先生方に具体的なケアの方法について説明しました。大阪府には当時、精神医療に詳しい職員が100人近くいたと記憶していますが、できるだけ多くの人員を割いて事件に向き合いました。大阪教育大学からも、児童心理や臨床心理の教授などを派遣してもらいました(カリタス小学校もすでに外部の専門家のお力を借りているようです)。また、文科省や近隣の自治体とも連携してケアの体制づくりを急ぐ必要があります。

 

しかし、それでも、子どもたちの心の傷、PTSDを癒すのは簡単なことではありません。それを思い知らされたのは、当時の被害者のみなさんの声。亡くなった児童の同級生たちが、メディアに少しずつ思いを語られるようになったのを報道で知ったのです。

 

大人になった皆さんが事件から15年経った3年前、NHKの取材に応じ、事件後も、深い喪失感や、心身の異変、誰かに後をつけられているのではないかという恐怖感、亡くなった友人に申し訳ないという思い、こうした心の傷を抱えてきたことを語っておられました。あらためて、その苦悩がいかに大きかったのか、当時の行政責任者の一人として重いものを突きつけられた思いがします。

 

子どもたちの心のケアは長く苦しい戦いです。これから多感な時期を過ごしていく中で、ご家庭や学校だけでは追いつかないところもある。行政として支えるべきことはもちろんですが、社会に生きる私たち一人一人にもできることはあるはずです。

 

 

最後になりましたが、亡くなられた栗林華子さん、小山智史さん、ご遺族の皆さまに心からお悔やみを申し上げます。けがをされた児童、保護者、カリタス小学校の皆さまにお見舞い申し上げます。